夜花祭
「退避は終わったか?」
「はい。推測されている夜花祭の範囲内に人は居ません。」
「魔族は?」
「何れも確認されていません。」
――――
道の真ん中に立っている渚の足元に、黒い彼岸花が咲き始める。
――――
前兆の第一段階…
「範囲誤差なし、顕現時間誤差3分。」
「許容範囲だ。」
――――
昼間だった空が暗く染まり、夜になり始める。
――――
第二段階…
――――
遠くから祭囃子が聞こえ始める。
――――
第三段階。…お、服装も変わったか。
――――
渚の服装が浴衣に変わる。
――――
……相変わらず見た目だけで、感触は変わらず…と。
――――
風景が都市から夏祭りの屋台が並ぶ空間に切り替わる。
――――
「夜花祭、完全顕現です。」
「寄ってきた魔物は?」
「…現在調査中です。」
……やる事無いし、その辺の屋台からなんか買うかな。
――――
渚は周囲の屋台を見渡し、目当ての物を見つけた。
――――
「すいませーん、りんご飴一つ下さーい。」
――――
屋台の中にいる黒い影が、りんご飴を渚に手渡した。
――――
「お代は…」
――――
黒い影がそれを断るような身振りをする。
――――
前と同じか。
「ありがとうございます。」
――――
黒い影が見送るように手を振る。
――――
「…やっぱこれ自体には敵性無いんだよな。」
「問題は、これに寄せられる魔物や魔神ですからね。」
「強いて言える脅威が、空間の上書きと入場不可ってぐらいだからな。」
ま、その辺をどうにか出来ないから区分が魔神になってるんだが。
…?
「おい葉月、」
「…確認しました。…二名、いえ三名の反応が夜花祭の領域内に侵入しました。」
――――
渚が手袋を嵌める。
――――
白くなってる部分を黒に、あとは服装と…認識。
「【木の葉:面】」
――――
詠唱を終えると同時に、渚の見た目が変化する。
――――
◆
「わ、」
――――
三人の服装が浴衣に変わる。
――――
…なんだこれ?
「変な感じ。…服の感じ変わってないね。」
「…確かに。」
変な感じしたのはそのせいか。
「……で、ここはどこだ。」
――――
森から抜けた所に、祭りの屋台が広がっている。
――――
…屋台?人…っぽいのがいる。
「夏祭りみたいだね~。」
「浴衣…屋台……あ、」
「……多分魔神だな、これ。」
「これ…というと、屋台とかの事?」
「いや、この空間自体の事だ。確かこういう魔神がいた筈……」
「正解。この空間自体が魔神だ。」
――――
どこからか現れた蒼が三人に話し掛ける。
――――
「先生!?どうしてここに…」
「私がこれの担当だから。三人はどうしてここに?」
「魔物を追っていたらここに着きました。…外から直接ここに来た訳では無いと思います。」
「…とりあえず三人とも、ここから出ようか。付いてきて。」
――――
四人は買い食いしつつも、祭りの舞台から外れた場所に着いた。
――――
「……ここかな。ちょっと下がって。」
――――
何もない空間に穴が開く。
――――
「ここからなら外に出れるよ。…あ、ここで買った物とか服装は向こうに持ってけないからね。」
「残念。よさげなお面見つけたのに…」
「…ほらほら、帰った帰った。」
――――
三人は穴を潜り、夜花祭の領域外に出た。
――――
…気のせいかな。
◆◇
ちょっと感づかれてたか。…やっぱ魔力の有無で認識のそれに差異が出るね。
でもって魔物か……三人がここに直接来たって事は空間系…でも空間系結構分かりやすいはずなんだが。
めちゃくちゃ隠蔽に振ってるとか?…とりあえず行ってみるか。
「葉月、座標。」
「五時方向へ。」
――――
渚は社の所に辿り着いた。
――――
随分と古いな、下手すると崩落以前の……
!
――――
無数の腕と足が渚を襲う。
――――
魔物の域じゃない、魔神の類か。…この手の奴は刹の方が得意なんだが……
――――
攻撃を盾と結界で受けつつ、無数の剣を社へ飛ばすが…直撃した剣が解れるようにして消える。
――――
……魔術が解けた。強制解除の能力か?
――――
互いに攻撃が続く。
――――
なら単純な魔力は?
「【魔弾】」
――――
衝撃波が飛ぶが、搔き消される。
――――
違うな、魔力を打ち消してるのか。…楓が居て何で相手出来ないのかと思ったら、成程これは無理だ。
なら下手に近づくのは悪手か。夜…も、腹の中で使いたくないし……これ相手じゃテストできなさそうだし。
「葉月ー、刹呼べる?」
「少々お待ちを。」
――――
渚が防戦気味になり始める。
――――
「…来れるそうです。」
「【星は先へ】」
――――
下向きに門が開き、そこから男が落ちてきた。
――――
「やあ刹。」
「……また急ですね、何の用ですか?」
「あれ閉じ込めて!」
「…入りますかね。」
「行ける行ける、あれの本体は小さな像だから。」
――――
刹が背負っていた棺を構える。
――――
「【六文銭】」
――――
次の瞬間、全ての攻撃が止んだ。
――――
「…終わりました。」
「ありがとね。…やっぱ便利だねえ、それ。」
「術式回路に刻めれば、俺は寝ててもいいんですが。」
「そんな便利アイテムじゃないさ。知ってるだろ?」
「…やっぱ完全コピーは南宮以外無理なんですかね。」
「そうなんじゃないかな。」
「それじゃ帰してください。」
「はいはい。」
――――
刹の足元に門が開く。
――――
……さて、あと二日は待機かな。




