八百万もいるんだ、悪いのもいる
◆
「追って…来なくなりましたね。」
「今の内に出るぞ。まだ走れるか?」
「はい、行けます。」
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二人は走り続け、神域の端へと辿り着いた。
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「……楓、先に出ろ。」
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楓が先に神域の外へ足を踏み入れる。
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「!星野さん――」
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直後神域が変化し、楓と真司が分断される。
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魔術…は駄目だ、星野さんを巻き込んじゃう。なら別の所から……
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神域は形を変え続け、楓の付近には即座に再度侵入できるような場所は無かった。
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……急がないと。
◇
「…逃がしましたか。」
「ああ。なんか閉じそうだったんでな。」
「……勧誘に靡く気はありませんか?」
「無いね。俺は誰かにガッツリ従う気は無い。」
「…そうですか。」
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男は細長い杖を、真司は刀を、それぞれ構える。
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一心、明鏡止水――
「――『天殺星』!」
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空間毎男を切り裂…
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ちっ、加速前に止められたか。
「一体どういう理屈で空間へ干渉出来ているのか……」
「『天退星』!」
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刀を握っていない左手で男を殴る。
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「おおっ…」
「ちったあ効いたか?!!」
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血こそ出てはいないが、男には確実にダメージが入っている。
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「……空間切断、防御無視…細胞が幾らか吹き飛びましたね……」
…治そうとしてるな?
「『天殺――」
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真司が技を発動する前に、刀が宙を舞う。
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「……私の神権は「夢想」。未だ及びはしませんが、かの「法則」や「混沌」にも届き得る物です。」
「私に足りないのは純粋な力。…神域が力の指標だとするなら、それらはまさに最強……」
…何言ってんだ?
「吹き飛べ」
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真司が壁に叩き付けられる。
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!……くっそ、動けん…
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まるで重力が切り替わったかのように、真司は壁に押し付けられ続ける。
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「…最後通告です。私に従う気はありますか?」
「……無いね。言ったろ?人にガッツリ従う気はない。」
「残念です。」
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神域が更に変化し、真司を捕縛する。
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…血が……いい事思いついた。
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口の中に流れ出た血を、
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――『天哭星』!
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勢いよく吐き出した。
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「……先程とは違う、貫通特化ですか。」
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が、男はそれを躱した。
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「今のが最後だ、殺すならさっさとしてくれ。」
……力不足を呪うか。
◆◇
「手を出すなら私が先だろ!」
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上から無数の剣が降り注ぎ、その最中で渚が男が競り合う…が、煤が男に傷を付ける。
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「強度…いや法則無視…!」
「分析が早いな!…一応聞く。元の世界に戻るか、私に従うか、ここで死ぬか。どれを選ぶ?」
「…私に貴女が従ってもらいます!」
「そう、か!」
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煤が男を両断する。
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「…ははっ、まさに無法!…では、私はこれで。」
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押し負けたのか、神域が崩れ始める。
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「そこの方の拘束は解きました、お連れ帰りください。」
「……お前、名前は?」
「「夢想」…ああ、これを聞いている訳では無さそうですね。」
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渚が真司を転移させる。
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「…では、エドガーとお呼びください。」
「そんじゃ私も。…「不滅」の渚だ。」
「それでは、またお会いしましょう。「不滅」の渚様。」
「またなんて言わなくていい、今殺す。「星灯」、夜!」
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黒い斬撃がエドガーを襲うが、崩れた神域が一瞬渚の視界を覆い…
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…逃したか。
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神域が閉じ切ったが、既にエドガーの姿は影も形も無かった。
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「葉月、追えるか?」
「…無理ですね。恐らく、僅かながら神域を展開し続けていると思われます。」
「……私でも探知出来ない程度に、か。…全く、面倒なのを取り逃がしたもんだ。帰るぞ。」
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星が煌めいた。
――――
◆◆
「…全く、愉快な世界に来たものです。」
……ですが、この傷はかなり痛いですね。…当分は体を癒す事に専念いたしましょうか。
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エドガーの体には外見的な損傷こそ無いが、それは「夢想」で誤魔化しているに過ぎない。
神域が殆ど閉じ切った今、神権の力が弱まった事でエドガーはかなり弱っている。
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「……そこの貴方、攻撃をするなら今ではありますが…最善では無いかと。」
「…逃がしません。」
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楓が銃を構える。
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やれやれ。
「私は現在負傷しています。ですが、貴方を倒す程度の事は出来るのですよ。」
「沈まれ」
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楓の精神が沈み、地面にへたり込む。
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「一時的な物です、それでは。」




