洞窟の主(3)
2匹目のゴブリンが、豚のような鳴き声をあげながら飛びかかってきた。
技術などない。ただの本能と暴力の塊だ。
俺も、熟練者なんかじゃない。
脚が震え、腕は悲鳴を上げている。
反応できるのは、ほとんど本能だけだった。
間一髪で回避。
骨の棍棒が空を切り、俺の脇をかすめる。
右手に握った針が、反射で動いた。
チクリ。
チクリ。
チクリ。
ゴブリンの胸や腹に、小さな穴を開けていく。
血が滲み出るが、それだけでは倒せない。
「クソが……!」
一瞬の隙。
手首をひねる。
針は喉元に突き刺さり、後頭部から飛び出た。
ゴブリンは痙攣し、黒い何かを吐き出しながら地面に崩れ落ちた。
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だが、休む暇はなかった。
ガツ…ッ。
一歩。
ゴブリンのリーダーが、静かに近づいてくる。
手には棍棒。目には殺気。
「こいつ…分かってる。俺が消耗してるのを…!」
打ち合う。
俺の突きは速い。でも、全部防がれた。
攻撃を避けるだけで精一杯。反撃の余裕はない。
浅い傷を与えることしかできなかった。
(このままじゃ…押し切られる!)
俺は叫んだ。
「ユニークスキル【縫合】、起動!」
目の前に、透けるようなウィンドウが現れる。
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《ユニークスキル:縫合(EX)》
使用可能なアクション:
▷ 切る
▷ 縫う
▷ 測る
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(今は切るでも縫うでもない……賭けるしかない!)
「測る!」
チカッという音とともに、視界が変わった。
無数のラインが浮かび上がり、
相手との距離、攻撃範囲、回転速度、死角――
すべてが数値と図形として現れる。
「…まるで、生きている布地を仕立てるみたいだ」
俺は一歩、横に跳ぶ。
ゴブリンが振り向く。その動きが――遅い。
見えた。
しゃがみ込み、滑り込む。
精密に狙いを定めて――
針を喉下から突き刺し、頭蓋を貫いた。
ゴブリンは震え、しばらくして倒れた。
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《敵撃破:ゴブリン・リーダー》
獲得経験値:45
レベルアップ:Lv2 → Lv3
スキル獲得:「針の扱い:Lv1」
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俺は針の先を地面に立て、杖のようにして支えた。
疲労はある。
だが、立っていられる程度には動ける。
「……ふぅ、なんとかなったか」
汗をぬぐい、呼吸を整える。
その時だった。
視界に、新たなラインが浮かび上がった。
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距離:12.7メートル
対象:検出
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顔を上げた先に――
いた。
灰色のオーク。
唸り声もなく、静かに息を吐く。
ズズ……
ズン……
ズン……
重たい足音が、空気を揺らす。
血と肉を踏み潰す湿った音。
(……まだ終わらせてくれない、ってことか)




