しらを切る 3
一通り、説明は終わった。
幸太郎はできる限り質問に答えた。
だが、当然、自分たちに結びつきそうな質問は
『知らない』とはぐらかしている。
相手に有益な情報を提供しつつ、
自分たちの行動については
『しらを切る』・・・。
これで相手は幸太郎の言うことを
信じるようになるのだ。嘘をつくときは、
真実の中に嘘を混ぜればいい。
相手も、その嘘を信じたくなる。
グリーン辺境伯は最後に幸太郎に尋ねた。
「その『呼び声の指輪』は、複数あるのかね?」
「おそらくは」
幸太郎はやや沈痛な面持ちで答えた。
これは事実だろう。
あの呪いが付与された指輪が
1つだけということは考えられない。
・・・残念ながら。
「二コラの時も思ったが、
まさか悪魔崇拝者が、こんなに身近にいるとはな。
・・・いや、オーガス教とリーブラ教も、
民が知らないだけで、元はと言えば悪魔崇拝か・・・。
しかし、教会は、ここまで拡大していると、
浅慮で叩き潰すというわけにもいかん。
困ったものよな」
「先日の孤児院など、社会に貢献しているのも
否定できません。
それに、オーガスやリーブラの正体が悪魔だと
知らない者のほうが多い以上、
手は出さないほうが無難と思われます。
隣人に寛容であれ、とか、人には公平に接せよ、など
道徳的に社会に必要な部分も担っていますし・・・。
困ったものですね・・・」
グリーン辺境伯も苦笑してため息をついた。
「ふう。対策は何も打てないかもしれんが、
少なくとも『黒い指輪』だけは禁止にしておくか。
幸太郎君、今日は来てくれて助かったよ。
ヨッカイドウの中央政府に
報告を入れねばならんのでな。
『何もわからん』では陛下に合わせる顔が無い。
もし『ナイトメアハンター』に会ったら、
代わりに礼を言っておいてくれたまえ。
どうせ、彼は呼んでも来ないのだろう?」
「ええ、彼はどこにも属さない、風来坊です。
なぜ悪魔と戦うのかと聞いたら、
『なんか気に入らない』からだそうですよ。ははは」
「だが、頼もしい存在だ。オーガス教、リーブラ教の
『聖騎士』が『デーモン』を討伐したなどという話は
聞いたことがないのでな」
「言われてみれば確かに・・・。
冒険者ギルドでも、職員の中に
『ナイトメアハンター』の
ファンが増えているそうですよ。
『聖騎士』が悪魔と戦わないせいかもしれませんね」
「コナのオーガス教の『聖騎士』が
人狩りだったという話は聞いたが、
いったい何と戦っているのやら。
そのうち『ナイトメアハンター教』が
できるやもしれんな。
はははは」
「彼はあくまでも人間ですよ。
彼は、毎朝、太陽に手を合わせていますから、
そちらをマネするほうが良いと思います」
「ほほう・・・太陽に?
ふむ、面白いな・・・」
話はこのあたりで切り上げることになった。
グリーン辺境伯はこれから念話で
ヨッカイドウの中央政府に
報告を入れなければならない。
ギルドの食堂でエーリッタとユーライカ、
クラリッサとアーデルハイドと合流して
晩御飯だ。
もちろん噂の収集も兼ねている。
だが、特に自分たちに繋がりそうな噂は無かった。
どうやら証拠隠滅が功を奏したらしい。
こっそり勇者アールスの様子を探ってみたようだが、
まだベークホースたちが帰ってこないことにすら、
気付いていないらしい。
いや、彼らは『デーモン』と『闇の落とし仔』として、
堂々の帰還を果たしていたのだった。
しかし姿が変わりすぎて、もう誰にもわからない。
ノーダルたちのことは、誰も気に留めていない。
冒険者には『よくあること』だからだ。
ここで念のため『デーモン』の警備についていた
キャサリン支部長が帰ってきたので、
幸太郎たちを支部長室へ招いた。
幸太郎たちは、グリーン辺境伯にした説明を
キャサリン支部長とべリンガムにもう一度行った。
各地の冒険者ギルドに『デーモン』について、
正確な情報を流したいという。
この日の冒険者ギルドは夜遅くまで忙しそうだった。
就寝時。
今も幸太郎は1人で1部屋使っている。
隣の部屋はモコ、エンリイ、エーリッタとユーライカ。
クラリッサとアーデルハイドも別の部屋だ。
1つの部屋は基本的に4人用。
幸太郎は、ベッドに腰掛けてぼんやりと考える。
(今日・・・なんか、みんな距離感が妙に近かったけど、
みんな俺の事好きなのか・・・?)
だが、幸太郎は首を振る。
(はは、まさかな・・・。夢見すぎ。
あれほどの美女たちが、全員俺を好きなんて、ありえん。
夢は寝て見るもんだってーの)
幸太郎は、高校の時『身の程』を知った。
『あんた自分が誰だかわかってるの』と笑われたことを
しっかり記憶している。
(それにしても、モコとエンリイは、みんなが
俺にくっついても、不機嫌そうじゃなかったな。
俺の事嫌いになったって・・・わけじゃないよなぁ・・・。
むしろ、ニコニコと嬉しそうに・・・。
なんでだ・・・?)
幸太郎は考えた。だが、答えは決まっている。
(・・・全然わからん・・・)
結局、幸太郎は女に免疫が無く、女に弱いのだ。
こういう時、全然頭が働かない。
ルイーズが『ナイトメアハンターの妻の1人になりたい』と
言ったことも憶えてない。
『妻の1人に』、
つまり一夫多妻も、逆の一妻多夫も、
この世界では禁止されていないのだ。このことは
幸太郎の脳が勝手にスルーした。
おっさんは都合の悪いことや苦手なことは、
すぐに忘れる生き物だ。
幸太郎は考えるのをやめた。
ベッドの上で謎の踊りを踊ると、
そのまま寝た。変態である。
翌朝、ギルドの食堂で朝食を食べていると、
グリーン辺境伯の騎士団が、
『干からびたデーモン』を
中央広場で公開すると宣伝しているのが聞こえた。
「二コラの時と同じですね、ご主人様」
「まあ、倒したのは『ナイトメアハンター』でも、
治安維持に成果を出してる宣伝にはなるさ。
人間は共通の『敵』の前では団結する生き物だし。
利用できるものは利用するべきだよ。ははは」
「幸太郎サン、じゃあ今日は休養日にする?」もぐもぐ
「ああ、二コラの時と同じパターンだと、
『あいつら』がやってくるだろう。
ギブルスさんも
昨日はユタにいたらしいから、じきに来るよ」
その時、モコの耳が『ぴこぴこ』と動いた。
「あ、もう来たみたいです。今日は一段と早いですね」
ギルドの入り口にワイルドイケメンと
2メートルくらいある巨漢が姿を見せた。
ギルドの内部がざわつく。
それは仕方ない。
なにしろ彼らは『B級冒険者』だから。
「お、いたいた。いよーう、幸太郎」
「おはよう、ジャンジャック、グレゴリオ殿。
やっぱり干物が気になるかい?」
「当然だろ? 本で読んだことはあるが、
実物なんざ初めてだからな」
「俺もジャンジャックも、こういうものが見たくて
冒険者になったようなものだからな。
見逃すという手はない。わははは」
ジャンジャックとグレゴリオは椅子を持ってきて、
幸太郎たちと同じテーブルについた。
幸太郎が料理を大量に追加注文する。
この2人もバカスカ食べるからだ。
幸太郎とジャンジャックとグレゴリオは仲良く話をする。
当然、目立つ・・・。
『B級』の2人と知り合いどころか、友人となれば、
誰だって『すげえ』『うらやましい』と感じるもの。
『B級』は冒険者の最高到達点だからだ。
まるで上級貴族のような社会的敬意が払われる。
『使い捨ての日雇い労働者』とは雲泥の差。
リーティスラーナは『A級』だが、
待遇はB級と同じなので、
内容としては大して意味は無い。
ただ、リーティスラーナにとって
『A級』であることは
『ある目的』のために絶対必要条件なので、
頑張って昇格した。
ギルドのカウンターで『今日は休養日』と伝えて、
宿に戻る。ギルドの職員たちはB級の2人を
憧れの目で見た。
その強さもさることながら、
『カネ・カネ・カネ』の下品な冒険者たちとは
一線を画す存在だから。
幸太郎の部屋に全員が集まって、状況の説明をした。
幸太郎、モコ、エンリイ、エーリッタとユーライカ、
クラリッサとアーデルハイド、そして
ジャンジャックとグレゴリオ。
さすがに、少し手狭だが仕方ない。
幸太郎が『密室』をかけて、
『デーモン』、『闇の落とし仔』、
『呼び声の指輪』、そして新たに現れた悪魔
『ネグリスナガン』のことを伝える。
ジャンジャックとグレゴリオは、
幸太郎たちの話を聞きながら、
時々メモをとった。
ゼイルガン王国、イーナバース自由国連合に
報告しなくてはならない。
(幸太郎と出会ってから、やたら報告が忙しいぜ)
ジャンジャックとグレゴリオは内心そう思っていたが、
やはり『それこそが楽しい』のだ。
こういうものが見たくて、知りたくて、
貴族の身分を捨ててまでも、
国外へ飛び出したのである。
地位の維持に執着する貴族たちからみれば、
愚かの極みではあるが、
有能な者は地位など気にしない。
無能な者ほど、地位や権威にしがみつく。
有能な者は『自力で手に入る』が、
無能な者は『誰かから与えてもらうしかない』からだ。
そして無能な者は、もらいもんを見せびらかし、
他者を見下しはじめる。
これは日本でも同じ。
中央広場で『干からびたデーモン』の公開が始まったと
外から人々の声が聞こえてきた。
「いこうぜ、幸太郎! ほら、早く早く!」
ジャンジャックとグレゴリオは
子供のようにはしゃいでいる。
幸太郎も2人の気持ちはわかる。
幸太郎とて瑞浪の化石博物館や福井の恐竜博物館は
わくわくしながら見に行ったことがあるのだ。
ただ、『デーモン』はロマンのかけらも
ありはしないが・・・。
二コラの時と同じく板に釘で張り付け、
巨体が落ちないように
ロープで固定された『デーモン』と
『闇の落とし仔』が展示されていた。
黒山のひとだかり。
そこへギブルスが走ってきた。
アカジンたちも一緒である。
ユタでの仕事が立て込んでいたようで、遅くなったらしい。
ギブルスは『商売は趣味のため』と言い切る男なので、
遅くなったことに不機嫌そうだった。
だが、実物の『デーモン』を見て、大興奮!
鼻息も荒く、目からビームが出ている。
ついには『なんとかコレクションに加えたい』
などと言い出す始末。
全員でなだめて諦めさせた。
なお、余談だが、シャオレイからの連絡を受けた
マジックアカデミーも
『金貨1万枚でデーモンの死体を売って欲しい』と
ジャンバ王国中央政府と交渉を始めたという。
どこの世界にも『物好き』という人種は
いるものである。
その後、幸太郎たちはギブルスたちを加えて海へ移動。
事情をもう一度説明した。
「今度は『デーモン』の頭と『闇の落とし仔』を1体、
とっといておくれ!」
ギブルスがまた無茶なことを言い出した。
どこに飾っておくつもりなのだろう?
その説明の後、ギブルスから幸太郎に
『商人ギルドの依頼を受けてみんか?』と
話が持ちかけられた。
クリストフのアトリエだった倉庫に
幽霊が出るというのだ。




