しらを切る 2
幸太郎は『あくまでも推測』だと
念を押した上で、
考えておいたストーリーを話し出す。
「まず、なぜ彼が
そのビエイ・ファーム付近にいたのかは
知りません。
カーレ付近にいたことすら、知りませんでした。
ただ、その『デーモン』と5体の怪物ですが、
元々は人間で、『ナイトメアハンター』と
偶然出会ってしまったと思われます」
「なにっ!? ちょっと待て、幸太郎君!
『デーモン』や怪物が、
元々は人間だったというのかね!?
『デーモン』の大きさは
人間の倍くらいあるのだぞ!?」
「私は、その『デーモン』と
5体の怪物を見ていませんが、
干からびた人間の頭が
くっついていませんでしたか?」
「そ、その通りだ! 確かに干からびていたが、
人間の上半身が生えていた!」
「それが元々の人間です。
彼らが悪魔・・・おそらく
『ロストラエル』に祈りを捧げることで、
闇の世界から『デーモン』を召喚し、
融合するのです」
「『ロストラエル』!? 『融合』!?
な、なんだね、それは!?」
幸太郎は『オーガス』『リーブラ』『ロストラエル』、
3人の悪魔を説明した。
『くれぐれも極秘にしてください。
知られると教会から暗殺者が来ます』と
念を押しておく。
「うーむ・・・。愉快犯的な行動をする『オーガス』、
何かの怒りを抱え、世界の改革を目指す『リーブラ』、
この世を自分の思いのままに地獄へ変えたい
『ロストラエル』・・・。
なんと恐ろしい・・・」
「直接手を出してこないのは、3人とも共通です。
でも、一方で人間の社会に
害があるのも否定できません。
『ナイトメアハンター』でも彼らには勝てませんが、
逆に3人の悪魔たちも
人間である『ナイトメアハンター』を
殺そうとはしないので
奇妙な均衡が生まれています。
いえ、均衡ではありませんね。ナイトメア、
二コラやカース・ファントム、
『デーモン』は彼に地獄送りにされてますから」
幸太郎はリーブラだけは嫌いになれないが、
それを言うとややこしくなるので、
黙っておくことにした。
それに二コラの件で『実害』があったのは事実だ。
しかし・・・『それはそれ』。
大人の難しいところ。卑怯な所でもある。
だが、大人は子供と同じ判断を
しているわけにはいかない。
ただし、『人間社会に実害がある』というのなら、
それは『人間そのもの』こそが
社会の実害の最大の原因と言えるだろう。
戦争を起こすのは人間だけ。
ギブルスの言った通り、
人間を最も多く殺しているのは
人間なのだから。
一番『魔物』と呼ぶにふさわしいのは人間。
「話を戻しますが、その『デーモン』と怪物に
くっついていた人間の指に『黒い指輪』は
ありませんでしたか?
炭のように真っ黒い指輪です」
グリーン辺境伯はヴィンフリートやシャオレイに
聞いてみたが
『そんな指輪は見ていない』と答えた。
「・・・そうですか。
では『ナイトメアハンター』か、
『ロストラエル』が
持ち去ったとみるべきでしょう」
シャオレイが『持ち去った』という部分に反応し、
叫んだ。
「待って! 幸太郎!! そういえば、
『デーモン』に
くっついていたミイラには
指が一本無かったわ!!」
「こ、こら、シャオレイ、大きな声を出すな・・・」
グリーン辺境伯がたしなめると、
シャオレイは真っ赤になって
『申し訳ありません』と小さくなった。
「それですね。その指には
真っ黒な指輪があったはずです。
どちらが持ち去ったのかは、わかりませんが」
「幸太郎君、その『黒い指輪』は
どんな力があるのかね?」
「その黒い指輪は・・・
『呼び声の指輪』というそうです。
『ナイトメアハンター』から聞いた話ですが、
その指輪をはめてロストラエルに祈ると、
闇の世界から『デーモン』などの
怪物を召喚できるそうです。
ただし、代償・・・というか、召喚すると
自分の魂と融合してしまうそうです。
はい、もう二度と元には戻らない、と、
言っていました。
融合して、自分の魂が強ければ
『デーモン』の主人格になれるらしいのですが、
ほとんどの場合は
『デーモン』の一部として自我を失うそうです。
そして、『呼び声の指輪』の近距離にいれば、
指輪を装着していなくても
融合できるらしいです。
ただ、魂が弱すぎると『デーモン』すら呼び出せず、
『闇の落とし仔』という、
人間を超越したい欲望だけが
肥大した醜い魂の集合体を
呼び込んでしまいます。
魂が融合した後は
自我が無くなっているので、
食欲に従って、周囲の生き物を無差別に
食らい始めるとか。
・・・周囲に犠牲者はいましたか?」
もちろん幸太郎は知ってて質問している。
「『デーモン』と怪物以外には、
死体は1人だけだ。
誰かもわからないほどに潰され、
ミンチになった死体が1人分
地面にあったという話だよ。
凄まじい死にざまだな」
人狩りたちの死体は、いまだに幸太郎の
『マジックボックス』の中。
ノーダルの仲間の死体もだ。
アーデルハイドがミンチにした
ノーダルだけが現場に置き去りになっている。
半分ムース状になった死体は気持ち悪くて
『マジックボックス』に
吸い込みたくなかったのだ。
アーデルハイドの激怒ぶりがうかがい知れる。
「犠牲者は1人だけですか・・・。
かわいそうに・・・。
でも犠牲者が1人だけだったのは
不幸中の幸いと言えるでしょう。
ひどい死にざまだから、
何か儀式でもしていたのかも
しれませんね」
幸太郎はアーデルハイドがやったことを
『デーモン』たちになすり付けた。
相手が文句を言わないので、
幸太郎はやりたい放題だ。
幸太郎は善人ではない。
「ふむ、すると、全体像としては・・・。
その悪魔崇拝者たちが何かの儀式をしていた。
それを『ナイトメアハンター』が察知した。
追いつめられた悪魔崇拝者たちは、
イチかバチか『呼び声の指輪』を使って
デーモンを呼び出す。
しかし、それでもなお
『ナイトメアハンター』には
歯が立たずに返り討ち・・・ということか」
「おそらく、それで正解かと・・・。
悪魔崇拝者たちは、
相手が『ナイトメアハンター』と知って、
『どうせ助からないのなら』と
最後の手段に出たのでしょう。
『呼び声の指輪』を使えば、
どのみちもう、人間には戻れませんからね。
成功すれば『デーモン』の主人格。
失敗すれば『デーモン』の一部。
『デーモン』すら呼び出せなければ、
食欲だけの
『闇の落とし仔』に成り下がる・・・。
私なら、そんなバケモノになるのは我慢なりませんが」
「ううーむ・・・」
グリーン辺境伯は腕組みして唸った。
代わりに今度はシャオレイが質問してきた。
「ね、幸太郎、『デーモン』と『闇の落とし仔』の
能力って知ってるかしら?」
「『ナイトメアハンター』から聞いただけですが」
「それでいいわ! 教えて!」
「『デーモン』は4本の腕を持っているはずです。
その4つの手から同時に4つの魔法を
無詠唱で撃てるのだとか。
『火球』『風刃』『大火球』『大風刃』を
主に使うそうです。
しかも、魔法の軌道を湾曲させて
上方向、横方向からも狙ってくるらしいですよ。
魔法の乱れ撃ちは脅威だと言ってましたね」
「『無詠唱』、『同時発動』、しかも4つ同時、
魔法の軌道も自由に変化させるとは・・・。
『マジックアカデミー』に報告が必要ね。
情報を更新しておかなきゃ・・・」
「何か防御魔法は使っておったかね?」
ヴィンフリートも興奮気味に質問してきた。
マジックアカデミーにいるのは
魔法オタクばっかりだ。
「いえ、私は現場にいたわけでは
ありませんので・・・。
しかし、防御魔法を使うという話は聞いておりません。
なにしろ大きく頑強な体に、4本の腕。
それに加えて
『再生能力』を持っているそうですから、
防御魔法は必要ないのでしょう。
逃げるにしても、蝙蝠のような翼で
飛べるはずです」
今の質問はヴィンフリートの
『ひっかけ』も含まれていたようだ。
幸太郎が現場にいたのではないかと、
疑っていたのだろう。
「どのくらいの腕力か、聞いているか?」
今度はブランケンハイムだ。
「私も詳しくは知りません。
ただ、『ナイトメアハンター』が言うには、
『デーモン』のパンチは強力で、
並の兵士では受け止めきれないだろう
とのことです。
個体差はあると思います。
しかし、いずれにせよ
並の人間を上回るでしょう」
「そうか・・・。
もっともっと訓練を増やすべきだな・・・。
やはり力こそパワー。筋肉は正義か・・・」
兵士や騎士たちはとばっちりだ。
ただ、クラリッサとアーデルハイドが
『デーモン』のパンチを受け止めることができたのは、
あくまで彼女たちの人並み外れたパワーと、
デタラメな頑丈さがあればこその話である。
幸太郎がラウンドシールドで受け止めても、
パワー不足で、盾ごと、
ぺしゃんこになっていただろう。
ブランケンハイムの『訓練を増やそう』は
正論でもある。
「そうですね、『闇の落とし仔』は魔法は使えず、
単純な殴打と噛みつきだけらしいので、
筋力アップは効果があるでしょう。
でも、『闇の落とし仔』は
人間を片手で振り回し、
投げつけてくるほどのパワーがあるそうなので、
単独で対抗するのではなく、
連携の訓練も
するべきかと思います」
「うむ! なるほどな!
筋肉と筋肉の美しい連携というわけか!」
わかったような、わかっていないような。




