しらを切る
幸太郎たちは、2手に別れて、
別々にカーレに帰った。
幸太郎、モコ、エンリイはあくまでも『薬草採取』。
エーリッタとユーライカ、クラリッサとアーデルハイドは
『仕事の気分じゃないので、ピートス川あたりで遊んでた』
ということに。
冒険者は日雇い労働者。
働きたくなければ働かなくていい。
・・・収入も無くなるけど。
だから、遊んでいても不思議に思う人はいない。
その上冒険者なら、防壁の外に遊びに行っても
『いつものこと』としか思われない。
幸太郎が、しょっちゅう海に釣りに行くように。
幸太郎たちが冒険者ギルドに帰ると、
やっぱり大騒ぎになっていた。
「これ、依頼の薬草です・・・。何かあったんですか?」
ルイーズはカウンターに身を乗り出して、
大興奮で答えた。
「『ナイトメアハンター』です!!
『ナイトメアハンター』が再び現れたんです!!
ビエイ・ファームの手前ぐらいの場所で、
伝説の『デーモン』の死体が見つかりました!!
他に、異形の怪物も数体死んでいたとか。
こんなことができるのは、
『ナイトメアハンター』以外にいません!!
幸太郎さんたちは何か見ませんでしたか?」
「い、いえ、私たちは何も・・・。
今日はアルカ大森林側のほうに行ってましたから・・・」
幸太郎はタジタジで答えた。
「そうですか。今、キャサリン支部長と
べリンガム記録室長が
騎士団と共に、死体の回収へ行ってます。
もし、何か関連性のあることを
思い出したり、見つけたら教えて下さいね!」
「わ、わかりました・・・」
カウンターのルイーズは興奮冷めやらぬ様子で
喜んでいる。
「『ナイトメアハンター』って、かっこいいですよね!
ダンジョン下層で悪魔ナイトメアを撃破!
悪魔の手先ニコラを滅ぼし、
アルカ大森林で地獄の亡者を
地獄へ送り返し、
今度は伝説の『デーモン』を打ち倒し・・・。
ああ、素敵! 人類の守護天使が
悪を滅ぼすために
地上へ舞い降りたっていう人もいるくらいです。
ギルドの女性職員の間でもファンが急増中ですよ。
あたしも、あんな方の妻の1人になりたいなぁ・・・」
(いや、絶対やめといたほうがいいと思うけど・・・)
幸太郎はルイーズに話を合わせつつ、
そんなことを考えていた。
無論、幸太郎はルイーズが自分に
好意を寄せているなどとは、1ミリも思っていない。
ルイーズが好きなのは、あくまでも架空のヒーロー
『ナイトメアハンター』なのだから。
死霊術も、無敵の回復魔法も、冥界門も、神虹も、
全てもらいものであり、自分の力ではない。
かっこいい『ナイトメアハンター』は
冴えない幸太郎とは別人である。
幸太郎が元から持っているものは、
義務教育で得たものと、
本が好きで得た知識、
そして、ちょっぴりサイコな性格だけ。
あとはごくごく普通の日本人である。
そう! ぼくらの仲間!
みんなで応援しよう!
ふと、食堂のほうを見ると、エーリッタとユーライカ、
クラリッサとアーデルハイドが『ちょいちょい』と
手招きしている。
「やあ、今日は依頼を受けなかったのかい?」
幸太郎は打ち合わせ通りに聞いた。
「ああ、今日は、なんか気分じゃなくてね。
ちょっとピートス川のほうで遊んでたんだよ」
クラリッサが打ち合わせ通りに答えた。
わざとギルド職員や
ウエイター、ウエイトレスたちに聞こえるように。
幸太郎たちは、テーブルと椅子を寄せて、
エーリッタたちと合流。噂話を始めた。
「ふーん。蚊の渦巻きがねぇ・・・。
えーと、二コラの時は、確かハエじゃなかった?」
「今回はハエじゃなくて蚊だってさー。
悪魔の仲間って、
なんでそんな汚い虫ばっか集めるのかしら。
キモイったらありゃしない」
「あたしは悪魔の仲間にはなれない。絶対ムリ!」
「で、まあ、その蚊の渦巻きが
雲に届くような大きさになってたんだってよ」
「それを通りかかった街道の鳩師たちが見つけたのね?」
「そう。で、慌てて騎士団へ報告ってワケ。
二コラの前例があるから、今回は最初っから
シャオレイさんが馬車で同行したらしいわよ?」
アーデルハイドが一生懸命『こくこく』とうなずく。
かわいい。
幸太郎たちは先にカーレに戻ったエーリッタたちから
『現状、飛び交ってる噂』を仕入れた。
これは『どこまで知ってることにするか』の
すり合わせをしているのだ。
そこへ、爆走する馬車がギルド正面に止まった。
(あ、来たかな・・・?)
幸太郎たちの予想通りだ。
馬車からシャオレイがドアを蹴り破る勢いで降りてくる。
相変わらず美しい。
「いたああああぁっ!!!
幸太郎、早く乗って! 行くわよ!!」
シャオレイは幸太郎の腕をつかむと、
強引に引き摺って馬車へ詰め込んだ。
連行だ。
モコ、エンリイも続く。
そして、辺境伯の屋敷へむかって激走。
赤兎馬のような馬たちが馬車を引っ張り、疾駆した。
(いいなあ・・・私もシャオレイさんに
腕を掴まれてみたい・・・)
ギルドにいた女性陣は幸太郎をうらやましがった。
(チキショー! なんであいつばっかりィィィィ!
誰か、誰かいないのか!?
あのヤロウを殺してくれる勇者は!!
なぜ悪魔は『デーモン』を幸太郎に差し向けて
くれないのだっ!?)
ソイツはさっき返り討ちになったばかりだ。
男性陣は血の涙を流して幸太郎を呪った。
自分だって、生涯に一度でいい、
シャオレイから腕を引っ張られ、
背中を押されて馬車に乗り込んでみたい。
男性陣の偽らざる願いである。
だが、人の夢と書いて『儚い』と読む。
現実は非情だ。
「幸太郎!『ナイトメアハンター』が出たわ!
何が起きたの!? 彼はどこ!? 他に悪魔は!?」
シャオレイも大興奮でまくし立ててくる。
それに対し、幸太郎はゆっくり答えた。
「いやー・・・それが、今回は何も知らないんですよ。
本当です。
『デーモン』の死体が見つかったそうですが、
何も知りません。
彼とはカース・ファントムの時以来、
全然会っていませんから。
今、ギルドで噂を仕入れていた有様で・・・」
「そ、そうなの? 『デーモン』っていえば、
いくつかの文献に記されている
伝説級の魔物。
マジックアカデミーで本は読んだけど、
実物を見たのは、私だって初めてよ!
それを『ナイトメアハンター』は
誰の手助けもなく、
単独で撃破したってこと?」
「たぶん、そうですね。
噂を聞く限り、彼で間違いないと思います。
彼が、まだカーレ付近にいるとは知りませんでしたが、
おそらく偶然発見、正体を見破り、
そのまま『デーモン』と
戦闘になったのだと思います」
「え? え? ちょっと待って!
正体を見破る!?
『デーモン』は普段人の姿を
しているってこと!?」
「正確には人の姿をしているわけでなく、
人が悪魔へ祈ることにより、闇の世界から
『デーモン』を呼び寄せ、融合し・・・」
話はそこでいったん中断。
馬車が辺境伯の屋敷へ到着した。
冒険者ギルドから、グリーン辺境伯の屋敷は近い。
「おお、来てくれたかね! 待っていたよ。
さあ、旦那様も首を長くしてお待ちだ。
応接室へ入ってくれたまえ」
またも執事のフランクが門で待っていた。
いち冒険者相手に、破格の厚待遇だ。
それだけ、『デーモン出現』は
衝撃だったのだろう。
幸太郎たちが応接室に通されると、間髪入れずに
お茶が3つ運ばれてきた。
そして、お茶が運び込まれるのを
廊下で待っていたのか、
メイドと入れ替わりで、
即座にグリーン辺境伯が部屋へ入ってくる。
そして、それに続いて、
フランク、騎士団長ブランケンハイム、
ヴィンフリート、シャオレイも入ってきた。
「やあ、幸太郎君。
いきなり呼び出してすまないね。
すでに聞いてると思うが・・・
『デーモン』の死体が見つかった。
ギルドのべリンガム君に現地で
直接見てもらったが、
文献にある通りだという。干からびているが、
4本の腕、背中の蝙蝠のような翼、
頭の角、黒い肌。
私も運び込まれたものを見たが、
間違いない。伝説のとおりだな。
シャオレイから聞いたが、
今回は『ナイトメアハンター』の
単独行動だそうだな?
彼の現在の居場所は知っているかね?」
「いえ、残念ながら。
彼とはカース・ファントムの一件以来、
会っておりませんので」
「そうか・・・。ともかく、我々はできる限り
情報が欲しい。
すまないが、色々教えてくれないか?
まず・・・何が起きたと思う?」
幸太郎は虚実織り交ぜて話し出した。
『しらを切る』にはコツがある。
ただ『何も知らない』というだけだと、
相手は不満がたまり、
より一層『何か隠してる』と疑ってくる。
持ってる情報は全て提供しますという姿勢を
見せることが肝要。
つまり、あえて相手の知らない情報、
しかも事実を提供することで
『満足感』を与えるのだ。
その上で『その場にいなかった』
『彼とは会ってない』
『事件は知らなかった』と、しらを切るのである。
話術としては高等技術といえる。
だが、サイコな幸太郎は
それを平気で実行するのだ。
営業職もやっていたおかげだろう。




