ひえー!
矢の回収も終わり、
『闇の落とし仔』の歪んだ魂も全部成仏させた。
周囲には誰もいない。
見通しはいいが、誰の姿もなかった。
そろそろアーデルハイドを止めようという雰囲気になった。
もう、何か変な臭い匂いまで漂い始めていたからだ。
「アーデルハイド、ありがとう、
もう、その辺でいいんじゃないかな。
あとはバケモノの死体を穴に埋めたら帰ろう」
幸太郎は召喚したゾンビたちに
シャベルを渡しつつ言った。
「ハイジ、ありがとな。おかげで、
あたいもスッキリしたよ」
「そ、そう、かな・・・?
もう少し、て、丁寧に、細かく、
ミンチに、しといたほうが・・・」グチャッ、ミチャッ、ネチャッ・・・
まだやる気なのか。
幸太郎たちは、ここで1つ勘違いを起こしていた。
『変な臭い匂い』はノーダルの体をミンチに
しているからだと思っていた。
が、それは違う。血の匂いではない、別の匂いが
どんどん強くなりつつある。
「ね、ねえ、なんか臭くない???」
「そういえば・・・変な匂いがさっきから・・・」
エーリッタとユーライカが眉を寄せる。
そして異変に最初に気づいたのは、
周囲を警戒していた
モコとエンリイだった。
「ご主人様! 『デーモン』と『闇の落とし仔』が!!」
「うえっ!? 変なブツブツができてるよ!?」
全員が『デーモン』の死体を見た。
アーデルハイドも『報復』を中断して、立ち上がった。
『デーモン』の死体。もちろん死んでいる。
だが、その死体に病気の水疱みたいなブツブツが
大量に発生している。
『闇の落とし仔』も同じだ。
「「キモッッッ!!!」」
エーリッタとユーライカが思わず声をあげた。
「ねえねえ、『臭い匂い』って、こっちの
『デーモン』から発生してるよね・・・?」
ユーライカが確認の声をだしたが、
全員眉を寄せて無言。
なぜなら、確認するまでもなく、異臭の発生源は
『デーモン』の死体だったからだ。
全員が凝視する中、さらに匂いが強くなっている。
「ご主人様・・・これって、もしかして、
二コラの時と同じでは・・・?」
「う、む、二コラの時と違って、
変な化学薬品みたいな
匂いはしないけど・・・たぶん、お、同じ、だな」
「じゃあ、幸太郎サン、この後は、『ハエ』が・・・?」
その時、水疱が1つパチンとはじけた。
「げっ!?」
「うう!?」
「ひいいっ」
全員が口々に悲鳴をあげた。
そのはじけた水疱の中からドロっと膿が溢れ、
虫が飛び出したからだ。
「これ、『蚊』だ!!」
幸太郎が『鑑定』したので間違いない。
本物の『蚊』である。血を吸うほうの。
そして、水疱が次々にはじけ、
何十、何百という大群になった。
しかも、まだまだ増え続けている。
「に、逃げるぞ!! これだけの蚊に血を吸われたら、
タダではすまん!!」
ここで幸太郎は大事なことを思い出した。
「あ、しまった! ノーダルやベークホースたちの
所持品を回収しないとマズイ!!
こいつらの身元がバレる!!」
「ご主人様! あれを! 『松明』をください!」
「りょ、了解っ!」
幸太郎は『マジックボックス』から
火のついたままの松明を数本取出し、
モコたちに渡した。
これで蚊を殺し、追い払うのだ。
魂の残滓から虫へと転生を始めた
『デーモン』の死体は
もう『マジックボックス』に吸い込めない。
とゆーか、こんなキモいものは
可能でも吸い込みたくない。
だから死体は置き去りにするしかないが、
これが『誰だったか?』が、ばれると困る。
二コラの時も『幸太郎たちがケンカしてた』ということで
『何か関係があるのでは?』と疑われた。
ノーダルたちともケンカしたばかりだ。
絶対に関連を疑われるし、
『2回連続』となれば
幸太郎の正体に疑念を持つ者が現れても
不思議ではない。
一番疑われそうなのは『ナイトメアハンター』だが、
どっちにしたって賞金がかかっているし、
『太陽神の加護』がある幸太郎は、
『魅了』や『支配』による尋問ができない。
疑われること自体が、非常にマズいのである。
幸太郎は、『持ち物を吸い込め!マジックボックス』と
言いながら、『デーモン』や『闇の落とし仔』の
死体を巡った。
モコに吹っ飛ばされた死体が一番遠い。
血まみれのリュックなどを次々に
吸い込んだ。
気持ち悪いが背に腹は代えられない。
これだけは、やっておかないと。
・・・幸太郎は大量の死体を『マジックボックス』に
保管しているくせに、
血まみれのリュックは気持ち悪いと言う。
矛盾しているが、本人は気にしていない。
襲いくる蚊を、モコたちが松明で必死に追い払う。
一応、ゾンビたちもシャベルを振り回した。
「よし、これで調べても
こいつらが誰かはわかるまい!
逃げるぞ、みんな!」
リュックやポケットの中身を全て回収した。
『マジックボックス』は明らかに幸太郎の命令に
忖度している。
曖昧な命令にも優れた反応をみせた。
ノーダルは半分ムース状だし、ベークホースたちは
カラカラに干からびたミイラになっている。
とても顔の判別はつかない。
所持品を奪った以上、
もう何も手がかりは無い。
幸太郎は、ゾンビたちのシャベルを受け取り、
ゾンビを解除。次にゴーストを召喚。
「『ゴースト・ブーツ』発動! と、とりあえず、
アルカ大森林側へ向かう!」
「はいっ!」
幸太郎たちは、街道から離れるように逃げていった。
その後を大量の蚊が追いかけてくる。
すでに蚊の総数は
数万の規模に膨れ上がっていた。
『ひええええええーーーー!!』
全員が尻尾を巻いて逃げ出した。
追いかけてくる蚊を振り切ることに成功。
幸太郎たちは大回りして、ピートス川方向へ走った。
途中、後ろを見ると、巨大な『蚊の柱』が
渦巻いているのが視界に入る。
「今度はハエじゃなくて、蚊の竜巻かぁ・・・」
「二コラの時は見えませんでしたけど、
おぞましいですね・・・」
「ハエよりひどいよ。あれに襲われたら、死ぬって。
魔猿闘術でも、如意棒でも効果無さそうだもん」
「あれ・・・街道から見えてるわよね・・・」
「うん。いずれ騎士団が偵察にくるでしょ・・・」
「コウタロウ、どうする? もちろん
知らぬ存ぜぬでいくんだろ?」
「二コラに続いて2度目は、絶対にまずい。
今回ばかりは、しらを切る。切りとおす。
『デーモン』と『闇の落とし仔』は
正体がわからないだろうし、
所持品も回収した。
ノーダルはアーデルハイドが
細かくミンチにしてくれたから、
絶対に誰だかわからない。
ノーダルのパーティーメンバーは頭が無いし、
『マジックボックス』に入ったままだから、
見つからない。
そのうち、どこかで埋めよう。
ノーダルたちとベークホースたちは
『今日から行方不明』になるが、
怪物たちとは結びつかないはずだ・・・」
「じゃ、じゃあ、安心だね!」
「ああ、グリーン辺境伯から
呼び出しは来るだろうけど、
俺たちとのつながりは無い。ばれないはずだ。
対応は俺とモコとエンリイでしよう。
エーリッタ、ユーライカ、
クラリッサとアーデルハイドは
ギルドなどで質問されても、
『へー』とか『ふーん』とか
適当に気のない対応を心がけてくれ」
『りょうかいっ!』
全員が元気良く返事をした。
「今回は、全て『ナイトメアハンター』の
単独行動ということにする。
全部、彼にかぶってもらうしかない」
幸太郎たちはピートス川近くで、いったん休憩。
軽く少し食事をして、時間を潰した。
おそらく、今頃は『蚊の竜巻発見』の一報が
カーレに入り、
騎士団が偵察に出撃しているころだろう。
二コラの件があるので、今回は最初から
シャオレイやヴィンフリートも
同行しているかもしれない。
カーレに戻るなら夕方近く、みんなの興奮状態が
少し落ち着いてからのほうがいい。
「1つだけ気がかりなのは・・・勇者アールスだな。
感触からすると、クランのメンバーが
『ロストラエルの信者』だったことは知らないっぽい。
そして人狩りでもなさそうだが・・・」
「・・・どうしてですか?」
「根拠としては薄いんだが、勇者アールスが、
あまりにも平凡だったからな。
人間を超越したいとか、
そんな奴だったら『スマッシュ』のスキルを
自慢したりしないだろ。
『スマッシュ』は強力でも、
あくまで人間の範疇での話だ。
使える人もアールスだけってわけでもない。
人狩りだったとしたら、モコたちのような美女が
手に入る時に席を外すことはないだろう。
自分の取り分が減ってしまうかもしれないからな」
『えへへ・・・』
嫁ーズが『美女』と言われて、またもにやける。
そして、またも幸太郎が、それに気づいて赤くなった。
「ん、ごほん・・・。
勇者アールスは人狩りでもロストラエル関係でも
ないだろうが、いきなりクランのメンバーが
半分に減ったら、こっちを疑う可能性はある。
八つ当たりだと言い切るしかない。
ともかくクラン復活を目指して
勧誘しにきても、
こっちを疑ってきても、
いずれにせよ迷惑そうにあしらってくれ。
俺たちはアールスに用はないからな」
「わかりました」
幸太郎は緑茶を飲みながら、小さくため息をつくと、
最後にこんなことを言った。
「でも・・・1つ謎が解けたな・・・。
クランなんて、普通に考えれば
金銭面や待遇なんかで、絶対に
不公平になってモメるだろうに、
どうして成立していたのか。
アールスにそれだけの
財力、魅力、カリスマがあるようには
見えなかったから不思議だったが・・・。
答えは、
『人狩りがクランを隠れ蓑にしていた』
だったわけだ。
だから金銭面とかで不平等でも、黙って従って
いたんだろう。本当の収入は別にあるからな。
『クランに参加している』こと自体が
メリットということさ。
エーリッタとユーライカの言ってた、
『人狩りなんて普段いったいどこにいるのか』
という疑問に、
また1つ答えが出たわけだよ。
次からはクランを見たら気を付けようか。あははは」
みんなも笑った。だが、同時にモコたち
『嫁ーズ』は全員同じことを考えた。
『私たちは全員、ご主人様の
お嫁さんになる目的があるけど、クランには
変なのが紛れ込んでることもあるのね・・・。
クランの人間は関わらないほうがよさそう』
幸太郎たちも、実質クランみたいなものだ。




