Qurea 1-1
[HOPの侵攻未だ止まず]
レイランはそう見出しがついた新聞を広げた。
無事にこの、ミレニウム民主連邦軍の駐屯地
「キュレア」に帰還した4人は、寮のそれぞれの部屋で眠りについていた。
レイランは、日の出頃に起き、ドアの前に放られている新聞をコーヒーを飲みながら読むことを日課としていた。
手にしている新聞は今いる国、ミレニウムと使う言語が同じスロイド共和国の地元紙である。
[革新過激派HOPの侵攻は、ミレニウム軍をもってしてもくい止めるのが限界であり、HOPは着々と勢力を拡大して、被害の大きなメイス民主共和国を中心として、新たな国を作りあげようとしている。]
「新たな国ねぇ…」
レイランは、静かにそう呟くとコーヒーカップに口を近付けた。
少し苦めのエスプレッソが喉元を通ると同時にコーヒー豆の持つ芳醇な香りが鼻腔を抜ける。
レイランはカップをコースターに置くと椅子に深く腰掛け目を瞑った。
ーー数年前の出来事であるか。
比較的貧困な国家が多いこの大陸には、一つだけとても金と権力を持った王国があった。
石炭やダイヤモンド、石油などの自然資源に恵まれ、リゾート地としても栄えた大国だ。
まあそんな国に限って、裏の顔というのはあるもので、この国は極端な資本主義を奨励する制度を導入していたんだ。
元々金を持っている者のみが幸せに暮らせる国。王が住む城や、城下町の賑やかさとは裏腹に、少し中心街から離れれば、軒並み連ねるトタン板の平屋が見えたようだ。
職も食べ物も無く、ひもじい生活をしている国民が5割以上にのぼると母国の新聞で知った時はなかなか驚いたものである。
勿論、苦しい生活を強いられている人達も黙っているわけが無く、それは革新派として集結し、国内の至る場所でデモを行っていた。参加した者の中には逮捕される者もいたんだろうが。
けどそれまでは、街中の店が破壊されるなどの他の国でも行われるような被害にとどまり、他国はもちろん、自国の中枢機関の人間達もそれほど警戒していなかったようだ。国王はデモが行われている所に偽の札束を撒き散らすなど、挑発的な行動もしていた。
それが運の尽きだったのだろう。
その国の主要資源、石油の製油会社で、世界進出も果たしている企業が、革新派に資材の援助をしたのだ。
食料、電子機器、武器。
その企業が、裏では密輸も行なっていた事は、世界中で話題となった。
企業の社長はその貢献により革新派勢力の実質的リーダーとなり、傘下の人間に武器を持たせ街を徘徊させたんだ。
テロリスト集団の発生ってとこか。
それからは早かった。街は荒み、森林は焼き払われ、家から学校、病院まで、建物という建物は皆爆破された。
国王は、国外へ亡命する寸前で捕獲され、ネット中継で首を掻き切られた。
国王が殺害され、国のトップは事実上革新派勢力の実質的リーダー…もといテロリスト集団[HOP]のリーダー、レボデッド・ファムラースとなった。
これで事が留まれば、今俺達がこんな糞溜めの様な所に来る事もなかったんだがなーー
「あ、あの…レイランさん…」
「うわっ⁉︎お、お前いつ起きてたんだよ?」
「さっき起きたばかりです。もうすぐ起床時間ですから」
「え、もうそんな時間か⁉︎」
時計を確認すると、確かに短針が1時間分進んでいた。眠っていたようだ。
カフェインを摂った後に寝てしまったためか頭が痛い。
「朝早く起きるのは良い事ですけど、早く起き過ぎて疲れが取れないのはあまりよろしくないですよ?」
「ああ、わかってるよ、ルーク」
レイランと部屋を共用し、後輩にあたるルークは少し微笑み、寝床の整理をし始める。レイランもそれに続いた。
朝の朝礼が終わり、兵士達がそれぞれ食堂で食事を取っている頃、レイラン達4人は司令室に呼び出されていた。
昨日の作戦で得られた情報を元にミーティングを行う為だ。
1つの丸机を囲むように4人と1人の男が座っている。
「これで全員か?レイラン」
「はい、グリーン大佐」
グリーン大佐は、口をつけていたコーヒーから手を離すと、椅子に深く腰掛け直した。
「よし、ではこれからミーティングを始めるが、まずは昨日の作戦で何か気になった事がなかったか、もう一度思い出せ」
「何か情報が入ったんでしょうか?」
「現地の諜報部隊からの情報によると、ウェコン周辺、昨日お前達が作戦に出た辺りの地域に妙な動きが起きている事が判明した」
グリーンは席を立ち、大きなホワイトボードに貼り付けられたウェコン周辺の地図を見せ、赤い印がついている場所を指した。
「この辺りに、敵の拠点があるというのはお前らもわかっているだろう」
「はい、昨日の作戦でその拠点は掃討しました」
バイパーが答える。
「実は、ウェコンにある敵の拠点はそこだけではないことがわかったんだ」
グリーンがそう言うと、4人は一瞬硬直した。
グリーンは、赤のマーカーを手に取るとメモを確認しながら2地点に赤丸を書き込んだ。
「…ここと、ここだ。拠点の規模は、昨日制圧した拠点と同等と考えてよいだろう」
レイランはさらに驚く。昨日制圧した拠点は、かなり規模が大きく、航空支援を呼ばざるを得なかったほどだったからだ。そんなものがあと2箇所も存在しているというのは衝撃以外の何物でもない。
「それは、私達にもう一度そこへ行って拠点の制圧にかかれ、という事なのでしょうか?」
「ああ、端的に言えばそういう事だな」
グリーンがレイランの質問に答える。
「それにさっきも言ったが、ウェコン周辺で妙な動きがあるという情報も入っている。その事も考慮して、この作戦は1日で済ませなければならない」
レイランはそれを聞いてグリーンに反論した。
「しかし、昨日の拠点はなかなかの大規模で、制圧するのにもかなりの時間がかかりました。それをあと2つも、なおかつ1日で遂行するというのはかなり難しいと思います」
「ああ、さすがにそれはわかっている。そこで次の作戦は、君達と共に任務を遂行する部隊を1つ手配した。もうすぐここに来るだろう」
レイランはその言葉に安堵したが、同時に嫌な予感が頭をよぎった。
(まさかとは思うが……)
そう思いつつレイランはグリーンに質問した。
「その部隊とは…なんでしょうか?」
「TSTバタフライだ」
嫌な予感が的中した。
レイランがため息をついた瞬間、ドアが勢いよく開いた。
この国の軍隊の制度には、入隊前からおかしいと思っていたんだ。
まあその制度のお陰でこの国の軍隊の兵士は多く世界一の軍大国となったのだが…
「TSTバタフライ、4名全員そろいましたっ‼︎」
戦場には似つかない茶髪のロングヘアと赤色のストライプのシュシュ、甲高い声が部屋の中に響く。
女の子はこんな所に居てはいけないんだよ…




