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甘くて優しいクレープの夕暮れと、暗闇から忍び寄る『神の代行者』。

「ふざけんな! 俺たちが被害者だぞ! 全部あの魔力ゼロの欠陥品が仕組んだことだ!」


 冒険者ギルドの地下尋問室。

 分厚い石壁に囲まれた薄暗い部屋で、手枷をはめられたザックが喚き散らしていた。

 オーガ・ロードの調理の爆風に巻き込まれた『黒狼の牙』の三人(ザック、ゲイル、ボラ)と元受付のリックスは、全身ススだらけのボロボロの状態で洞窟から這い出たところを、都市の衛兵にあっさりと捕縛されていたのだ。


「あのアマ、隠し持ってたヤバい魔道具でオーガを暴走させやがったんだ! 俺たちを殺すために……ヒッ!?」


 ザックの言葉が、途中でカエルが潰れたような悲鳴に変わった。

 尋問机の向こう側。ギルドマスター・ギデオンの後ろに立つ『剛剣』のエルザから、尋問室の空気を物理的に凍らせるほどのドス黒い殺気が膨れ上がったからだ。


「……へぇ。アタシの可愛いクロエが、魔物を暴走させた? アンタたちみたいな三流のゴミクズを殺すために?」


 ギリリ……とエルザが大剣の柄に手をかける。

 それだけでザックたちは息を呑み、ガチガチと歯の根を鳴らして震え上がった。


「やめい、エルザ。尋問室を血の海にする気か」


 腰にコルセットを巻いたギデオンがため息をつきながら制止し、机の上に『ある物』をコロンと転がした。

 淡く発光する、紫色の魔結晶の欠片。


「あ……っ!」

「最深部の入り口付近に落ちておったのを、我がギルドの調査班が回収したのじゃ」


 ギデオンの冷酷な隻眼が、ザックたちを真っ直ぐに射抜く。


「レイド部隊の証言もすべて取れておる。お前たちの見え透いた嘘など、完全に破綻しておるのじゃよ」

「ち、違う! それは……!」

「言い訳は不要じゃ!」


 ギデオンは羊皮紙にバンッ! とギルドの重い印璽(ハンコ)を叩きつけた。


「沙汰を言い渡す。お前たち四人は、魔の森の最前線拠点での『無期限強制労働』とする。一生、前線で魔物の死骸と汚物の処理でもしておるがいい」

「そ、そんな……! 待ってくれ! 俺たちは中堅パーティ『黒狼の牙』だぞ!? おいジジイ! 今まで俺たちがどれだけギルドに貢献して……おいっ、離せよ!」

「連れて行け」


 衛兵たちに引きずられ、ザックたちは無様に泣き喚きながら地下室から消えていった。


 ***


 同時刻。

 街の表通りでは、そんな薄暗い尋問が行われていることなど露知らず、私はクレープを片手にノアとアノマロちゃんを連れて、平和な夕暮れを散歩していた。


『もっきゅ! クロエ、このクレープの端っこのカリカリしたとこ頂戴!』

「あはは、アノマロちゃん食いしん坊だねぇ。はい、あーん」


 私の手からクレープの端っこをパクッと食べると、アノマロちゃんは『もっきゅぅ〜♪』と至福の声を上げた。


 ***


 ――その日の深夜。冒険都市『リグ』の外れ。

 最前線拠点へと罪人たちを護送する装甲馬車が、月明かりのない暗い獣道をガタガタと進んでいた。


「クソッ……クソォォッ! なんで俺たちがこんな目に!」


 荷台の檻の中で、ザックが鉄格子をガンガンと殴りつける。

 その時だった。


 カッ……!!


 突然、目の眩むような冷たい白い閃光が夜の森を包み込んだ。

 護衛の騎士たちが声を発する間もなく、パタパタと糸の切れた人形のように馬から転げ落ちる。


「な、なんだ!?」


 怯えるザックたちの前に、静かに歩み寄ってくる一つの影があった。

 深々と白いフードを被った、長身の男。その体からは、神聖でありながらどこか無機質な光が漏れ出していた。


「……ふむ。女神の理(ことわり)に仇なす異物。それを排除するための実験体として見繕ってみたが……ただの薄汚い小悪党だな」


 フードの男は、気絶した騎士の横を通り過ぎ、檻の中のザックたちを見下ろした。


「て、てめえは何者だ!?」

「私は女神の代行者。……王都より、世界の秩序を乱す【バグ(害悪)】を消去しに来た」


 男が指先を軽く振ると、ザックたちを閉じ込めていた頑丈な鉄格子が、まるで飴細工のようにドロリと溶け落ちた。


「ひっ……!」

「お前たち、あの少女に恨みがあるのだろう?」


 男の言葉に、ザックの目にどす黒い執着の火が灯った。


「あ、ああ……! 殺してやりたい! あの魔力ゼロの欠陥品さえいなければ、俺の人生は完璧だったのに……!」

「よかろう。ならば力を与えよう。ほんの欠片だが、女神の『神聖魔力』をな」


 男が手をかざすと、白い光の玉がザックたちの胸へと吸い込まれていく。

 ドクンッ! と、彼らの体が異常な熱を帯び、血管が浮き上がって瞳孔が不気味に白く濁った。


「おお……おおおおおっ! 力が、力が湧いてくるぞォォッ!」

「さあ、行け。世界の異物へ、女神の慈悲(天罰)を」


 異質な力を与えられ、狂ったように笑い声を上げる小悪党たち。


「ハハハハハッ! 待ってろよクロエェェッ! この神の力で、お前もあのふざけたペットどもも、跡形もなく引き裂いてやるァァァッ!!」

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