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第85話(第18話)ギルド激震!アノマロちゃんの『タダ飯レイド』開始!

「アイリスさん、ただいま戻りました! 先行調査の任務、完了です!」

「わぁっ、クロエ様! おかえりなさいませ! ……って、あれ? まだ出発して二日しか経っていませんよね? もしかして、大穴の場所が見つからなかったとか……」


 昼下がりの冒険者ギルド。

 討伐から帰ってきた冒険者たちの熱気と酒場の喧騒で賑わう中、私が受付カウンターからひょっこり顔を出すと、事務作業をしていたアイリスさんが目を丸くした。


「ふふっ。それが、すぐに見つかったんですよ! アノマロちゃんの『魔法』のおかげで!」

『もっきゅ♪(魔法じゃなくて、フェロモンによる化学的アプローチだけどね!)』


 私の頭の上で、アノマロちゃんがドヤ顔でパステルカラーの前部付属肢を反らす。


「ええっ!? エルザ姉様でも見つけられなかったのに!? さすがクロエ様とアノマロちゃんです! それで、入り口の環境はどうでしたか?」

「えっと、すごく綺麗な青紫色の苔が生えてて……あと、入り口付近にいた魔物を何匹か倒してきました。これ、証拠の魔石です」


 コトン、コトン、コトン。

 私が麻袋から取り出した『三つの魔石』をカウンターに置いた、その瞬間。


 ――ピリッ、と。

 ギルド内の空気が、凍りついた。


「「「…………っ!?」」」


 喧騒に包まれていた酒場の冒険者たちが、一斉にこちらを振り返る。

 アイリスさんは目を見開き、カウンターに置かれた魔石を震える指で指差した。


「ク、クロエ様……? な、なんですかこれ……?」


 そこにあるのは、リンゴほどもある巨大な魔石。

 内側からドクドクと脈打つように、目が潰れそうなほどの高純度な青紫色の魔力を放出し続けている。


「アイリスさん? どうかしましたか?」

「ど、どうかしたって……っ! ちょ、ちょっと待っててください! 今すぐおじいちゃ……じゃなくて、ギルドマスターを呼んできますからぁぁッ!!」


 あまりのパニックに公私混同した叫び声を上げながら、アイリスさんは血相を変えて奥の部屋へと駆け込んでいった。


 ***


 数分後。

 ギルドの最奥にある『ギルドマスター室』では、厳めしい顔をしたギデオンさんが、机の上の魔石を食い入るように見つめていた。


「だからおじいちゃん、本当にクロエ様がこれを持って帰ってきたんだってば!」

「アイリス、ギルド内ではマスターと呼べといつも……いや、今はそれどころではないな」


 半泣きで訴える孫のアイリスさんをなだめつつ、ギデオンさんは鑑定用の魔道具(モノクル)を隻眼に当てた。その額に、滝のような冷や汗が流れる。


「クロエよ……よくぞ無事で帰ってきた。入り口で深追いせず、すぐに報告に戻ってきたお前さんの判断は、冒険者の鑑(かがみ)とも言える完璧なものじゃ」

「えへへ、ありがとうございます」


 私が照れて笑うと、ギデオンさんは深い深いため息を吐き出した。


「……信じられん。なんじゃこの異常な魔力純度は。わしが長年見てきたAランク魔物の魔石よりも、はるかに濃密で悍ましい魔力が詰まっておる……。クロエよ、これを落としたのは、一体どんな恐ろしい化け物だったのじゃ?」


 ギデオンさんの深刻な問いかけに、私は胸を張って正直に答えた。


「えっと……『ゴブリン』と『スライム』と『大コウモリ』です! どの魔石もピカピカで綺麗ですよね!」


「「…………は?」」


 ギデオンさんとアイリスさんが、揃ってポカンと口を開けた。


「ゴ、ゴブリンにスライムじゃと……!? あのE〜Fランクの雑魚の代表格がか!? お前さん、このサイズと純度の魔石となれば、王都を襲う『厄災級』のドラゴンが落とすレベルじゃぞ!?」

「でも、本当にスライムとコウモリだったんです。体が鉱石みたいに硬くなってて、壁が溶ける酸を吐いたり、耳が痛くなる音を出したりしましたけど……」

『もっきゅ(超高純度の魔素による、超速の環境適応と進化現象ね。ダーウィン先生が見たら卒倒するような生態系バグよ)』


 アノマロちゃんの念話での解説を聞きながら、私はコクリと頷いた。

 ギデオンさんはドサリと椅子に深く腰を下ろし、天井を仰いだ。


「……最悪じゃ。エルザが探知魔法で見つけられなかった理由が分かったわい。このレベルの異常な魔素が漏れ出ておるなら、魔法が弾かれて当然じゃ」


 ギデオンさんは、ギリッと奥歯を噛み締めた。


「エルザが王都から帰還しておらんこのタイミングで、こんな魔境が見つかるとは……。入り口の雑魚魔物がこれほどの魔石を落とすとなれば、最深部にいる『主(ボス)』は、一体どれほどの化け物に変異しておるか……想像もつかん」


 ママがいない今、冒険都市の戦力は決して万全ではない。ギデオンさんの顔にかつてないほどの緊張感が走っている。

 しかし、その緊張感とは裏腹に、私の頭の上ではアノマロちゃんが歓喜の舞を踊っていた。


(キタキタキタァァァッ!! そうよ、おじいちゃん! その最深部のバケモノを想像して、もっと危機感を煽りなさい! そして私に、極上のタダ飯を食わせるための手筈を整えるのよ!!)


 完全に『悪代官』のような邪悪な笑みを浮かべるアノマロちゃん(※見た目は可愛いパステルカラーの妖精さんである)。


「……決まりじゃ」


 ギデオンさんが、重々しく口を開いた。


「この新ダンジョンは、もはや一介のパーティでどうにかなるレベルではない! エルザの帰りを待っていては、あふれ出した魔物が都市を襲うかもしれん。……ギルドの総力を挙げて、最深部の元凶を叩き潰す!」


 ダンッ! と机を叩き、ギデオンさんは立ち上がった。


「これより、この異常ダンジョンに対する【大規模討伐作戦(レイド)】を発令する! 都市に滞在するBランク以上の全冒険者、および高位魔術師部隊を緊急招集しろ! 最深部のボスは、高火力の『爆裂魔法』の一斉掃射で、跡形もなく消し炭にしてくれるわ!!」


 ギデオンさんが力強く『完全殲滅』を宣言した瞬間。


『も、もっきゅぅぅぅッ!?!?』


 私の頭の上で、アノマロちゃんがこの世の終わりのような悲鳴を上げて跳ね上がった。


(ストォォォップ!! 爆裂魔法で消し炭にしたら、私の極上熟成オーガ肉がただの苦い炭素の塊になっちゃうでしょぉぉっ!? お肉は火加減(メイラード反応)が命なのよ!!)


「クロエ、先行調査を果たしたお前さんたちにも、道案内として本隊に同行してもらうぞ!」

「はいっ! 街の平和のために、私たちも精一杯頑張ります!」

『もっきゅ!!(街の平和はどうでもいいけど、お肉の美味しい焼き加減(レア)だけは絶対に死守するわよ!!)』

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