第8話 温泉床暖房付きマイホーム、建てちゃいました☆
ふぅ……。うどん、まじウマいし最高なんだけど……。
私は地底湖の薄暗い水の中を、十対の鰭状の脚を器用にくねらせながら、ぷかぷかと浮いていた。
ヨホイアの自慢の大腕をカチカチと鳴らしながら、口元についたマナ線虫の残骸をぺろりと舐めとる。
確かに、この一対のハサミでクネクネ逃げ惑う「高タンパクなうどん」を捕まえては、丸呑みにする生活は、控えめに言って脳汁ドバドバである。
でもさ。でもね?
立ち泳ぎしながら、泥を掘り返してうどんを一本一本捕まえて啜るの、ぶっちゃけ「タイパ」悪くない?
というか、ずっと鰭脚をパタパタ動かして姿勢維持してるの、地味に筋繊維が乳酸溜まりまくりで疲れるんですけど!
ノープリウス幼生(2ミリ)時代に比べたら、体長1.5センチのヨホイア形態に進化したのはまじ大勝利なんだけど……。
せっかくここまで這い上がったんだから、もっとこう、人間らしい『生活の質(QOL)』を爆上げするべきじゃん?
そうだよ。
ダーウィン先生だって、進化の過程においては「環境への適応」と同時に「いかに効率よく生存エネルギーを節約するか」が重要だって言ってた。 気がする(適当)。
いつまた強酸スライムな化け物に襲われるか分からない状況で、無防備にその辺に浮いて寝るなんて、生物学的に生存確率を下げるだけの愚行である。
よし決めた!
私、一軒家を建てるわ!
カンブリア・ダンジョン最下層に、まさかの不動産ブーム到来である。
とはいえ、ここは有毒の硫化水素とメタンガスがボコボコ湧き出る極限環境。
そこらの泥を積み上げただけじゃ、時折クラックから噴き出す熱水流で一瞬にして土砂崩れを起こしてマイホームが崩壊してしまう。
だが、そこは理系JK。
使えるものは、自分の抜け殻から宿敵の残骸まで、何でも有効活用させてもらう。
まずは基礎の柱ね。 ……あった、これこれ!
地底湖の底に沈んでいた『それ』を、私は大腕で力強く持ち上げた。
熱水シャワーのゆで卵にしてやった、体長2センチの巨大ゾウリムシ(ギガ・シリアータ)の硬い外被である!
うーん、サイズ感バッチリ! 最高にサステナブルじゃん!
ちなみに、2ミリ時代の私の抜け殻は、可愛い『表札(お守り)』として玄関口に飾っておくことにした。
ふふふ……。 エモい!
さらに、柱を固定するための「コンクリート」も自作する。
水の中でただ泥をこねたって、すぐに溶けちゃうからね。
地底湖の底に沈む目の細かい「玄武岩の火山灰粘土」に、私の口から分泌した『粘液』をブレンドし、大腕でこねこね、こねこねと混ぜ合わせる。
うん、いい感じ!
水生昆虫が砂と唾液で強固な巣を作るのと同じ、自然界の知恵!
玄武岩のシリカ成分による耐熱・耐酸性が合わさった、ミクロ界最強の『バイオセメント』の完成だよっ♡
これを玄武岩のクラック(岩の裂け目)の絶妙な凹凸に塗り込み、ペリクルの柱を固定。
気密性と頑丈さを極限まで高めた、プライベート空間抜群の「ミクロ・シェルター」が完成した。
だが、これで満足しないのが、こだわり派の私である。
やっぱり、お家を建てるなら『温泉付き床暖房』は必須だよね!
私はマイホームの床下となるクラックの底から、百度の熱水が吹き出している細い熱水脈を発見。
ダクトなんて作らなくても、絶妙な角度で玄武岩の小石を配置してやれば、流体力学的に熱水のベクトルを床下へと誘導できる。
「熱源の百度の熱水」と「地底湖の冷たい冷水」が完璧に対流するように小石の角度を調節し、マイホームの床を常にぬくぬくの四十度に維持する、天才的な温泉床暖房システムを完成させた。
あぁ〜……あったか〜い。
温泉床暖房、まじ極楽なんですけど……。
マイホームの中で丸くなり、床暖房のぬくもりに身を委ねる。
鰭脚を動かさなくても、気密性の高いシェルターが外の危険な水流をシャットアウトしてくれる。
そして、最後の仕上げ。
温泉といえば、やっぱり『温泉街の流しそうめん』だよねっ!
私はマイホームの入り口に、玄武岩の欠片をV字型に配置して、流体力学的な一方通行の「水流トラップ」を構築した。
外の水流に乗ってクネクネと流れてくる経験値うどんたちが、このV字の隙間に頭を突っ込むと、水圧の関係で抜け出せなくなり、勝手に入り口の「生け簀」に溜まっていく仕組みである。
ふははは!
温泉床暖房に浸かりながら、目の前を流れてくる新鮮なうどんを、大腕でパッと掴んでダイレクトに啜る!
究極の『全自動・流しうどん給食システム(永久機関)』の完成だよォォ!
パチリと大腕を鳴らすと、スリットに引っかかった極上のマナ線虫が、私の口元へと流れてくる。
それをハグッと丸呑みにする。
うん、適度に温泉で温められてて、まじでうどんのモチモチ感がアップしてて超ウマい!
やったーー!
始めてのマイ・ホームが完成したよ!
ダーウィン先生、見てる!?
私、ついにこの過酷な異世界で、一等地の不動産を手に入れたよっ!
ゲップをしながら、快適すぎる温泉マイホームの床にゴロゴロと寝転がる。
漂うだけ、逃げ回るだけだった最弱プランクトンが、今や一軒家持ちのセレブヨホイアである。
生存確率0%? 自然淘汰?
フン、そんなの、この快適すぎるニート・ハウスの前にはただの笑い話じゃん!
私は温かい温風を感じながら、すやすやと幸せな眠りに落ちていくのだった。
——しかし、この時の私はまだ知らなかった。
この「うどんの生け簀監禁」と「床暖房による局所的加熱」が、地底の泥の中に眠る『地獄の店長』をブチギレさせて呼び覚ますトリガーとなってしまうことを……。




