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第64話 【大怪獣プロレス開幕】激突する泥試合! 最後にモノを言うのは『愛の腕力』なんだから!

 三十メートルと三十メートル。

 途方もない質量の塊が、赤黒い焦土のど真ん中で、真正面から激突した。


 ドッゴォォォォォォォンッッッ!!!!!


 空気が破裂し、暴風が吹き荒れる。

 大地が悲鳴を上げてすり鉢状に陥没し、衝撃波だけで周囲の巨大シダが根元から薙ぎ倒されていく。


『ギャルルルルォォォォォッ!!』


 暴虐竜ディアボロドンが、獣脚類の凶悪な顎を大きく開き、私の右肩――白銀に輝くキチン質の甲殻へと狂ったように齧りついてきた。


 メキキキキッ……!!


 鋼鉄をも噛み砕く無慈悲な咬合力。

 私の分厚い甲殻に深く牙が食い込み、ミシミシと亀裂が走る。


 痛い! 痛い痛い痛いッ!!

 だけど――砕かれない!


 これまでの私なら、外骨格が割れた瞬間に内臓が潰れて即死していた。

 しかし今の私には、甲殻のすぐ下で脈打つ、ピカちゃんから受け継いだ『パステルブルーのしなやかな筋肉』と、強靭な『竜の背骨(内骨格)』がある!

 外側の装甲が牙を受け止め、内側の筋肉層がクッションとなって致命的な圧力を分散(アブソーブ)しているのだ。


 甘いわよ……ッ! これが私たち二人の、最強の絆(ハイブリッド)なんだからァッ!!


 私は齧りつかれたままの姿勢で、大樹の幹のような多脚で大地をガッチリと掴み、踏ん張る。

 そして、側面のフラップから進化した『二本の極太の剛腕』を振りかぶり、暴虐竜のガラ空きになった横腹へ向けて、渾身のフックを叩き込んだ!


 バガァァァンッ!!


『ガ、ァァッ……!?』


 数十トンの腕力が暴虐竜の肋骨を軋ませる。

 たまらず顎を離した暴虐竜だが、バケモノは決してひるまない。

 即座に身を翻し、アンキロサウルスの装甲に覆われた巨大な『尾のハンマー』を、私の横顔めがけてフルスイングしてきた。


 ――ズドォォンッ!!!


 まともにぶん殴られ、視界が激しく揺れる。

 脳髄が揺さぶられ、私の三十メートルの巨体が大きく横へとよろめいた。


 くぅぅっ……! さすがに重い! 脳震盪を起こすかと思った!

 だけど、倒れない!


 お返しよッ!!


 私はよろめいた反動を逆に利用し、背面の甲殻から連なる『大蛇の尾』を、ムチのようにしならせて振り抜いた。

 先端で鋭く輝く【三日月型の刃】が空気を切り裂き、暴虐竜の強固な脚の装甲の隙間を、正確無比に斬り裂く!


 ギシャァァッ!


 装甲が削れ、赤黒い血が宙を舞う。


『ギ、ギルルルルルッ……!!』


 激痛に咆哮を上げた暴虐竜と、私は再び真正面から『がっぷり四つ』に組み合った。


 ミシミシ、メキメキメキッ……!!


 二匹の大怪獣による、純粋な力と力の押し合い。

 暴虐竜の太い腕と私の剛腕が絡み合い、互いの巨体がぶつかり合って、凄まじい摩擦音が焦土に響き渡る。一歩踏み込むたびに、地面が豆腐のように抉れ、泥とガラス片が天高く舞い上がる。


 純粋な『筋力』だけなら、複数の心臓とサブ脳を無理やり繋ぎ合わせたキメラであるあいつの方が上だ。ジリジリと、私の巨体が後ろへと押し込まれていく。

 密着した状態から、暴虐竜が再び牙を剥いて私の喉元を食い千切ろうと迫る。


 噛みつきのゴリ押し!? ならこっちだって齧ってやるわよ!

 ラディオドンタ類の『口』がどこにあるか、教えてあげる!


 私は組み合ったまま、自身の腹部を暴虐竜の胸元へ強く押し付けた。

 アノマロカリス類特有の、腹側に備わった【放射状の巨大な口器(オラルコーン)】。

 パイナップルの輪切りのように歯車状に並んだ幾重もの硬質な歯が、グラインダーのように超高速で回転し、暴虐竜の分厚い胸の装甲を直接削り(齧り)始めたのだ!


 ゴリゴリゴリゴリゴリッッ!!!


『ギャ、ガアアアァァァッ!?』


 カンブリア紀の悪夢が装甲を粉砕し、肉を抉る生々しい音。

 予想外の位置からの強烈な『齧り攻撃』に、暴虐竜がたまらず苦悶の声を上げ、前のめりになっていた重心が浮き上がった。


 ――相手の運動ベクトル(力)をいなし、自らの力と掛け合わせる力学の極致。

 いわゆる、『柔術』よ!!(※おじいちゃんの道場で小学生の時にちょっとだけ齧ってたのよね……)


 浮き上がった重心を見逃さず、私は多脚の関節を一気に脱力させて、ぐっと姿勢を低く沈み込ませた。


『……!?』


 突然抵抗を失った暴虐竜の巨体が、完全にバランスを崩す。

 その瞬間!


 私は沈み込んだ低い体勢から、暴虐竜の太い二本脚の間に自らの身体を潜り込ませ、前方に突き出した【巨大な双剣(大鋏)】で、敵の腰の関節をガッチリと挟み込んでホールドした!

 そして、内骨格の『竜の背骨』が生み出す驚異的なバネを全開にし、テコの原理で相手の重心を天へと跳ね上げる!


 もらったァァァッ!! ふっ、とべぇぇぇぇぇっ!!!


 三十メートルの巨体が。

 何百トンもの質量を持つ暴虐竜が、私の背中の上を滑るようにして、真っ逆さまに空へと舞い上がった。

 美しい放物線を描いた巨大な巴投げ!


 ズッドォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!!!!


 暴虐竜の巨体が、脳天から焦土へと真っ逆さまに叩きつけられた。大地が割れ、地震のような激震が特異空間全体を揺るがす。


 シャアアアアアッッ!!!


 私は倒れ伏した暴虐竜の胸元へ、多脚を使って一気にマウントポジションへと馬乗りになった。

 逃がさない。このまま一気に削り切る!

 私は高く振り上げた【巨大な双剣(大鋏)】を、仰向けにもがく暴虐竜の装甲の隙間、首元や関節の柔らかい部分へ向けて、ミシンのような速度で容赦なくメッタ刺しにする!


 ザシュッ! ザグゥゥッ! バキィィィッ!!


『ガ、アアアァァァッ!! ギャアアアアッ!!』


 赤黒い体液が間欠泉のように噴き出し、私の白銀の甲殻をどす黒く染め上げていく。

 蟲たちの特攻でダメージを受けていた喉の奥(チャージ器官)にも刃が深く突き刺さり、バケモノの体内機構がボロボロに破壊されていく。


 どう!? これが私たち『生きる命』の力よ!


 遠くの安全圏から、プルちゃんと姫アリたち、生き残った蟲たちが、私たちの圧倒的なプロレスに歓喜のフェロモンを上げ、触角を激しく震わせて応援してくれている。

 勝てる。完全にマウントを取り、相手の息の根を止めるのは時間の問題だ。


 ――だが。

 大自然の理から外れた『生命体』の悪あがきは、私の想定する生物学的常識のさらに外側にあった。


 ズクンッ……!!


 突如、私の足元で、暴虐竜の腹部と腰部が、あり得ないほど大きく膨張を始めたのだ。


 え……? なに、これ……。


 暴虐竜の四つの目が、完全に焦点の合わない白濁した色へと変わる。

 悲鳴を上げていたはずの巨体がピタリと動きを止め、その装甲の隙間という隙間から、太陽のような【青白い閃光】が漏れ出し始めた。

 バチバチバチッ!! と、周囲の空気がプラズマ化して弾け、焦土が再びドロドロに溶け始める。


 待って、チャージ器官はさっきの特攻と私の双剣で完全に潰したはずでしょ!?


 私は慌てて距離を取ろうとマウントから飛び退いたが、暴虐竜は起き上がろうともしなかった。

 仰向けに倒れたまま、その巨体の内側に隠された『複数ある予備の心臓』のすべてが、一斉に臨界点を超えて暴走を始めていたのだ。


 ……そうか。こいつ、生き残ることを諦めたんだ。

 喉の器官が潰されたのなら、体内に残されたすべての心臓と魔力を暴走させ、己の肉体そのものを『巨大な爆弾』に変えて、この空間にいるすべての命を道連れにする気なのだ。

 これは、防御も回避も不可能な【全方位への自爆プラズマ】!


 みるみるうちに、巨体が青白い超高熱のエネルギーの塊へと圧縮されていく。


『おねえさま……ッ! あれ、すごく危ないですぅ……っ!!』


 私の中で、ピカちゃんの魂の震える声が響く。


 ええ。直撃すれば、三十メートルの甲殻だろうが一瞬で蒸発するわ。

 逃げ道なんてない。青白く染まりゆく終わりの門の前で。

 私は、逃げる代わりに、大地の泥を強く踏み締めた。


 だったら……やることは一つしかないわね。

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