↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/122

第6話 念願のアップデート! グレート・アペンデージが火を噴くぜ!

 じゅっ、という不気味な熱凝固音がクラック内に響き渡る。

 摂氏百度の熱水を顔面から直撃したギガ・シリアータたちの細胞が、一瞬にして真っ白に白濁し始めた。単細胞生物を形作るタンパク質が、高熱によって瞬時に変性――すなわち『ゆで卵化』したのだ。


 まさに、地底湖名物『ゆでゾウリムシ』の完成である。(※グロ注意!)


 熱水で凝固し、ピクリとも動かなくなったギガ・シリアータの死骸。

 その中央で、彼らの生命エネルギーの結晶である青い『魔石』が、裂けたペリクルの隙間からポロリと露出した。


 キタキタキタァ! 最高のおやつが目の前に! ……じゅるり。


 私は、割れかけた古い殻の隙間から、最後の力を振り絞って付属肢の剛毛を伸ばす。

 極小の魔石をなんとか絡め取って口元へと引き寄せ、ハグッ、と丸呑みにした。


 食道を通り、消化管に落ちた魔石が、私の分泌する酵素によって瞬時に溶解されていく。

 その瞬間、体表を走る原始的な神経網が、まるで落雷に打たれたかのような激しい魔力の奔流で満たされた。


 あ、あつっ……! なにこれ、すっごいエネルギー……!

 ミトコンドリアのATP(アデノシン三リン酸)合成がバグって、オーバーフローしそうなんですけど!


 アーキアとは比べ物にならない莫大なアミノ酸と、高度に機能特化された遺伝情報が、私の『白紙の設計図(ゲノム)』へとダイレクトに書き込まれていく。

 全身の細胞が狂ったような魔力で満たされ、超高速の細胞分裂が始まった。


 バキバキバキバキバキッ!!!


 私の全身を覆っていた薄くて不自由なプランクトンの殻が、内側から爆発するような進化の膨張圧によって粉々に引き裂かれる。

 魔力の光が地底湖の闇を淡く照らし、私の身体は急激にその質量を増大させていった。


 2ミリ……5ミリ……1センチ……。

 そして、わずか一分足らずの間に、私の体長は一気に【1.5センチ】へと到達した!


 それは、これまでの「ただ漂うだけの無力なプランクトン」ではない。

 地球の古生代カンブリア紀、あらゆる生物に「捕食される恐怖」を初めて植え付けた、頂点捕食者の系譜に連なる姿。


 大進化(メガ・エボリューション)……キメちゃった!

 待って、私、何の進化ツリーにジャンプしたの……!?


 全身を包むのは、しなやかで硬質なキチン質の外骨格(背甲)。

 腹側に並ぶのは、水を鋭く切り裂いて推進力を生む十対の鰭(ひれ)状の遊泳脚!

 そして何より――私の頭部の両脇から、不気味に、だが最高に美しく前方へと突き出した、一対の強靭な折り畳み式のアーム。


 節足動物の進化史において、初めて「獲物を能動的に掴んで捕食する」ために生み出された奇跡の武装――【大付属肢(グレート・アペンデージ)】!


 初の本格的な変態脱皮――カンブリア紀の狩人【ヨホイア形態】への進化(アップデート)完了!!


 私は自分の意志で、先端に4本の鋭いトゲを備えたその大付属肢を、シャキーン! と前方へ展開してみた。


 う、動くぞ……! 私の思い通りに、肘の関節がしなり、先端のトゲがハサミのように力強く開閉する!

 これ、控えめに言って生体力学(バイオメカニクス)と物理エンジンの奇跡なんですけど!!

 最高にエグカワ!!


 これまでは付属肢の剛毛をパタパタさせて微生物を濾し取るだけの、受動的(パッシブ)な「濾過摂食プランクトン」だった私。

 だけど、今の私は違う。

 このトゲ付きの大付属肢で、目の前を泳ぐ獲物をガシッと捕獲し、能動的に引き裂いて喰らうことができる――本物の『捕食者(プレデター)』へと覚醒したのだ!


 ダーウィン先生! 私はついに、進化の階段を自分の爪(アーム)で登り始めましたよ!

 さぁ、この地底湖のぬるま湯な生態系、私のこの新しい腕でぜーんぶ『再定義(アップデート)』しちゃおっか♡


 私は十対の遊泳脚をメタクロナル波でリズミカルに波打たせ、ヨホイアの流線型の漆黒ボディで、驚異的なスピードで水中へと滑り出した。

 粘性に縛られていたプランクトン時代とは違い、しっかりと水を蹴って加速できる『慣性』の快感が全身を駆け抜ける。


 ――直後、頭部に新しく形成された一対の『複眼』が、地底湖の泥底を這い回る細長いシルエットを鮮明に捉えた。


 半透明の円筒形の身体をクネクネと不気味にうねらせ、泥の中の有機物を啜っている、体長1センチほどの糸状の生物。


 でかっ! 出たな、巨大化した『線虫(C・エレガンス)』……!

 生物学の研究室(ラボ)でお馴染みの最強のモデル生物にして、このミクロ生態系における純度100%の『動くアミノ酸(雑魚モブ)』!


 私は、前方に突き出した大付属肢の先端のトゲを、威嚇するようにカチリ、カチリと鳴らした。


 さぁて、私の新しいハサミのホールド力と切れ味……あのクネクネ動く『経験値うどん』で、存分に試し斬りさせてもらおうか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。