第6話 念願のアップデート! グレート・アペンデージが火を噴くぜ!
じゅっ、という不気味な凝固音がクラックに響く。
百度の熱水を顔面から直撃したギガ・シリアータの細胞が、一瞬にして真っ白に濁り始める。
単細胞生物を形作るタンパク質が、熱水によって一瞬で『ゆで卵化』したのだ。
まさに、地底湖の『ゆでゾウリムシ』の完成である。(※グロ注意!)
熱水で凝固し、ピクリとも動かなくなったギガ・シリアータの死骸。
その中央で、彼らのエネルギーの結晶である青い『魔石』が、壊れたペリクルの裂け目からポロリと露出した。
キタキタキタァ! 最高のおやつが目の前に!……じゅるり。
私は、古い殻の隙間から、最後の力を振り絞って剛毛を伸ばす。
魔石をなんとか絡め取って、口元へと引き寄せた。
そして、ハグッ、と丸呑みにする。
喉を通り、胃に落ちた魔石が、私の分泌する消化酵素によって瞬時に溶解されていく。
その瞬間、皮膚の表面を走る原始的な神経網が、まるで落雷に打たれたかのような、激しい魔力のフラッシュバックで満たされた。
あ、あつっ……! なにこれ、すごい魔力の奔流……!
ATP(アデノシン三リン酸)の生成バグってオーバーフローしそうなんですけど!
バクテリアとは比べ物にならない、莫大なアミノ酸と、機能特化されたDNA情報が、私の『白紙の設計図』へとダイレクトに書き込まれていく!
私の細胞が、狂ったようなエネルギーで満たされ、超高速の細胞分裂が始まった。
バキバキバキバキバキッ!!!
私の全身を覆っていた、薄くて不自由なプランクトンの皮が、内側から爆発するような進化の圧力によって粉々に引き裂かれる。
光が地底湖の闇を淡く照らし、私の身体は、脱皮のたびに急激に質量を膨らませていった。
2ミリ。
5ミリ。
1センチ。
そして、一分足らずの間に、私の体長は一気に【1.5センチ】へと到達した。
それは、これまでの「ただ這うだけの虫」でも「漂うだけのプランクトン」でもない。
地球の古生代カンブリア紀、あらゆる生物に「捕食される恐怖」を植え付けた、最初の頂点捕食者の祖先の姿。
大進化……キメちゃった!
待って、私、何の進化ツリーにジャンプしたの………!?
これは、硬質なキチン質の外骨格。
それに、水を鋭く切り裂く十対の鰭状の脚!
そして、何よりも私の頭部の両脇から、不気味に、だが最高に美しく前方に突き出した、一対の強靭な腕。
節足動物の歴史において、初めて「獲物を能動的に掴んで捕食する」ために生み出された奇跡のデバイス——
【トゲ付きの大腕】!
初の本格的な脱皮——【ヨホイア形態】への進化完了!!
私は、自分の意志で、そのトゲ付きの大腕をシャキーン! と前方に展開してみた。
う、動くぞ……! 私の意志の通りに、ハサミのように力強く開閉する!
これ、控えめに言って生体力学と物理エンジンの奇跡なんですけど!!
最高にエグカワ!!
これまではエラをパタパタさせてバクテリアを濾し取るだけの、パッシブな「濾過摂食プランクトン」だった私。
だけど、今の私は違う。
この大腕で、目の前を泳ぐ獲物をガシッと掴み、能動的に引き裂いて喰らうことができる——
本物の『捕食者』へと覚醒したのだ!
ダーウィン先生!
私はついに、進化の階段を自分の爪で登り始めましたよ!
さぁ、この地底湖のぬるま湯の生態系、私のこの新しい腕で、ぜーんぶ『再定義』しちゃおっか♡
私は、十対の脚をリズミカルに蠢かせ、ヨホイアの漆黒のボディで、驚異的なスピードで水の中を泳ぎ出した。
——直後、新しく獲得した『複眼』が、地底湖の泥地を這い回る細長いシルエットを捉えた。
半透明の身体をクネクネと不気味にうねらせ、泥の中の有機物を啜っている体長1センチほどの糸状の生物。
でかっ! 出たな『線虫(C・エレガンス)』……!
生物学の研究室でお馴染みの最強のモデル生物にして、このミクロ生態系における純度100%の『動くアミノ酸(雑魚モブ)』!
私は、前方に突き出したトゲ付きの大腕を威嚇するようにカチリ、カチリと鳴らした。
さぁて、私の新しいハサミのホールド力と切れ味……あのクネクネ動く『経験値うどん』で、存分に試し斬りさせてもらおうか!




