第55話 『告ぐ。創造神御自らによる、完全敗北フラグの建築を天の書に記録せり』
『――告ぐ。最上層・第十二区画における生態系エネルギー、次々と消失を確認』
真っ白な神域に響く無機質な声――。
『――告ぐ。通常生態系の頂点たる個体と特定外来生物が接触を開始……。………。………。個体、完全に自然淘汰せり』
無数に浮かぶ巨大なホログラムモニターの前で、ヨレヨレの白衣を着た私――この神立迷宮『ガラパゴス』の創造神は、座っていたゲーミングチェアからズルッと滑り落ちた。
「……はぁぁぁぁぁっ!?」
手から落としたビーカーが床でパリンと割れ、完璧な温度で温めていたコーヒー牛乳が虚しく広がっていく。
だが、そんなものを気にしている余裕はなかった。
「いやいやいや! 山”口ちゃん、今なんて!? あのギガノトサウルス、過酷な最上層で二百六十万年の生存競争を勝ち残った、超完成された頂点捕食者ですよ!? それが、たった数秒でワンパン!?」
『――真なり。特定外来生物が放ちし超音速の刺突により、心臓が粉砕された事実を確認せり』
「だからその『超音速』がおかしいって言ってるんですよォォォッ!!」
私はモニターに映し出された、悠然と空を飛ぶ『体長十メートルの白銀の大怪獣』を指差して、頭を抱えながら絶叫した。
「なんで水棲の節足動物が、空中で超音速ホバー機動をキメてるんですか!? 流体力学バグってんのか! しかも直前にカロリー全焼却して十メートルに急速脱皮で巨大化!? はぁ!? チャールズ・ダーウィン先生が泣いてますよ! 進化論は『質量兵器』の免罪符じゃないんですよ!?」
『――告ぐ。特定外来生物の随伴個体における、余剰バイオマスの異常なる再分配を観測せり。骨格成長の理を無視し、獲得せしエネルギーのすべてを『女性的プロポーション(胸部および臀部)』へと全振りせり』
「そこもですよォォォ!!」
私は白衣のポケットから胃薬を取り出し、ボリボリと噛み砕いた。
「エネルギーの分配効率どうなってんだよ! 質量保存の法則がダイレクトに『エロ(美しさ)』に変換されてるじゃないですか! ええい、けしからん! 最高にエロいから許すけども! 神として許すけども!!」
『――摂理との矛盾を指摘。創造神たる貴方の職務怠慢、および個人的嗜好による理の緩和は、迷宮の生態系崩壊を招く愚行なり』
「うるさーい! 創造神の特権ですー!」
私はゲーミングチェアによじ登ってあぐらをかき直し、ゼェゼェと荒い息を吐いた。
モニターの中では、十メートルに巨大化した種田くんと、色気と武威を極めたラミア(ピカちゃん)、そして謎の変異種サソリ(プルちゃん)が、楽しそうに極上肉の血祝の宴を開いている。もはや、大自然の絶対法則など、彼女たちの前ではただの『お食事タイム』に成り下がっていた。
「……はぁ。まさか、あのポンコツ新人ちゃんが送り込んできたイレギュラーが、一気にエンディング(迷宮踏破)へと向かう勢いで私の箱庭をハックし尽くすとは思いませんでしたよ。すごい攻略スピードですよね〜」
私は偏光ガラスの眼鏡をクイッと押し上げ、モニターのさらに奥――迷宮の最深部を映し出した。
そこにそびえ立つのは、地上世界へと続く唯一の出口『終わりの門』。
「ま、いいでしょう。彼女たちのオレツエー無双もここまでです。……だってあの門の前には、私が作った【最強の生物】が控えているんですから」
『――呼称:暴虐竜ディアボロドン。……創造神が暇をもてあそび、アホな思いつきの強固なるパーツを無秩序に接ぎ合わせた結果、生物学的に完全に破綻せし『大いなる失敗作』なり』
「言い方ァ! 山”口ちゃん、相変わらず容赦ないですね!」
私はむっとしながらも、モニターに映る三十メートルの異形――暴虐竜の姿を見て、ニヤリと口角を上げた。
「ええ、たしかにアレはやりすぎました。強靭な獣脚類の肉体に、アンキロの装甲、さらには古今の全ステータスを乗せたら、自重で潰れて酸欠で死ぬクソザコ生物になっちゃいましてね」
『――故に、あの門の周辺一帯のみ、物理法則を『高流体密度・超高濃度酸素・生体骨格(リン酸カルシウム)の支持力極大』へと局所的に書き換えるという、創造主としてあるまじき修正を施した記録が天の書に残存せり』
「だから言い方! 創造神のテコ入れと呼んでください! ……コホン。それに、あの巨体を動かすために心臓を複数にして、腰にサブ脳(仙髄神経節)を突っ込んだ多重器官生物にしちゃいましたし。【絶対物理障壁(空間凝縮壁)】まで付けちゃいましたからね。やっぱりラスボスには手出し不可能な無敵バリアがないとカッコつかないよね〜」
私は得意げに、ホログラムの指をピシッと立てた。
「この障壁は、空間の分子結合を固体レベルまで凝縮させる絶対防御。突破するための条件は二つ。一つは、迷宮のシステムに登録された『契約者』であること。もう一つは、ディアボロちゃんと同じ特定の遺伝子波長『DNA(IFF)』を持つ同族であること!」
私はゲーミングチェアの上でふんぞり返り、高笑いを上げた。
「あの特定外来生物(種田くん)は、なぜか最初から『IFF』を持っていました。しかし! 彼女はシステム外のバグなので、さすがの私でも『契約者』には残念ながらできませんでした! そして、私が『第二の契約者』に認定した隣のラミアは、あの障壁を抜けるための『IFF』を持っていない! つまり、あの子たちは絶対に障壁を突破できないんですよ! 完全なる無理ゲーなんです! ふはははっ! たっのしみだな〜!」
『――天の書に刻印せり』
「何をですか、山”口ちゃん?」
『――創造神御自らによる、あまりにも美しき『完全敗北フラグ』の建築を確認。此度の音声記録は、天界の叡智へと永久に保存せり』
「フラグじゃありませぇぇんッ! これは絶対の自信ですぅ! 見てなさい、私の最高傑作が、あのイレギュラーたちを完璧に自然淘汰てやりますからねッ!」
天界のモニタールームに、私の叫びが響き渡る。
こうして、創造神と山”口ちゃんが見守る中――彼女たちは最上層の最奥、『終わりの門』へと足を踏み入れようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今回は久しぶりの天界組視点!
アノマロちゃんたちの規格外な進化(とピカちゃんの限界突破したプロポーション)に、創造神である神先輩も胃薬が手放せないご様子です(笑)。
そして、山”口ちゃんに「完全敗北フラグ」と認定されてしまった絶対物理障壁と、ラスボス・暴虐竜ディアボロドン。果たしてアノマロちゃんたちは、この『絶対に突破不可能な無理ゲー』をどうやって物理と生物学でハックするのでしょうか……!?
「神先輩の美しいフラグ建築ウケる!」「山”口ちゃんのツッコミ最高!」と思っていただけた方は、
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いよいよ第一部のクライマックスへ突入します。引き続きよろしくお願いいたします!




