第46話 あちょーっ! 泥酔理系JKのデタラメ酔拳、いっくよー!
天地の理とかマジ知らんしー! 物理法則仕事しろし〜〜!
泥濘の中にボウリングのピンさながらに派手に転がった私は、体中泥まみれになりながらも、パラメーターXによる脳内ドーパミン大爆発(酩酊状態)のせいで、ケラケラと大爆笑していた。
あははは! 泥パック、超気持ちいいんですけどぉ〜〜!
「おねえさまぁ! 笑ってる場合じゃないのですぅ〜〜!(シャックリ)」
頬を真っ赤に染めたピカちゃん(二メートルの重戦車ラミア)が、這いずりながら私の前に回り込み、よろよろと蛇尾を構える。
足元ではプルちゃんが泡をブクブクと吹きながら仰向けでピチピチと跳ねていた。うん、全員ストロングに出来上がってる。
しかし、上空を支配する完全光学迷彩の巨大トンボ(メガネウラ変異種)は、私たちの命を確実に刈り取るべく、死角から音もなく再び猛烈な空気の圧縮波を伴って急降下してくる。
キィィィィンッッッッ!!!!
虚空から突き刺さる見えない死神の鋭い大顎が、私の分厚いキチン質の殻を「ガキィィンッ!」と抉り、派手な火花を散らす。
ちょっと〜! さっき見破ったスネルの法則(屈折率同期)で、まだかくれんぼ続ける気〜?
でもね、理論が分かっちゃえば、ハッキングなんて一瞬なんだよっ!
奴の屈折率(n2)が背景の大気の屈折率(n1)と同じだから見えない?
だったらさぁ! 周囲の空気の屈折率(n1)を、強制的に部分改変して不連続にしてあげれば、スネルの法則の境界がズレて、光の進路がグニャリと屈折して姿が浮き彫りになるでしょ!!
私は、自身の書鰓の分泌腺を最大出力で解放した。
ベースは、かつてアシッドスライムから簒奪した、保水性抜群の「親水性ゲル粘液」。これを、体内で発生した高濃度の魔力蒸気(パラメーターX)の圧力に乗せて、周囲の空間にスプレーのように一気に大噴射した!
特製・親水ゲルミスト、大放出ォォォッ!! あちょーっ!
プシュゥゥゥッ!!!
高密度のゲルの微粒子が、周囲の空気にスモークのように充満する。
この魔力を含んだ水気たっぷりの霧が空気と混ざり合った瞬間、私たちの周囲の屈折率(n1)が部分的に急激に変化。メガネウラの体表スキンが保っていた屈折率(n2)との間に、決定的な『光の不連続面』が発生したのだ!
キィィィィィン……!?
中空で、見えない死神の「完全光学迷彩」が、激しい『色収差(プリズム効果)』によってグニャグニャと歪み始める。
ナノ構造の光の迂回システムが霧の粒子によって妨害され、光が乱反射。パステルピンク、シアン、エメラルドグリーンといった、モルフォチョウのようなサイケデリックな虹色の輪郭となって、翼長二メートルの巨大なステルストンボが、中空に「丸見え」になったのだ!
はい、かくれんぼ終了でーす! プリズム仕様の綺麗なおめめ、舐めないでよねっ!
位置がバレて、メガネウラ変異種が焦ったように羽音を激しく鳴らす。
しかし、奴は空中の王。パステルカラーに歪みながらも、獰猛な大顎をカチカチと鳴らし、猛烈な速度で私に向けて最後の一撃を急降下させてきた。
あちょーっ!! 泥酔理系JKの、物理演算ぶっ壊しデタラメ酔拳、いっくよー!
私は、四対の歩脚と一対の遊泳脚、そして巨大な大バサミ(鋏角)を、ふにゃふにゃとだらしなく蠢かせながら立ち上がった。
酔っ払っているため、全身の筋肉の制御が完全にバグっている。右に行くと思ったら左にヨロリ。
1G重力下での関節キノン架橋の硬化も、酔っ払った余剰エネルギーのおかげで、関節がグニャリと百八十度逆回転するという、脊椎動物が見たら発狂するレベルのコズミック・ホラー挙動に変化している。
『ス、ス……!?』
メガネウラは、私の不規則すぎる、物理エンジンがバグを起こしたような軌道に対応できず、鋭い爪撃を完全に空振りさせた。
そこじゃなーい! あたしはここだよっ☆
私は百八十度逆回転した大バサミを、シャコから簒奪した生体スプリングラッチのロックを脳内で一気に解放して射出!
衝撃波とキャビテーション・バブルが「あちょーっ!」と濃いゲルミストの中で弾け飛び、メガネウラの右翅の結合部を物理粉砕した!
「きゅ、きゅいぃ〜んっ! ぼくも、えいっ、えいっ、なのですぅ〜!」
ピカちゃん(へらへら中)も、人間の白い腕をぐるぐると張り手のように振り回し、その規格外の怪力で、メガネウラのもう片方の翅を豪快なラリアットで叩き落とす!
ドサァッ!! と、両翅を失った巨大トンボが、泥の上に無様に墜落した。
完全勝利ぃぃ! ……って、おやぁ?
墜落したメガネウラが泥の上でのたうち回っているその時。
背後のシダの茂みを突き破って、あのビルが丸ごと倒れてくるような巨大質量――全長十二メートル、八トンの暴君「ティラノサウルス」が、血と大騒ぎの匂いに釣られて、再び乱入してきたのだ!
『グギャオォォォッ!!!』
地響きを立てて突進してくる巨獣。普通なら絶望のゲームオーバー。
だが、今の私たちは、パラメーターXによるオーバードーズで「無敵のハイテンション(酩酊)」。
あ、おっきいトカゲちゃんも、アンコールにお応えして登場じゃーん!
「うぇーい、トカゲちゃん、かんぱーい!☆」
ピカちゃんもプルちゃんも、恐怖心なんてとっくにミトコンドリアの熱量で蒸発している。
よーし! ピカちゃん、プルちゃん! 泥酔トリプル合体コンボ、いっちゃうよー!
私は、泥の上でのたうち回っていたメガネウラ(翼長二メートル、体重数十キロ)を、大バサミでガシッと鷲掴みにした。
くらえ! 生体ステルス巨大手裏剣!! あちょーっ!
私は、ティラノサウルスの巨大な顔面に向けて、メガネウラを全力でぶん投げた!
『キ、キィィィ!?』
投げつけられた巨大トンボが、突進してくるティラノサウルスの顔面に直撃。大顎や目に張り付いてパニック状態で暴れ回る。
『グ、ギャォッ!?』
視界を完全に遮られ、突進の軌道がぐらりとブレるティラノサウルス。
さらに、ピカちゃんが動いた。
「おねえさま! ぼくの、大蛇の、ソリ・ドライブ、なのですぅぅっ!」
ピカちゃんは、ツヤツヤな蛇尾でティラノサウルスの太い後脚に瞬時に巻き付き、低重心の「サイドワインダー・タックル」で強引に引き倒そうと引っ張る。
そして、トドメはプルちゃんの仕事人アシスト!
「キリリッ!!」
プルちゃんは、二本の毒尾から「強酸性の消化液」を、ティラノサウルスの足元の泥濘に向けて、消火器のようにドバドバと大噴射した!
強酸が火山灰粘土の泥と激しい化学反応を起こし、一瞬にして、摩擦係数がほぼゼロの「ドロドロの超潤滑スライム滑り台」へと変質する。
『ギャオォォッ!?』
顔面を巨大トンボに塞がれ、ピカちゃんに脚を引っ張られ、さらに足元の泥濘が「摩擦ゼロの滑り台」になったティラノサウルス(八トン)。
自慢の強靭な二本脚は虚しく泥の上を滑り、重力(1G)の法則に従って、盛大にバランスを崩して大転倒!
ズッドォォォォンッッ!!!
八トンの巨体が、泥の上に頭から真っ逆さまに叩きつけられた。
運悪く、その墜落地点には、鋭利な玄武岩の岩角が突き出ていた。
ゴキィィッ!
凄まじい骨折音が響き渡り、ティラノサウルスは首の骨をグキリと折って、ピクリとも動かなくなった。
完全勝利ぃぃ! 死亡フラグの建築、ご苦労様でーすっ☆
私はハサミを打ち鳴らし、完全に酔っ払った無敵のドヤ顔で、ティラノサウルスの巨体を見下ろした。
ふはー……疲れがドッと出たぁ……パラメーターX、一気に抜けそう……。
「おねえさまぁ……ぼく、もう、ねむねむ、ですぅ……」
ピカちゃんが私の背中に、ふにゃふにゃと張り付いてくる。
プルちゃんも、ティラノサウルスの死骸の横で、満足そうにハサミを枕にして丸まっていた。
よし……。今日はこの、おっきいお肉の横で……野宿、決定……おやすみ……。
私たちは、八トンの高級肉を目の前にしたまま、泥の上で折り重なって、泥のように深い眠りへと落ちていくのだった。




