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第43話 理系JKの必修科目! 質量×超音速のロマン砲でわからせます!

「キリリッ!」


 ひときわ腐敗臭が濃く漂う崖の底。

 巨大シダが鬱蒼と生い茂る薄暗い獣道を、七十センチの陸生サソリ・プルちゃんが頼もしく先導していく。プルちゃんの脳内には、この先にある複雑な内部構造(マップデータ)が完璧にインプットされている。これほど心強いナビゲーターはいない。


 目指すは、かつて私を死の昏睡へと陥れた宿敵――巨大サソリ(プルモノスコルピウス)の群れが潜む魔窟だ。

 私たちがシェルターに籠もっている間に見つかるなんて最悪だもんね。あいつらに居場所を察知される前に、こっちから敵の本拠地を潰す。


 私は現在の体長六十五センチのユーリプテルス(ウミサソリ)ボディを駆動させ、泥を蹴る。

 私の意図に頷き、二メートルの美少女ラミアへと大進化を遂げたピカちゃんも、長いまつ毛に縁取られた艶やかな双眸をキリッと細め、レーダー(赤外線と化学物質センサー)を全開にして続く。


 魔窟の入り口を抜けた瞬間、ピカちゃんが警告を発した。


「きゅいっ。おねえさま、前方、天井、泥の下……五十匹以上の群れが密集してます!」


 暗闇の奥、カチカチ、ギチギチという悍ましい足音が洞窟全体を震わせていた。五十匹以上の一メートル級の兵隊サソリが、侵入者を排除すべく殺気立っている。

 ただの兵隊のくせに以前より大きくなってる……。それに、この圧倒的な数……上等じゃない。

 でも、これは単なる殲滅戦じゃないわ。私たち三人パーティの、初めての連携プレイよ! ワクワクするぅぅぅ!!


 ピカちゃん、まずはヘイト管理! 前衛(メインタンク)として群れのラインを抑えて!


「きゅいっ! お任せください!」


 ピカちゃんが体を滑らせ、敵陣のど真ん中へ猛スピードで突撃する。

 五十匹の兵隊サソリの視線(ヘイト)が完全に巨大な彼女へと向いた瞬間、その太い蛇尾が竜巻のように薙ぎ払われた。


 メシャァァァッ!


 十匹以上の兵隊サソリがまとめて岩壁に叩きつけられ、硬質な甲殻がボリボリと無残に砕け散る。圧倒的な質量による物理範囲攻撃だ。

 ピカちゃん、強すぎる……! ひしゃげた死骸から、体液が壁にべっとりとぶち撒けられる。


「シャリリリッ!」


 ピカちゃんが作った陣形の乱れ(隙)を絶対に見逃さず、プルちゃんが弾丸のように飛び出す。

 狙うは、ピカちゃんに気を取られている敵の完全な死角。硬い装甲ではなく、関節の薄い節間膜へ、漆黒の毒針を正確無比なミシンのような速度で次々と突き立てていく。


 見事な暗殺者(アサシン)ムーブ! 神経毒で次々と状態異常(パラライズ)をばら撒いてる!

 ただ、同族同士だとやっぱり致死効果まではイマイチのようね。なら、私の役割は純粋な物理火力(近接DPS)!


 私は泥を蹴り、麻痺して動きが鈍ったサソリたちの間を駆け抜ける。

 ハサミで関節にテコの原理を叩き込み、次々と装甲を剪断していく。


 シャキ、ザクゥゥッ!


 ハサミが肉を断ち切る重たい感触と共に、体液(ヘモリンパ)が間欠泉のように噴き出す。


『ギ、ギャアァァァッ!?』


 正面からの血みどろの蹂躙にパニックを起こした十匹の部隊が、天井の岩陰から私たちの背後(死角)へ奇襲を仕掛けてきた。

 だが、ピカちゃんの赤外線センサーからは絶対に逃れられない。


「上から来ます!」


 プルちゃん、合わせるわよ!


「キリリッ!」


 プルちゃんが素早く跳躍し、落下してくる空中の敵へ麻痺毒の液を散布。

 空中で動きが鈍り、防御姿勢(ガード)が解けた十匹を、私が連続剪断で真っ二つに両断する。頭胸部と腹部が泣き別れになり、ドサドサと泥の上に死体の雨が降る。


 完璧な対空コンボ! これぞパーティの醍醐味ッ!

 切断、圧殺、毒(デバフ)。ヘイトを管理し、デバフを撒き、最大火力で確殺する。私たちの連携は完成されたみたいね。


 数分後。広間には、五十匹の巨大サソリが体液の池に沈み、泥に塗れた凄惨な死体の山を築き上げていた。

 よし! はぁ……はぁ……。完璧な連携だったわ。雑魚(モブ)の掃討は完了ね。


 広間の奥、メインの通路から外れた横穴から、独特の甘い匂いが漂ってきた。群れが溜め込んだ『貯食庫』だ。

 そこには無数の謎肉と共に、青白く明滅する、たった一つの『異物』が鎮座していた。


 待って、この青白く光る巨大甲殻類……異常な硬度だわ。有象無象の兵隊サソリどもじゃ硬すぎて食べられなかったのだろう。

 だが私の化学受容体は、強烈な食欲とともに理解していた。こいつの遺伝子には、極めて強力な『甲殻拡張因子』が組み込まれていると。


 うおおおっ、これ絶対ボス部屋前の確定SSRじゃん!

 私の感覚器官が「早く喰ってくれ」って叫んでるぅぅぅ! 未知の水平伝播(レアドロップ)じゃんッ!


 私たちは未知の甲殻類を強靭な顎でバキバキと噛み砕き、謎肉とともにむさぼり食った。口いっぱいに広がる強烈な旨味と共に、細胞の隅々にまで新しい遺伝情報が書き込まれていく。


 そして、私たちは血の海を越え、『最深部の広間』へとたどり着いた。


『ギ、ギギィィィッ!!』


 この魔窟の主。かつて私を死の淵へと追い詰めた宿敵。

 以前よりもデカくなってる……。突然変異で【二メートル】にまで巨大化を果たしたのだろう。傷跡だらけの漆黒の『アルファ個体』が、配下を皆殺しにされた怒りで赤黒く発光していた。

 こいつの放つプレッシャーだけで、さきほどの五十匹の群れとは完全に次元が違うことが分かる。


 アルファが丸太のような毒尾を猛然と振り回す。

 バゥゥゥンッ!! と凄まじい風圧が広間の空気を震わせ、泥を削り、地鳴りのような足音で突進してくる。


「……おねえさま! いきますっ!!!」


 ピカちゃんが果敢に飛び出し、二メートルの太い蛇尾を巨体に巻き付ける。

 メキメキッ……ギチギチッ! 筋肉が隆起し、硬質な甲羅が軋む。

 だが、アルファは纏わりつくピカちゃんごと強引に前進し、岩壁に向かって自らを猛烈な勢いで叩きつけた。


 ズドォォォンッ!!


「きゅ、あァァッ……!?」


 肺から空気が搾り出されるピカちゃん。

 主は苛立ったように顎を鳴らすと、自身に巻き付いている彼女に向かって、ノコギリのようなトゲの生えた巨大なハサミを無慈悲に振り下ろした。


 ザクゥゥゥッ!!


「きゅ、あァァァァッ!!」


 生々しい肉の断裂音。ピカちゃんの真っ白く細い左腕が、肘下から無残に切断され、真っ赤な鮮血を撒き散らしながら泥の上に落ちた。

 想像を絶する激痛に、ピカちゃんが痛ましいほど顔を歪め、大粒の涙をボロボロとこぼす。


 ピ、ピカちゃぁぁぁんッ!?


「い、痛いです……っ。でも、まけないですっ!!」


 ピカちゃんは残された右腕と蛇尾だけで、主の甲殻にさらに強くしがみついた。

 その左腕の凄惨な切断面では、赤黒い肉芽が、まるで生きた粘菌のように蠢き出していた。


 グチュッ、シュルルルッ……。


 毛細血管が編み込まれ、軟骨が形成され、ゆっくりと、だが確実に『新しい腕』が紡ぎ出されていく。


 えええっ、肉芽から腕生えてきた!? ピカちゃんの再生力(リジェネ)、いくらなんでも物理法則無視のチートすぎでしょ!

 だが、数秒でポンッと元通りになるような都合のいい魔法じゃない。肉体がゼロから腕を創り出す、膨大なエネルギーと『時間』を要する命懸けの生体反応だ。


 再生し切るまでに時間がかかる……! 今の片腕じゃ、あいつの力は抑えきれないッ!


 その懸念通り、再生中で力が入らない無防備な状態を突かれ、アルファは巨大な尾を薙ぎ払った。


「きゃあぁぁぁっ!?」


 ピカちゃんの蛇尾が強引に引き剥がされ、岩壁の彼方へとホームランのように撥ね飛ばされる。

 前衛(タンク)が崩され、アルファの凶悪な眼が私を向く。鋼鉄のギロチンのようなハサミが叩き落とされた。


 メチャァァッ……! バキ、メリメリッ!


 圧倒的な力でプレスされ、私の硬いキチン質の甲殻にヒビが入る。主は私の右の前脚(ハサミ)を根元から力任せに捻り上げた。


 ブチィィィッ!!!


 あ、がっ……!!

 激痛。私の右腕が関節の根元から粉々に砕かれ、体液を間欠泉のように噴き出しながら、無残にもぎ取られた。重心を失い、泥に伏せる。体液が止めどなく流出していく。


 強い……! 前より格段に強くなってる!

 だけどね! こっちだって秘密兵器があるのだよ!


 アルファが、トドメの毒針を私へと高く振りかぶる。


「シャリリリリリッ!!」


 泥を蹴り、矢のように跳躍する小さな影。プルちゃんだ。

 自身を迫害した主の巨大な腕の関節、その薄い節間膜に向かって、漆黒の毒針を深々と突き刺した!

 特濃神経毒が直接流し込まれ、アルファの動きが『ほんの数秒』だけ完全に硬直する。口器から苦悶の泡がブクブクと吹きこぼれる。


 状態異常(パラライズ)付与! ナイス、プルちゃん! ……よし、私だって……ッ!!


 貯食庫で喰らった『未知の遺伝子』が、今ここで爆発的に開花する。


 ズチャッ、ヌチュゥゥゥッ……!


 背中の正中線が裂け、古い殻の内側に張り付いていた肉を力ずくで引き剥がす。もぎ取られたはずの右腕の付け根からは、ひと回りもふた回りも巨大化を秘めた新しい『超巨大大バサミ』が、濡れた膜を破ってドゥルンッ! と引き抜かれた。


 バキィィィンッッ!!!


 まばゆい光の霧の奥から這い出てきたのは――。

 体長、一気に【一・二メートル】へ!

 地球の古生代史上、最大最強のサイズと大バサミを誇る伝説のダイオウウミサソリ。


 ――【プテリゴトゥス形態(体長1・2メートル)】!!!


 キタキタキタァァァ!

 私の体は、拡張因子のおかげで脱皮直後のフニャフニャタイムが即座にスキップされ、光の中で白っぽかった外骨格が一瞬にして黒光りする鋼鉄へと異常硬化(インスタント・アーマー)している。


 みんな、怪我の完治(フルリペア)は済んでるわね!? 終わらせるわよ、私たちの『全部』を乗せて!


 私が叫ぶと、岩壁から這い上がったピカちゃんと、主の背中から飛び降りたプルちゃんが同時に頷いた。ピカちゃんの左肘から下は、羊水のような粘液に濡れた真っ白な新しい腕が、完全に再生しきっていた。


「きゅいっ! 行きます、おねえさまの射出軌道(レール)、構築します!」


 ピカちゃんが蛇尾を、まるで極太のバネ(コイル)のように螺旋状に巻き上げ、巨大な『カタパルト』を形成する。私はピカちゃんの腕の中に身を滑り込ませた。


「キリリッ!!」


 同時に、プルちゃんが主の装甲の隙間へ強酸性の消化液を吐き出し、限界まで毒を注入する。主の分厚い胸の甲殻が、化学変化でジュゥゥゥと音を立てて軟化していく。しかし、軟化範囲はわずか数センチ。


 射出、防御力ダウン(デバフ)、そして一点粉砕。

 これぞ私たち三人の――生態系を凌駕する『合体技』だッ!!


 撃てぇぇぇっ!! ピカちゃん!!


「いっけえぇぇぇぇっ!!!」


 バギュゥゥンッッ!!!


 ピカちゃんの筋肉のコイルが一気に解放され、一・二メートルの質量を持つ私が、砲弾となってアルファの胸へと超高速で射出される。

 E=1/2mv^2――運動エネルギーは質量と速度の二乗に比例する、理系JKの必修科目!

 巨大化した私の質量にピカちゃんの超音速射出を掛け合わせた、ロマン砲のお通りだァァァッ!


 私は、シャコの弾性スプリングラッチを直列接続した、プテリゴトゥス自慢の『超巨大な大バサミ』を突き出した。

 大気を切り裂くハサミの先端で空気と水分が爆縮し、数万気圧の衝撃波が弾け飛ぶ!


 パァァァンッ!!


 凄まじい破裂音と共に、衝撃波が先行して軟化した甲羅を大きくへこませる。

 そして――!


 メシャァァッ! バキ、メリメリメリィィィッッッ!!!


 私の大バサミが胸の中心に正確に突き刺さり、超高圧の衝撃ごと肉を粉砕する。圧倒的な運動エネルギーの奔流によって、強固な鉄殻が内側から大爆発を起こし、強靭な筋肉繊維が豆腐のようにブチブチと千切れ飛んだ。


『ジ、ジ、ギィィィーーーーッ!?』


 残虐性を誇った暴君の巨体が、完全に真っ二つに爆散した。切断面から体液と内臓の破片が間欠泉のように激しく噴き出し、周囲の泥を無残に染め上げる。


 完・全・勝・利☆


 体液と泥煙が静かに沈殿していく、広間の中心。

 私たちは、ついにこの巨大シダの腐海の『頂点捕食者』へと君臨したのだ。


「きゅいきゅーっ! おねえさま、すごいですぅ! カッコいいですぅ!」


 ピカちゃんが花のようにパァァッと顔をほころばせ、私に抱きついてくる。


 ふふん。宿敵へのリベンジと群れの制圧、これにて完了だよ! プルちゃん、一番の殊勲賞はあなたよ。この魔石はあなたのものよ!


 シャリッ、と嬉しそうに砕けたアルファの魔石と肉を頬張ったプルちゃん。

 その瞬間、プルちゃんの小さな体を、まばゆい進化の光が包み込んだ。極限の死闘を生き抜き、アルファの高密度な魔力を取り込んだことで、プルちゃんは古い殻を脱ぎ捨て、【一メートル級の変異種】へと劇的な進化(レベルアップ)を遂げたのだ!


 光が収まり、姿を現したプルちゃんは、ただサイズが大きくなっただけのサソリではなかった。

 魔力を帯びてステンドグラスのように妖しく艶めく、漆黒の重装甲(ブラックアーマー)。

 そして何より目を引くのは、背中でうねる『二本の毒尾(ツイン・スティンガー)』! 二股に分かれたそれぞれの毒針の先端からは、麻痺毒と強酸消化液という凶悪な二つの属性(デュアル・ステータス)が危険なほどに滴っていた。


「キリリッ、シャリリリッ♪」


 見違えるように立派になり、二本の尻尾を器用にフリフリと揺らすプルちゃんが、透明感のある美しい摩擦音を嬉しそうに響き渡らせる。


 よし! 貯食庫の残りのストックと一緒に、この極上のお肉をシェルターに持ち帰って祝勝会と行こうか!


 ***


 数時間後。

 巨大なシダ(鱗木)の倒木を利用して作り上げた、あの狭くも温かなシェルターへ、私たちは戦利品を抱えて帰還した。

 お揃いのリーフコップに甘い糖蜜ラテを注ぎ、アルファ個体の極上肉をみんなで頬張る。


 うん! 命がけの死闘を乗り越えて食べるお肉……世界でいちばん美味しいんですけどォォォッ!!!☆


「はい、おねえさま! すっごく美味しいですぅ!」

「キリリッ♪」


 さーて! 明日はいよいよ最上層よ! 待ってなさい!

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