第27話 キリッと理系モードで家造り……した結果、ダメJKが錬成された。
ふはぁ……!
オニイソメスープ、まーじで特濃アミノ酸と塩分が五臓六腑(というか胃腺)に染み渡るんですけどォォォッ!!!
高さ十センチほどの極小のクレバス(岩の裂け目)。
命がけのオペとピカちゃんの奇跡のヒールを経て、完全復活を遂げた私たち。
オニイソメの濃厚なアミノ酸スープをはふはふと半分こして完食し、これ以上ない極上の幸福感に包まれていた。
しかし、一息ついたところで、私は周囲の冷たい玄武岩の岩肌を見渡した。
「( ・ ▼ ・ )きゅ、きゅぅ……?」
私の背中の上で、ピカちゃんがつぶらなおめめをパチパチさせ、おてて(肉鰭)を私のセグメント装甲に『ぺたっ』と乗せてくる。
お姉さま、どうしたの? キョロキョロして何か探してるの? と言わんばかりだ。
いやね、ピカちゃん。
ここは大型の捕食者は入ってこれないから安全なんだけど……ちょっと『殺風景』すぎない?
かつての地底湖の温泉マイホームで極上のQOLを知ってしまった私にとって、冷たい泥の上での野宿なんてタイパもQOLも最悪なのだ。
理系JKたるもの、己の生存環境は常にロジカルに最適化せねばならない。
せっかく手に入れた最高の一等地(不動産)。
だったら――二人だけの【絶対安全マイホーム】へと魔改造する一択である。
「( ・ ▼ ・ )きゅいきゅーっ!☆」
ふっ、可愛い助手だ。
よし、キリッと優秀なアーキテクト(設計者)として、『おうちリフォーム』を遂行しようではないか。
まずは壁面のシーリングだ。
私は歩行脚で「火山灰粘土」をガシガシと掻き集め、体表から分泌する『高保水性親水ゲル』とブレンドして入念にミキシングしていく。
強酸でも溶けない最強のコンクリート『バイオセメント』の完成である。
ここは手のひらサイズの小空間。
二十センチの私の体躯なら一時間で終わるミニマムDIYだし、脱皮の硬化プロセス【キノン架橋】を触媒として応用すれば、セメントが乾くのを待つ時間的コストすらカットできる。
ビキキッ……!
壁に塗ったセメントが一瞬で重合し、カチカチのセラミックへと急速硬化していく。
スライムゲルの防音特性も完璧に機能している。極めて静寂な『防音ルーム』だ。
ふふ、我ながら完璧な分子設計である。
カポ、カポカポ。ぺた、ぺたぺた。
おや、ピカちゃん。壁のお掃除をしてくれているのか。えらい、偉すぎるよぉぉ!
……いかん、知能指数が下がりかけた。コホン。
我が有能なる助手が、お掃除魚よろしく丸いお口で壁面の余分な泥を『カポカポ』とバキュームし、かわいいおててで『ぺたぺた』と小石を運んでセメントの基礎を補強してくれているのだ。
泥だらけになりながら一生懸命お手伝いしてくれる我が子。
尊すぎて私のフロント額甲が内側からハート型に爆発しそうになるが、今はクールな理系として耐えるのだ。
私、えらい。
さらに、最後のラグジュアリー・ハック。
クレバスの最奥のくぼみに、中性の高保水性ゲルをたっぷりと充填する。
これで、ピカちゃんがいつでも安全に潜り込める『生体ぷにぷにゲルベッド』の完成だ。
仕上げに、天井へ「常温発光バクテリア」を優しく大量共生させる。
じわぁぁぁぁっ……。
美しい……。まるでナイト・アクアリウムだ。
漆黒だったクレバスの天井が、パステルブルーの幻想的なネオンで優しく照らし出される。青い光を反射して、ベッドの保水ゲルがきらきらと煌めいている。
「( ‐ ▼ ‐ )きゅ、きゅいぃぃーっ♪」
ピカちゃんは嬉しそうにゲルベッドにずるんと滑り込み、ぷにぷにの体をくねらせて泳ぎ回った。
そして、ゲルのフチにおててをぺちっと乗せて、おマヌケ正面顔のまま私を見上げて尾鰭をパタパタさせた。
ふふ、気に入ってくれたみたいでよかった。
すべての施工が完了した達成感と共に、私は優しくベッドの横に滑り込み、ピカちゃんにそっと添い寝した。
ずるん。
ぽかぁぁぁ……。
あぁ〜〜〜〜〜〜しゅきぃ……。
ヤバい。
全身の筋肉という筋肉が、ゲルの絶妙な浮力と柔らかさにドロドロに溶けていく……。
しかもこの高保水性ゲル、最高の『断熱材』だ。私とピカちゃんが密着しているだけで、お互いの体温が逃げずにゲルの中に留まり、まるで高級な羽毛布団みたいに自然とぽかぽかしてくる。
あ、これダメ人間(節足動物だけど)を錬成する、入っちゃいけないタイプのヤバいベッドだわ……。
外の古代の海では、今も弱肉強食が牙を剥いている。
だけど、この私たちが作り上げた完璧な『第二のマイホーム』の中だけは別だ。
もう、一生ここから出たくない。ずっとこのぷにぷにのゲルの中で、ピカちゃんの温もりと一緒にふやけるまで溶けていたい。
ここはまだ「未完成シェルター」にすぎないし、新素材集めとかレベリングとか、やらなきゃいけないことは山積みなんだけど……。
おやすみ、ピカちゃん。
明日からはここを拠点にして……むにゃ……とりあえず明日はお昼すぎまでゴロゴロして……お腹空いたらその辺の泥でも啜って……デリバリー(獲物が勝手に来るの)待とう……。
「きゅ、きゅいぃーっ!☆」
私のキリッとした理性の糸は完全にぷっつりと切れた。
――この新居、やっぱりまーじで最高に尊くて、一生労働したくないんですけどっ☆




