第24話 推しを噛むとかマジギルティ。怒りの重力プレスでお仕置きだし!
ちょ、嘘でしょ!?
発光バクテリアのネオン(ルームライトお姉さま仕様)で美しく照らされていた洞窟の泥底が、突如として爆発した。
ドゴボォォォォッッ!!!
私たちの真下の泥が激しく吹き飛び、濁った水底から、カチカチカチッ! と不気味な硬質音を響かせて『巨大なハサミ状の大アゴ』が突き出してきたのだ。
展開時の幅は八センチにも及ぶ、黒光りする凶悪な顎器。
泥底のトラップハンター――古生代の巨大多毛類(オニイソメの祖先)だ!
奴は泥の奥深くに垂直の巣穴を掘って潜み、私たちのネオンの光と水流の振動を感知して、獲物が真上を通りかかった瞬間に飛び出して食らいつく『最悪の待ち伏せ(アンブッシュ)』を仕掛けてきたのだ。
『ジ、ジ、ジ、ジ、ジュルルルルッ!!!』
下から突き出された八センチのギロチン大アゴ。
その凶牙が真っ先に食らいついたのは――私を背中に乗せて泳いでいた、無防備なピカちゃんのお腹だった。
よけられない。間に合わない。
バネのように飛び出すオニイソメの捕食速度は、コンマ数秒の世界だ。
――やだ……、いやだっ……!
バキバキバキィィッ!!!
『きゅ、ぎゅぴぃぃぃぃぃぃッッッ!?!?』
痛い! 痛い痛い痛い痛いッ!!
エンパシー回線を通じて、ピカちゃんの激痛が私の脳髄を直接引き裂く。
オニイソメの大アゴが、十センチのピカちゃんのボディを情け容赦なく挟み込んでいた。
その場で真っ二つにならなかったのは、さっきボトリオレピスから獲得したDNAのおかげで、サカバンバスピスの頭部から胸部にかけて強固な『皮骨の装甲(頭甲)』が形成されていたからだ。
だが、その自慢の装甲にも、ギロチンの圧力で無数の深い亀裂が走っている。
ピ、ピカちゃん……ッ!?
『ジ、ジュルアァァッ!!』
獲物を捕らえたオニイソメは、ピカちゃんに食らいついたまま、猛スピードで泥底の「垂直の巣穴」へと逆向きに引きずり込み始めた。
背中にしがみついている五センチの私もろとも、真っ暗な地中の底へと強制連行されていく。
ズズ、ズズズズズッ!!!
このまま引きずり込まれれば、逃げ場のない狭い巣穴の底で、ピカちゃんはゆっくりと噛み砕かれて死ぬ。
――ふざけるな。
――私の、私の大切な推し(ピカちゃん)を、よくも傷つけたなァァァッッ!!!
地中へと引きずり込まれる、その絶望のコンマ数秒。
私は体内の多能性幹細胞と魔力炉心のリミッターをすべて引きちぎり、全開スパークさせた!
脱皮ィィィッッ!!!
バリバリバリバリバキィィッ!!!
暗い巣穴の中を白く染め上げる進化の閃光。
レアンコイリアの五センチの身体が、一気に対数スケールを飛び越え、体長【二十センチ】の頑強な重装甲戦車へと爆発的にサイズアップを遂げる!
もちろん、脱皮と同時に体表から酸化酵素をメガ盛りで高圧分泌。【超高速『キノン架橋』】を瞬時に完了させ、チタン合金並みの硬度を誇るダークブルーのキチン質重外骨格を完成させた。
――【シドネイア形態(体長20センチ)】!!
ガゴォォォォンッッ!!!
その瞬間、猛烈な勢いで私たちを地中へ引きずり込んでいたオニイソメの動きが、強烈な衝撃とともに完全にストップした。
それもそのはず。奴の巣穴の直径はせいぜい十センチ強。
対して、進化した私のシドネイア形態は、カブトガニのように横幅が広く平べったい、体長二十センチの重装甲ボトムクローラー!
引きずり込まれる途中で四倍サイズに巨大化した私の体が、オニイソメの巣穴の入り口に、まるでワインボトルの『コルク栓』のように物理的につっかえてしまったのだ!
『ジ……ジュ、ジュル!?!?』
引っ張っても引っ張っても落ちてこない獲物に、頭上のオニイソメがパニックを起こす。だが、その凶悪な大アゴには、まだ痛みに震えるピカちゃんが挟まれたままだ。
……離せ。
私は巣穴の壁にガッチリとつっかえた巨体を支点にし、シドネイアの腹側に並ぶ強靭な歩脚の根元――硬い殻すらバキバキにすり潰すトゲトゲの咀嚼器官『顎基』を、すぐ下のオニイソメの顔面と大アゴの付け根へと一斉に押し当てた。
私のピカちゃんから、その汚いアゴを離せェェェッッ!!!
――必殺、【顎基咀嚼】!!!
メキメキメキッ、バキィィィッ!!!
どんなに鋭いオニイソメの顎器でも、圧倒的な質量差と、左右から万力のように挟み込む複数の頑強な顎基プレートの「面接触でのすり潰し」には勝てない。
ピカちゃんを挟んでいた八センチの黒い大アゴは、まるでお腹の下で「ポテトチップス」をバキバキに踏み潰すかのように、根元から木端微塵に粉砕・圧殺された。
一撃、完全粉砕。
『ジ、ジュギャァァァァァッッ……!!!』
自慢の大アゴを完全に破壊されたオニイソメは、ピカちゃんを離し、泥の巣穴の奥深くへと悲鳴を上げながら逃げ去っていった。
ピカちゃんッ!
私は急いで巣穴の入り口から這い上がると、傷ついて泥底に力なく横たわる十センチのピカちゃんの下へ滑り込み、シドネイアの広くて平らな背甲の上へと優しくすくい上げた。
『きゅ、きゅぅ……』
サカバンバスピスの硬い頭甲はボロボロにひび割れ、その隙間から青い魔力を帯びた血がじわりと滲み出ている。息も絶え絶えだ。このままでは失血で死んでしまう。
大丈夫、大丈夫だからね! お姉さまが絶対に治してあげるから!
私は傷ついたピカちゃんを背中のフラットベッドにそっと乗せると、決意を込めて暗い巣穴の底を睨みつけた。
最愛の推しを傷つけたこの苛酷な生態系と泥底の暗殺者に、私の全知識を懸けて逆襲と完治を誓うのだった。




