第17話 お互いを守り合う、控えめに言って完璧すぎる運命共同体ですっ☆
まばゆい進化の光の中で、ピカちゃんの半透明な肉体が急速に細胞分裂を繰り返していく。
外骨格を脱ぎ捨てる私たち脱皮動物とは違う。
脊索動物特有の、内側から細胞を書き換える神秘的な進化プロセスだ。
そして光が収まったあとに現れたのは、息を呑むほどに美しい小さな生命体。
それは、地球の歴史において、すべての脊椎動物、ひいては人類の祖先へと繋がる最古の原始魚類。
【ハイコウイクティス形態】
体長、わずか約2.5センチ。
「きゅ、きゅいっ……!」
光が収まった私の背中のセグメント(節)の隙間で、新しく生まれ変わったピカちゃんが、ぷにぷにと尾を振った。
鱗はまだなく、半透明で透き通るような、なめらかなパステルブルーの流線型の肉体。
その中央には、ピカちゃんの感情や魔力に呼応して、光ファイバーのように青白く美しく光り輝く一本の「脊索」がはっきりと透けて見えていた。
か、可愛ゆいぃぃぃぃぃぃっ!!!
なにその極小ぷにぷに古代魚フォルム!!
破壊力高すぎでしょ!!
15センチの私の三葉虫装甲に対して、2.5センチのピカちゃんはこれ以上ないほどにコンパクト。
普段は私の背中にある景色のいい『おんぶゲル』にすっぽりと収まっているけれど、敵が来た時の緊急防御はさらに完璧だ。
私がクルンと球体に丸まる(三葉虫ロール)防御態勢に入る瞬間、ピカちゃんはサッとお腹側の歩行脚の隙間に設けた『避難用ゲル』へと潜り込む!
ダンゴムシのように丸まるなら、守りたいものは内側(お腹側)に入れなきゃ意味がない。
球体の完全な中心となるこのお腹側スペースなら、外側を強固なキチン質の殻で覆い尽くし、ピカちゃんを100%格納して完全プロテクトできるのだ!
これこそまさに、お互いを守り合うための神がかったサイズシナジーだ!
しかし、ハイコウイクティスに進化したピカちゃんの真骨頂は、その見た目の可愛さだけではなかった。
「きゅ、きゅいぃぃっ!」
ピカちゃんが尾をうねらせた瞬間、彼女の半透明な肉体の側面に走る、微細なセンサー孔の列――最古の超感覚デバイス【側線(高精度ソナー)】が淡く発光した。
水のわずかな振動、魔力流の乱れ、泥の底を這う異物の気配を、長距離で瞬時に感知する生体レーダー。
そのピカちゃんの側線から感知された全戦況データが、パスを介して、ダイレクトに私の視覚野へと流れ込んできた。
ドクン! と私の複眼(ホロクロアル眼)の視界が切り替わる。
濁った泥水の霞が取り払われ、オパビニア時代に失ったはずの『脳内3Dレンダリングシステム』が、ピカちゃんのソナーデータを完璧にマージすることで疑似的に復活する。
右斜め後方、泥の中に潜み、こちらへ向かってハサミを振り上げているマッド・サンクタカリスの骨格、質量、移動ベクトル、そして生命の中枢である魔石の位置までもが、生体HUDの3Dワイヤーフレームとなって完璧に私の視覚へマッピングされたのだ。
す、すごすぎる……! 泥水の中が、サーモグラフィーみたいに丸見えじゃん!
いや、待って。冷静に考えたら、魚の側線は『水中の振動』を感知する器官。
陸に上がったら使えないはずじゃ……。
ハッ! そうか、私の背中の『おんぶゲル』だ!
泥底を這う敵の振動が、私の硬いキチン質の殻を伝わり、ダイレクトに背中の親水ゲルへと波及しているんだ!
つまりピカちゃんは、泥水の中はもちろん、完全に陸上に上がったとしても『地面の振動を正確に読み取る超高感度なソナー』として機能し続ける!
でも、それだと私が歩行脚を動かす自身のノイズで、ソナーが使い物にならなくなるのでは?
――いや、違う!
私たちの間には『パス』が繋がっている!
私が歩行するための運動指令が、パスを通じてリアルタイムでピカちゃんへ共有され、ソナーが拾う振動から「私自身の歩行ノイズ」だけを完璧に相殺しているんだ!
これぞまさに、『生体アクティブ・ノイズキャンセリング』!!
空中の敵や振動のない攻撃は感知できないけれど、そこは私の優秀な複眼でカバーすればいい。
死角からの奇襲や地中の敵はピカちゃんが、空中や遠距離の敵は私(お姉さま)が捕捉する!
これぞ、【側線ソナー・3Dワイヤーフレームリンク(生体HUDリンク)】!
お互いの弱点を完全に補い合い、ピカちゃんが『感覚』となって私の『物理』を完璧にナビゲートする。
最強のバディシステムじゃん☆
「きゅ、きゅぅぅっ!」
ピカちゃん、最高に完璧なアシストだよっ!
おんぶゲルのベッドで愛らしく身を揺らす極小の相棒を背負ったまま、私は泥を掴み、その一撃のタイミングを計った。
泥水の中の狙撃手と、這行する三葉虫JK。
私たちの反撃の時間が、いま始まる!




