第15話 最強バディ結成!ピカちゃんおんぶして陸上へ☆
「きゅいきゅーっ!」
パステルブルーに透き通るぷにぷにの身体をパタパタとくねらせて、ピカちゃんが私――いや、新しく生まれ変わった私の背中にピトッと抱きついてきた。
へへへ……可愛いから何でも許しちゃうっ♡
私は思わずデレデレになりながら、新調されたばかりの自慢の身体を誇らしげに揺らした。
体長十五センチ。
美しく、規則正しく並んだ幾何学的なセグメント装甲。
あらゆる物理衝撃をずるんと受け流して滑らせる、究極のキチン質マルチシールド。
地球の古代生命史において、最も繁栄し、最も完成された外骨格構造を持つスター古生物。
【エルラシア(三葉虫)様】!
宿敵アシッドスライムを内側からアンモニア中和バリアでハックし、濃厚なアミノ酸スープとして美味しく完食した私は、ついに最弱プランクトンからここまで成り上がったのだ。
これなら、どんなに過酷なファンタジー世界が相手でも、バッキバキに粉砕して自然淘汰してあげられる。
よしよし、ピカちゃん。
お姉さまのこの硬くて頼もしい背中、乗り心地はどうかな?
これからはずっと、ここが君の特等席だからね!
背中に張り付いたピカちゃんのしなやかな脊索(背骨の起源)の感触が、キチン質の殻を通してじんわりと伝わってくる。
「硬」と「軟」。
外骨格の私と、内骨格の祖であるピカちゃん。
これって控えめに言って、生物学的に完璧な運命共同体なんじゃない?
尊すぎて私のニューロンがオーバーヒートしそう。
あれ? ちょっと待って。
冷静に考えて。
これ、陸に上がったらピカちゃん死んじゃうじゃん!!
這行する私の複眼の先には、中層の入り口である「汽水域の泥地」へと繋がる、巨大な玄武岩のスリットがぽっかりと口を開けている。
その向こうに見えるのは、ドロドロとした泥水と、むき出しの湿った泥地。
三葉虫になった私は、エラ呼吸から『のちのカブトガニへと受け継がれる』陸上用の「書鰓」へとアップデートしたおかげで、水がなくても湿気さえあれば問題なく這い進むことができる。
だけど、ピカちゃんは違う。
彼女は、まだウロコすら持たない、全身が透き通るようなぷにぷにの粘膜で覆われた、最古の原始的な脊索動物(ピカイアの子)なのだ。
水のない陸上の乾燥した空気にさらされたら、ものの数分で脱水症状を起こして干からびてしまう。
「きゅー……?」
私の背中で、不思議そうに小さな触手をパタパタさせるピカちゃん。
何が起きたか分かっていないその無垢なつぶらな瞳を見ていると、絶対に彼女を干からびさせるわけにはいかないという強い保護欲が、私の全身の細胞を駆け巡った。
焦るな、私……。
せっかく手に入れた最愛の相棒(天使)を、最初のステージで干物にするなんてダーウィン先生に顔向けできない。
何か……何かこの陸上進出をハックする生存戦略はないの!?
脳内ノートをマッハでめくる。
ピカちゃんを乾燥から守るには、常に彼女の周囲に「水」を維持し続けなければならない。
かといって、水を運ぶ容器なんて持っていない。
その時、私の胃袋の中で、消化されたばかりのアシッドスライムのDNAがパチリと音を立てて自己主張した。
【獲得能力:アシッドスライムの「衝撃吸収ゲル(粘液)」】
――これだ!!
スライムの粘体というのは、強酸を内包する危険な物質であると同時に、水分を極限まで逃がさない「超・高保水性親水ゲル」の塊でもある。 これをハックして中和すれば……!
私の体内プラント、フル稼働! スライムの保水ゲルDNAを強制変異!
私は全身の細胞に指令を送り、酸性を完全に中和。
酸素と魔力をこれでもかと溶け込ませた「ひんやり冷たくて無害なぷにぷにのゲル」を体内で急速に分泌し始めた。
そして、私の背中にある規則的な「セグメント(体節装甲)の隙間」に分泌し、余すことなくたっぷりと充填していく。
ピカちゃん、ちょっと冷たいけど我慢してね!
ずるんっ、とそこに入ってみて!
「きゅぃっ!?」
ピカちゃんのふにふにの身体が、私の背中のセグメントに溜まったゲルのプールへと滑り込む。
ピカちゃんを私のヌルヌルが包み込む。
私のヌルヌルが包み込む……。
ちょっとだけ、エ〇い。JKとしての倫理観が問われるけど! げふん!……げふん!
ゲルの表面張力と粘性のおかげで、私がどれだけ動いても、お水が滴り落ちて乾燥することはない。
それどころか、ゲルの中に溶け込んだ高濃度の酸素と魔力が、ピカちゃんの皮膚から直接吸収され、彼女のパステルブルーの身体をより一層みずみずしく、美しく輝かせ始めた。
「きゅ、きゅいきゅーっ!」
大喜びしたピカちゃんは、ゲルのウォーターベッドの中で気持ちよさそうにスイスイと身体をくねらせ、私の背中の甲殻を、可愛らしい小さな肉鰭で「ぴとっ」とがっちりホールドした。
――よっしゃ! 『生体ウォーターベッドおんぶシステム』、完璧に起動完了!!
ピカちゃんにとっては、お姉さまの背中が「最高に快適な冷たいウォーターベッド」。
これなら、陸上での脱水なんて100%シャットアウトだよ!
よし、お姉さまの特等席で、ゆっくり休んでてね。
準備は、すべて整った。
私はマルチシールド装甲をビキビキと鳴らし、尾部をしなやかにくねらせて、ついに汽水スリットの奥へと踏み出した。
ずるり、ずるり。
湿った玄武岩の岩肌を、強固なセグメントを波打たせて這い上がっていく。
やがてスリットを抜けた瞬間、私の進化した三葉虫の高度な複眼(ホロクロアル眼)に、まばゆい汽水の光と、広大なドロドロの泥地が映し出された。
中層の浅瀬。
ここから、私たちの「硬×軟」の運命的なバディ旅が、本格的に幕を開ける。
待っててね、地上の世界。
最強のエルラシア(三葉虫)JKと可愛いピカちゃんが今行くよ☆




