表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/23

第12話 因縁のスライム戦!推しは私が守る!

「きゅ、きゅぅぅ……!」


クラックの最奥。


玄武岩の鋭い隙間で、パステルブルーのぷにぷにボディを限界まで丸めて震えていたちびピカイア——私のピカちゃんが、悲痛な声を上げた。


その透き通るような美しい皮膚の表面を、ねっとりとした青い粘液がじわじわと侵食していく。


「ジ、ジュウゥゥ……ッ!」


嫌な凝固音と、鼻を突く酸っぱい匂い。


間違いない、強酸性(pH1以下)の消化液だ!


その強酸を垂らしながら泥の奥からヌルリと這い出てきたのは、かつて私をドロドロに溶かして胃袋に収めようとしたあの因縁の死神——アシッドスライムだった!


嘘……っ、なんでアンタがこんな汽水スリットにいるわけ!?


私の5つの複眼が一斉に収縮する。


そうだ。ここは下層と中層の境界。


あのスライムからすれば、下層から上がってくるプランクトンや、泥地をクネクネ逃げ回るマナ線虫を待ち伏せして一網打尽にするには、これ以上ない絶好の溜まり場だったのだ。


そして、その最強の捕食網のターゲットに、目の前の小さくて、骨格も殻も持たない、究極に柔らかいピカちゃんがロックオンされてしまった。


スライムは意思を持たないただの粘菌ゲルのくせに、どこか嘲笑うかのように青い体を蠢かせ、隙間に向かってさらに強酸のゲルをジワァ……と滑り込ませていく。


強酸がピカちゃんの極薄の皮膚を焼き、彼女(?)の背中で淡く青く輝いていた美しい「脊索」が、痛みに耐えかねるように激しく明滅した。


「きゅぃ、きゅぅぅぅっ……!!」


激痛に身を悶えさせながら、それでも必死に小さく丸まり、耐えようとするピカちゃん。


けれど、殻(キチン質)を持たない脊索動物の幼体にとって、相手のすべてを溶かす強酸は、文字通りの「即死トラップ」に他ならない。


あ……。


自分より圧倒的に巨大な暴力の前で、なす術なく、けれど必死に身を丸めて耐えようとする健気なピカちゃんの姿を見た瞬間。


私の中の脳内で、強烈なフラッシュバックが走った。


脳裏をよぎったのは、記憶にない出来事。


私は、自分の生存のために、冷徹に「霊長類」を品定めしていた。


その私の前に、無慈悲に放たれた「炎のファイヤーアロー」。


ただの耐熱性テストとして直撃を受けようとした私を、「だめっ! その子は何も悪いことしてないのに!」そう叫んで、身を挺して、重傷を負いながらも私を抱きしめて守ってくれた、あのエグカワな【E0-#C】の姿だった。


えっ……自分より弱い別種の生物を庇う?


完全に非合理的なバグじゃん。


私はそう分析した。


生物として自分の生存確率を下げるだけの、ばかな行動。


だけど——。


あいつが、あんなに優しくて健気な撫子なでしこ魂を見せてくれたのに……!


私が、目の前の尊すぎる『種の起源ピカちゃん』がドロドロに溶かされるのを、黙って見過ごせるわけないじゃん!!!


私の大好きな脊索動物の奇跡ピカちゃんに、そのクソ低いpHで触ってんじゃないわよ、このドロドロのスライム如きがァァ!!!


キィィィィン!!!


十対のひれ状の脚を烈風のごとく蠢かせ、私は泥を巻き上げて爆走した。


ピカちゃんへ這い寄るスライムの粘液とクラックの隙間の間に、体長5センチの私のオパビニアボディを弾丸のようにねじ込む!


ズサァァァッ!!


ピカちゃんを自分の体(キチン質外骨格)の下へすっぽりと隠すように覆いかぶさり、私はスライムの這い寄る青い酸の前に立ち塞がった。


ピカちゃん、大丈夫!? 私のキチン質のマルチ装甲は、スライムの酸なんて1億年は耐え抜く仕様だからね!


直後、バシャァッ!と私の背中の外殻に、強酸粘液がまともに降り注いだ。


「ジュワァァァァァッ!!」


凄まじい白煙が立ち上り、鼻が曲がりそうな酸っぱい蒸気が周囲に充満する。


ダメージアラートが脳内でピコピコと鳴り響くが、私は自慢の蛇腹状ノズル(吻)の先端にあるハサミを、シャキィン!と威嚇するように鳴らして不敵に笑った。


残念だったね、スライム。


私はノープリウス時代に、アンタの強酸で溶かされかけた弱小プランクトンじゃないの!


今の私は、体長5センチの【オパビニア形態】なんだからっ!


「き、きゅ……?」


私の硬い殻の下。


一滴の酸も届かない絶対安全圏の中で、ピカちゃんがそっと体を伸ばし、不思議そうに上を見上げた。


かすかに光を捉える澄んだつぶらな瞳が、自分を命がけで庇ってくれた、パステルカラーに美しく輝くオパビニアを、じっと、じっと見つめる。


(カタイ、ツメタイ、スゴクアッタカイ、カッコイイ……っ!)


ビビビッ! と、感情パス(エンパシー回線)が繋がった。

異常な電気信号で焼き切れそうになった。


は、ひゃいっ!? なにこれっ!?


言葉は通じないはずなのに、パスを通じてピカちゃんからの激しい照れと憧れが、100%ダイレクトに私の脳内ニューロンに逆流してきたのだ!


(ダイスキ……! ズットイッショ……!)


うわあああ! 脳のシナプスがショートするぅぅ!


なにこのピュア!


アホみたいに真っ赤になってのたうち回りたいのを必死に堪える。


でも……。


こんなに可愛い脊索動物の奇跡に、こんなウルウルした目で見つめられたらさ。


——よし、オパビニアお姉さまが、まじでがんばっちゃうぞ☆


私は、頭部から生えた伸縮自在の「蛇腹状ノズル」をシャキーンと前方に展開した。


5つの複眼が宝石のようにパチパチと輝き、スライムの体内で目まぐるしく移動する「青い魔石」を、3D立体視で完全マルチロックオンする。


そこのデカくて不味そうな青いスムージー。


私の可愛いピカちゃんに手を出した代償、内側から完璧にお食事ハックして、ただの『お水』にしてあげるからねっ♡


ぎゅっと、ピカちゃんの小さな触手を私のノズルで優しく握りしめる。


さぁ、お食事リベンジマッチの時間だよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ