部活の名前は……
顧問になってくれとお願いされた翌日、校長先生に問題なしと許可をいただいたため、すみれに誘われ空き教室に入る。既に部員が五人集まっており、全員がもうそれぞれの席に着席していた。
「それでは冴島先生、改めて……私たちの設立する顧問になってくれませんか?」
椅子に座っていたすみれは立ち上がって、俺に頭を下げる。それに倣うように残りの四人……過去の教え子たちも続いて頭を下げていく。
生徒たちに頭を下げられるのは流石に堪えるのですぐに止めさせる。いくらお願い事とはいえ、生徒のお願いを聞くのは教師の仕事の一環だし、幼いころに接していたこともあってか罪悪感を感じてしまうのだ。
「取り敢えず顔をあげてくれ。俺が顧問になるのは問題がないから構わないが……どんな部活を作る予定なんだ?」
俺の問いに、澪は自らの胸を張ってハイテンションのまま答える。
「フフッ、冴島先生研究会だよ!」
「却下」
普通ではないと察してはいたが、ここまでおかしいとは思っていなかった。もっとしっかり教育していた方が良かったかもしれない。神木や白石あたりのしっかり者が止めてくれると思ったのだが。
部活動の名前を聞いてすぐさま拒否すると五人ともが重い息を吐いた。どうやら案が通ると思っていたらしい。そのような自信を分けてほしいものだ。
「そもそも、部活動は学校が認めないと部員と顧問がいようが設立できないからな。ちゃんと真面な部活にしてくれ」
そもそもそのような部活動を作ったとしても続くわけがないし、入りたいと思う生徒もいないだろう。逆に何故この五人はそのような部活を作りたがっているのだろうか。
「えぇ~、でもあたしら全員先生に興味がある訳だし?」
「でも澪ちゃん、別に部活動の名前はあれでもいいんじゃない?顧問で冴島せんせ~は来てくれるわけだし、部活を設立できれば良いんでしょ?」
「確かに、莉愛の言う通りかもね。そうなるとまた考える必要があるね。先生も一緒に考えようよ」
部活動ってこれで良いんだっけと思う気持ちもあるし別に放課後に毎日集まればいいだけなのではと思ってしまうのは大人のつまらないところなのだろう。高校生なのだから、部活動として青春を送りたいと思うのは案外普通の事なのかもしれない。
現在設立済みの部活動を見ながら、五人は話し合っている。似通った部活がなく、高校から見ても不思議ではない部活動という条件を満たすものを考えているが、ああだこうだと意見が右往左往している。
「チェス部って……ボドゲ部も囲碁将棋部もあるのに?」
「じゃあ職業研究会とか……」
「部活動がそもそれぞれ職業研究みたいなとこありませんか?」
「それならラブコメ部みたいな創作チック溢れる部活でも」
「冴島先生が認めないので却下」
やんややんや言い合いしていて一向に決まる様子がないが、部活を設立するときは大抵どのような活動をしたいか決めているのでこんな所で話し合いをしている生徒は過去にもいなかっただろう。
「せんせ~、なんか妙案ないの?」
「俺に振るなよ……あくまで顧問なんだから。そもそもなんでお前らは部活を作りたいって思ったんだ?」
俺が問うと、五人はコソコソと話し始める。再開した当初はお互い面識もなくギスギスしていたはずが仲良くなったものだ。何か心境の変化でもあったのだろうか。一教師としては生徒同士が仲良くなってくれて非常に嬉しい限りなのだが。
「先生、決めました。私たちの部活は『校外遊戯部』です!」
「校外……遊戯部?」
「そ、僕たちは校内のみならず校外での遊びを研究するの。高校生らしく遊びながらも部活動としてレポートや写真を撮ることで活動の幅を広げることも可能なのさ」
果たして部活として成立されるのだろうか。内心で不安に思いつつも、ボードゲーム部が成り立っているので恐らく問題はない。レポートに纏めるってことで部活動としての体裁は守れるだろうし。
それにせっかく頼ってくれたのだ。教師として生徒のお願いを叶えないわけにはいかない。この件は全力をもってしていい方向に進むように努力することとしよう。
「それじゃ、この紙に部活動の名前と活動内容。それと部長と部員の名前書いて。俺が印を押して交渉するから」
「部長……顧問とあれこれ相談できる……」
「これは、学級担任を務めているクラスであるあたしが良いんじゃない⁉」
「それじゃ澪ちゃんがせんせ~に近づきすぎるから駄目」
「部長はしっかり者がなるものだよ?なら私が一番適任じゃないかな」
「いや僕の方がしっかりしてるでしょ~」
「「「「それはない」」」」
やんややんやと言いあいながら、部長は神木に決まった。確かにこの中では白石と神木が最もしっかり者のイメージがあるが、部長だからといってそこまで大変なことをすることはない。
紙を書ききった後、俺は職員室に行って自分の印鑑を押し、部活設立の許可を取りに行く。名前も名前なので反対されそうなものだが、尽くせるだけ手を尽くそう。
そんな覚悟を持って部活動設立の申込用紙を提出すると校長先生は活動内容を吟味するように眺める。少しして答えを決めたのかゆっくりと口を開いた。
「うん、いいよ」
「え?良いんですか?」
やけにあっさりした答えに歯ごたえのなさを感じながらも、校外遊戯部という名前の部活動をあっさり許可した意図が読めず困惑してしまう。
「私は生徒の自主性を重んじている。そんな生徒たちが部員を集めきり、そして君という信頼できる教師を顧問に置いたんだ。それに活動内容もかなり考えて書かれているようだし、よっぽどこの部活を設立したかったんだろうね」
「そう、なんですか」
校長先生から信頼できる教師と言われたことに嬉しさが込み上げ、思考が上手くできなくなる。まさかそんな事を思ってくれているだなんて想像していなかったが、教員生活二年目でかなり上々なのではなかろうか。
ともかく、これで校外遊戯部は設立されることになり、俺はその部活の顧問を担当することになった。これから更に忙しくなると思うと気が滅入るが、あいつらと部活動で顔を合わせられると思うと少しだけ嬉しくなってしまうのだった。




