見えなくなる首輪
それからは、休憩をしないで車を飛ばしていた。30分強程走り、目的地に着いた。
どちらかというと田舎の街にある、和希と家に。和希の家は、庭のある家だった。
海月は和人から聞いていた、いや聴き耳を立てていて独り言で言っていた。
和希が和人から見て、父方の両親の家を貰い受けたと。
多分、それがこの一軒家なのだろう。
ガレージがあり、ガレージの前には庭、その次に石積みがあった。
家は2階建てで、古そうな家だ。実際は築100年程は行っているらしい。
和希は家主なのに何故か、インターホンを鳴らした。
事情を知らない人ならば子供がいるからとか、帰ってきたのを知らせる為だとかと思うだろう。
だが、そんな理由ではない。
海月は、この理由を既に知っている。知らなければ、こんな話は断っていただろう。
少しして、声が聞こえたのではなく、玄関引戸が開いた。
1人の男の子が、海月の前へ来た。
背は少し海月よりも小さく、白色の髪と青磁色の瞳をしている。
白い髪は少し癖っ毛だが、ふわふわとしていた。
日本人ではないのは一目瞭然だった。
「ん、これで君の子供達を解放してあげるよ〜。期間はいつまで?」
可愛い声でふわふわと浮かんでいる雲みたいな声。
「8月20日まで、行け、ました。」
和希の震えていて怯えている声。
「そっかそっか〜、後23日か〜。
まぁ、良い方、なのかな〜。」
目を閉じて唸りながら考えている。
それは、人に寄っては可愛がられそうな子だった。
「あ、もう良いよ、早く下がって」
そう言った時、空気が少し凍ったような、冷たくなったように感じた。
可愛い声だけどふわふわしたような声ではないような、顔は笑顔だけど、笑って閉じている目は笑って居なかった。
「僕に捕まって、目を閉じててね」
海月の手首を温かい手で掴み、最上級の綺麗で可愛らしい笑顔を見せてくる。
「閉じないと、痛い目あうからね〜。行くよ」
ほとんど脅しみたいだ。
死ぬならまだしも、痛いのは嫌だと目を瞑った。嘘か本当の事かも分からないが。
目を瞑っていても明るいかったのに、いきなり真っ暗になった。そして、無音にもなった。
感覚も感触も音もにおいも何もない。
手首を掴まれているのかも分からない。
どれぐらいの時間か、長かったようにも感じるし短かったようにも感じる。
少しずつ、戻っていった。
立っているという感覚、手首を掴まれているという感覚、においに音、光。
「もう良いよ。どう、楽しかった?
普通じゃ味わえない感覚だよ。」
手首を離して、海月の前に来る。
「変な感覚、でした」
本当に、変な感覚だった。
寒さも暑さも感じなかった。
少し、嫌な感覚だった。
「ふふっ、そっかそっか。
ふふふふっ、そっかそっか〜」
嬉しそうな顔をしながら、くるくると回っている。楽しそうだが、目は回らないのだろうか。
「あ、僕の名前はノア。
よろしくね、ウミっ」
手を出してきた、怪しいがその手を取った。
普通に握手をしただけで、すぐに手を離してくれた。
「何故、ノア様が私を迎えに来たのですか。
別に1人でも行けますよ」
失礼かも知れないが、聞いておきたかった。
ノアの手首には金色の輪っかをしている。
その模様は黒いスイレンが咲き誇っている。
つま階級ノアは黒だ。
それが紫のウミに何の用か、気になって仕方がない。
それに、イヤリングがあるから1人でも行けていたし逃げられないように書類にも名を記した筈だ。
「その調子なら僕の事、覚えてなさそうだね。」
さっきまでの嬉しそうな顔ではなく、悲しげで寂しげな顔をしていた。
「まぁ仕方ないか〜。
僕と海月はね、何回かあった事あるんだよ」
その答えは意外で、考えさせられる発言だった。首を少し横にする、考えても出てこないのだ。
「幾ら考えても思い出せないでしょ。
そういう物だから本当に仕方がないよね。」
はぁとため息をつく。
「そんな事よりさ、僕と一緒に街に行こうよ」
さっきは遠くに居たのにいきなり、海月の前に現れる。
「勝手に出るのは怒られます。」
「大丈夫大丈夫、僕が取り付けるから。
あ、これ付けといてね。
これ付けてない方が怒られるから。」
ウミは人にやられたので、やり方というものが分からない。
観察して色々と見てみるても良く分からなかった。
「付け方教えて貰ってないの?」
さっきからウミを観察していたノアがウミの前に立つ。
「付け方、教えてあげるよ。貸して」
片手を差し出してくる。
こういうのは、ノアが自分から取る物だと思っていたが違うらしい。
「よろしくお願い、申し上げます。」
少し勉強して来た偉い人への話し方を思い出しながら言った。
その右手に置いてノアが握り締めた時に、手を離した。
「どう、違和感とかない?」
ノアが1分程で終わらせてくれる。
「特にないです。」
「じゃあ見えないようにしとくね」
「えっ」
ノアが、首輪の何処かを押す。
触った感じはあるのだが、本当に見えなくなったのだろうか。
「見えなくなるだけで存在はあるよ。」
ウミの右手を取って、首輪を触らせた。
知らない人が見れば、ただの変人だが、触って見れば分かる。
見えないようになっているだけで、存在は消えていない首輪の感触が伝わった。
驚いた顔をしていると、笑顔でねっと言われた。それに続き、
「この機能ね〜、知らない人が多いんだよね〜。
創った人とか一部の人しか知らないんじゃないかな?
僕も色々と触ってたら辿り着いただけだし。」
此方を向いてノアは今日一番の満面の笑みを見せてきた。「これで街の人にはバレないよっ」と、凄く嬉しそうに。




