契約と能力者の階級制度
「此処から私はいけませんので、ウミ様1人で行って下さい。ご武運を。」
ハルに言われてウミは、扉の向こうに行った。
中は思ったよりもずっと質素だった。
此処は謁見の間ではなく客室か何かだろう。
「お、お初にお目にかかります。
この王国の第三王女のエイヴァと申します。」
部屋に入ってすぐ前に来たと思えば、ピアニーの髪色とヴィウー ローズの瞳の165cmぐらいの女性が挨拶をしてきた。
こういうのは地位が下な者が最初に挨拶をするらしいが、第三王女の方が地位は低いのだろうか。
「お初にお目にかかります、エイヴァ様。
私はウミと申します。
よろしくお願い申し上げます」
此方も一礼をし、挨拶をした。
「どうぞ、此方へお座り下さい」
ウミから見て左のソファを勧められ、真中に座った。
前にはエイヴァと、ヘリオトロープの髪色とガーネットの瞳で立ってしないから分からないが、だいたい170〜175程の身長の男性が座っている。
少しの沈黙が流れて考える。
自分から挨拶した方が良いのではと。
そして、なんて言ったら良いかを考えているとあちらが先に口を開いてくれた。
「私はこのウィンケレ帝国で第ニ宰相をしているギャレットです。
宜しくお願いいたします、ウミ」
ニッコリと、笑顔を返した。不自然なほどの笑顔でもない、微笑みを。
「此方こそ、よろしくお願い申し上げます」
「早速ですが、本題を言いますね。
ウミには、契約をして頂きたいと思っているのです。此方が契約書です」
ギャレットが言って、エイヴァが書類を棚から持ってきた。
「どうぞ」
持って来られた契約書に目を通す。
なんて書いてあるかは読める。
日本語だ。この国の文字なのか、わざわざ日本語で書いたのか、何かはめる魂胆があるのか。
「其処に書かれている通り、ウミは戦争に出れば良いだけです。
それと、誰にも言わないという事も。
お兄さんに心配が掛からないように、此方も相応の対価をお渡しします。
契約書について、質問はありますか」
言い慣れているように、言葉がスラスラと出ていた。1言も噛まずに、早口でもなければゆっくりでもない。ずっと、笑顔が貼り付いている。
「何個か質問をしたいのですが、宜しいでしょうか。」
契約書から一度目を離し、ギャレットの方を向く。ギャレットは、笑顔を崩さずに頷く。
「話せる事なら、出来る限り話しましょう」
「ありがとう存じます。
いきなりですが、能力者の身分はどうなっているのでしょうか。」
「能力者には階級があるでしょう。
白はスラム街以外、黄は平民、赤は男爵、青は侯爵、紫は公爵、そして黒は大公です。」
「エイヴァ様は私に、敬称を付けて下さっているようですが。」
その話をするとエイヴァの肩は少し跳ねる。
「わ、わた、私は、私は能力者なので……。」
契約書を持って来た後から一度も上げてない顔を上げて言ったが、早口で言おうとしたのか噛んでしまって、速さが段々と落ちていった。
ギャレットはエイヴァのそんな姿を見て、一瞬目が冷たくなり笑顔が消えた。が、それはすぐに笑顔に戻りウミの方にさっきと同じ笑顔を向ける。
「この国では、能力者になれば能力階級に従う事になります。それが、王族でも貴族でも例外はありません。」
「そうですか。
では…………」
「では、最後の質問です。
これを断ったらどうなりますか」
「そうですね〜、貴方はお兄さんと金輪際会うことが出来なくなります。
それ以外にも色々とありますが、聴きますか?」
「いえ、遠慮しておきます。」
前屈みになり、左手を机とほんの少し机より高い契約書の上に置いて、右手で羽ペンを取った。
羽ペンは契約書の上で踊る。
踊りを終わらせて、羽ペンを元の位置戻す。
契約書の隣になったナイフを取り、右手の人差し指を切った。シュッと音がして、静かな部屋に鳴り響いた。
鳴った所からは、血が出ていた。
その血を羽ペンを踊らせた真ん中に押す。
そうすると契約書が一瞬、淡い光に包まれた。それは、1秒程のものだった。
「これで終わりです。お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした……」
「では、失礼いたします」
部屋を出た。
エイヴァは身分の話をした時以来、顔を上げる事はなかった。最後に挨拶はしてくれたが。
契約書が淡い光を放った時も、ウミが部屋を出る時でさえも。
――――――――――――――――――――――
「終わりましたか」
「はい」
「では此方を」
ウミに片方だけのイヤリングを手渡す。
「…………。」
イヤリングを動かしながら興味深そうにじっとみつめている。
もう良いのか顔を上げてハルの方を見、これは何ですかと尋ねてきた。
「それは、元の世界に戻れる物です。」
「……、ぇ」
相当驚いて居るのか、言葉が出ている。
「其処のボタンを押して日本へ行きたいと願うと、ウィンケレ帝国が所有している日本の島に行きます。」
「島、ですか。
お金持ちですね」
驚き過ぎて言葉が出ないのか、語彙力が段々と低くなって来ている。
「勝手にそれを使っても、バレますよ。
島でバレますし使うと、それを創った人が分かるようになっているのですので、許可なく使わないで下さい。
バレたら、どうなるかは私も存じ上げておりませんので。」
イヤリングを見ながら、真剣な眼差しで頷いていた。
「着けて頂いても構いません。
それは、ウミ様の分ですので。」
それを聞くとウミは、イヤリングを着けようとする。するが、何故か手間取っていた。
「イヤリングの付け方が分からないので、教えて頂けませんか」
「良いですよ」
それを見てハルは、少しだけ口元が緩んでしまった。
――――――――――――――――――――――
「さっきのはなんだ?
あれじゃ俺が悪者みたいじゃないか」
溜息を付いてエイヴァに言う。
さっきの笑顔が貼り付いていた顔は別人の如く、今の顔からは一切感じ取れない。
「ごっ、ごめんなさい。
ギャレットお兄さ…」
やってしまったとエイヴァは思って、ギャレットの方に恐る恐る顔を上げる。
「薄汚いお前の分際で私の妹など反吐が出る。
それが半分しか血が同じでもお前を切り裂きたいぐらいだ」
ギャレットはエイヴァの前に立って、恐ろしい目でエイヴァを見下ろして来る。
「ごめん、なさ、い。ギャレット、様」
ギャレットから目をそらして、自分の太腿にあるワンピースとギュッと握っている手を見る。
「人の目を見て喋れ!」
エイヴァの前髪を引っ張ってギャレットと無理矢理目を合わせられた。
「ぃた、い、ですっ」
数十秒その状態が続いたが、無雑作に髪から手を離した。
「汚い目の色だな」
ギャレットはエイヴァに吐き捨てた。
「彼奴は嘘をついてたか?」
あの発言はなかったかのように言ってくる。
怒りを感じた。
瞳の色を馬鹿にされて、挙句の果てに今の発言をなかった事にされた事が…。
だが、反抗をしても更に痛い思いをするだけだ。
首を振ろうとするが、ギャレットは此方を見ていない。
「私が見た限りではっ、ありませんでした」
「………そうか」
ギャレットは部屋を去っていった。
エイヴァの目からは涙が溢れて行った。
どんどんと、どんどんと涙は止まるどころか増えていった………。
――――――――――――――――――――――
ギャレットは廊下で歩きながら思った。
(彼奴の能力で見抜けるのは精々10分の1程だ。
その1がないように願うしかないな。)と。




