別世界
それから3カ月が過ぎただろうか。
ニュースでは電波ジャックの事は忘れ去られていて、都市伝説が好きな人達にとってはまだ騒がれている。
そして昨日から学校の夏休みが始まった。
陽菜は家でごろごろとしているわけでもなく、宿題をしているわけでもなく、クラスメイトや友達や彼氏と遊んでいるでもない。それなら何をしているのかって?
(そんなのは見てわかる通り)
椅子に拘束されている友達をただじっと観ている。
ガラス越しだが、あちらは気付いて居ないみたいだ。
理由は、髪や瞳の色が違うからだろうか。
それとも、こんな所に居ないと思っているからだろうか。
「私は何をすればいいの」
「此方の戦争に勝利をもたらしてくれれば良い。それだけだ。」
中で突っ立っている30代ぐらいの男性が言った。
そのやり取りを、バーントオレンジのショートヘアと洗朱の瞳の子が観ている。
それが、此処での陽菜なのだ。
「ハル、後は案内してくれ。
絶対に逃がすなよ。」
此処では姿も違うが、名前も少し違う。
陽菜はハルだ。
「はい。」
鉄の扉を開けると、椅子には座っているが拘束は解かれている海月がいる。
だが、新たな拘束があった。
首を囲っているモノを付けられている。
それは付けている間、能力が使えなくなるという物だ。
正確に言えば、使いにくくする物でもあり、能力を使えば電気が流れて気絶または死ぬ事になる能力にとっては凄く危険な物だ。
それと、右胸に紫色の丸いバッジを付けている。
「一応、ウミ様のお世話係みたいなものになりました、ハルです。
着いてきて下さい。案内をします。」
海月の方をみながら言った。
いつも学校で出している声よりもずっと低い声で。
海月はすぐに椅子から立ち上がり、ついてくる。
地下室から出て、地上へ上がった。
最初に行くのは此処から1番近い、騎士の塔だ。
騎士塔に行くと、嫌な空気が流れる。
騎士達のほとんどが、能力者を嫌っている。
その理由は様々だが多いのが、努力しないで強いのはずるいという事だ。
能力は努力をせずとも、実験されれば手に入る。それを持っている能力者が気に入らないらしい。
その他には、周りがそうしているからだとか、能力がって怖いだの気持ち悪いだの本当に様々だ。
「此処が、騎士塔。
騎士塔は主に、訓練場や倉庫として使われていたり、寮としても使われています。
僕達能力者はあまり入れないから、案内するだけ無駄だと思いますけど。」
海月は、この会話を聞いているのかは分からないが、塔を見上げていた。
次に向かったのは、研究塔だ。
少し離れた所から言う。
「この塔は研究塔。
私達能力者を作ったり実験したりしてる所。
貴方も此処にはあまり近づかない方が良いですよ。
何されるか分かリませんからね」
「研究塔…。」
それだけを呟いた。
最後に行ったのは能力者塔だ。
騎士塔や研究塔とは同じ城壁の中にあるが、だいぶ離れている場所にある。
「此処は能力者塔、スイレン塔とも言われています。
私達能力者の……住む家みたいな物です」
(殆ど刑務所みたいな所だけど……、)
能力者塔の周りには、壁がある。
そこまで高くはない、大体10メートルぐらいの壁だが、凄く分厚く硬い素材で出来ている物、そして火炎耐性もある特級品。
そんな壁で覆われている塔は50メートル、其処から飛び降りれば逃げられるが、透明なネットが張られている。しかも、電気も張り巡っている。それに触れたら死ぬ恐れもある。だから、此処からは逃げられない。
能力者、もとい戦闘機を閉じ込める場所。
その壁や塔の、1つだけある出入り口。
その出入り口のコントロールは、騎士団がやっている。
そのコントロールルームは、出入り口の隣に面している壁の前に小さめな小屋がある。
そこのドアをノックした、コンコンと。
ドアが開いた。開けたのは、ガタイの良い190cmぐらいの剣を持っている騎士だった。
その人に、紙を渡す。
紙、と言っても白紙の紙ではない。
身分証明の紙2枚と、今日自分に課せられていた命令書、そして海月の個人情報だ。
それを渡すとざっくりと全部を見て、2人の手を見、中に入っていってドアを閉めた。
10秒ぐらい待って居ると、出入り口が開いた。開くではなく、壁の高さ2メートルで横1メートルぐらいが透明になったのだ。
これも、誰かの能力で作った物らしい。
透明になるだけでなく、透過もするという代物。
それを通る。海月は少し困惑していたが、ハルが通るのを見て、躊躇いもせずに此方に来る。
どちらも入った事を確認したのか、また頑丈な壁へとなっていった。
塔の庭は足首あたりまでの高さがある草だらけだ。1つだけ例外があるが、そこ以外は全部そうだ。
たまに誰かが暴れて草がなくなったり、地面がへっこんでたりしているが…。
5メートル程歩くと、木で出来ている出入り口の前に来た。
扉を押すと真中にぐるぐるとある石の階段と、螺旋階段を降りようとしている1人の少年が居た。
「また新入り?」
まだ少年の男が、自分なりの低く威圧のある声を出す。
「そうだよ。それと、敬語ね」
「は?」
階段から下りて、海月に近づく。海月は驚いてはいそうだが、動かなかった。
「チッ、紫かよ」
海月は自分の胸…付けているバッジをみながら聞いてきた。
「このバッジには、何か意味があるんですか」
ハルに対して、初めての質問だ。
「そのバッジは能力の階級を示しております。
1番下から言いますと、白、黄、赤、青、紫、黒です。
私とその子は青ですので、ウミ様は私達よりも偉い立場の人という訳です。」
「バッジはしていないような……」
「私達は腕輪です。
ウミ様にも支給されると思いますよ。」
ウミにハルがしているぴったりの腕輪を見せる。
金色の腕輪だが、青色のスイレン模様が咲き誇っている。
「そうなんですね。
教えて下さり、ありがとうございます。」
その後は少年と別れて、塔の中を案内した。
塔は30階まであり、1階全域は食堂。
2階はお風呂(男女別々)。
3階は物置部屋、空き部屋。
4、5階は研究室。
6〜28階は寮。
部屋は1人に1部屋。
階級にも寄るが、豪華な部屋もあるらしい。
29、30階は図書室。と言っても名ばかりの物で、本は50冊あるかないか程度だ。
寮の20階の一角がウミの部屋だ。
その頃には、ウミの息は少しだけ上がっていた。
ハルは慣れてしまった為、上がっていない。
「最後が、ウミ様のお部屋です。
この鍵をどうぞ。
その鍵に予備はありませんから気を付けて下さい。別に、悪く使わないのであれば、複製しても問題はありませんので。」
ウミに1つの鍵を渡す。
スイレン塔の部屋は、ひとつひとつ鍵が違うのだ。能力で開ける事も出来るが、面倒事になるのでやらない人が多い。
ウミは鍵を受け取り、扉の鍵穴に鍵差して回した。
ウミが扉を開ける。ハルは、扉の中をみないようにした。
「質問や分からない事があれば、これで私を呼んで下されば伝わりますので。
夕食の時間になり次第迎えに来ますので、それまではこの部屋でお好きにどうぞ。
では、私はこれで失礼いたします。」
ペコリと一礼をしてから扉を閉めて、自分の部屋に行った。コツコツと靴の音と鳴らしながら…。




