隠せないモノ
「これがリストだ。」
そう言って1枚の紙を渡してくるのは、ハルの上司である黒の透過・透明を持っているツヴァイだ。
ツヴァイはノアの手をとってハルの前から消えてしまった。
ハルはリストを見る。
リストには、ハルがなれそうな人と殺す人の顔と詳細が書かれていた。
殺す人は全部で15人。
ツヴァイはもっと多い事だろう。
敵陣のテントに向かって、もうすでにいる敵のテリトリーの中を歩いた。
(全員殺せた………)
1つのテントの中で、ベトベトになった手と短剣を小さな樽に入っている水でそのベトベトを落とす。
手と短剣を洗うたびに、樽の水が赤く濁っていく。元々少し濁っていた水がもう底が見えなくなっていた。
テントの中には、血の臭いが漂っている。
それは、ハルにも纏わりついている。
(早く出ないと)
ハルはそこまでの戦闘力があるわけではない。
身体能力はまぁ、向上されてはいるがそこまででもない。
新人のナイトか権力でコマンダーになった者ならまだしも、実力で上り詰めたコマンダーは無理かも知れない。
テントを出た。
殆どの人が忙しくしていて、チャックがなくてもバレていない。
ふぅ〜と少し安堵をした。
「ヘラサ、またなんかやらかしたのか?」
ビクッと肩が動いた。
「まぁ………ちょっと、な。
あ〜、このことグリスも知ってるか?」
「テント入ったところ一緒に見たからな、トイレに行ったけど後で来ると思うぞ」
肩が跳ねたことに関しては何も言ってこない。
気づいていなかったのか、気にしていないだけなのか、罠なのか。
「………ちょっと野暮用を思い出したからまたな」
「逃げても意味ねぇ〜のにっ」
ゲラゲラと後ろで払っているヘラサの友達は、追いかけてくることはなかった。
(早く、立ち去ろう。)
森の奥に入る。
ヘラサの友達から逃げる理由があって本当に良かった。
警戒をしながら、待ち合わせ場所についたがまだ誰も居なかった。
流石に此処までは追ってこないだろうと思い、髪と瞳の色を戻して木にもたれ掛かって座った。
(ユウ、無事かな?)
そして、無事でいてと、叶えてくれないとわかっていながらも神に願った。
「早く握って」
少し考え込んでいると、少し高いが冷ややかな声が飛んできた。
声が聞こえて前を向くと、いつの間にかハルの前に手を差し出すノアがいた。
「ししょっ、…ツヴァイ様は?」
「もう戻った」
ノアの手を取り、目を瞑っる。
もう慣れた感覚、光が差して目を開ける。
能力者塔の前だ。
「リスト、ツヴァイさんに渡してとく」
手を離し、また手をハルに向けてきた。
敵の制服のポケットに入れていたリストをノアに渡した。
「報告書、書いといて。
明日の朝にツヴァイさんが取りに来るはずだから。」
ノアはハルに背を向けて、消えて行った…。
――――――――――――――――――――――
『5時です。
今から1時間後に闘いが始まるので、各自準備をして下さい。繰り返します』
聞こえてくる放送の音は、5回鳴って終わった。
「ねむい………」
少し昨日よりも身体が重い、そして少し痛い。
怪我は1つもしていないので、筋肉痛だろう。
「っ、はぁ………」
ウミは1つ、溜息をついた。
筋肉痛とは無関係…とも言い切れない、昨日の事だ。
まだ頭の中に残っている、あの言葉たちが。
冷たい湖に入った時も、制服についている血を落とす時も、寝る時も、今もっ忘れられないでいる。
(明日には、忘れてるといいな)
ウミはスズの問いには、まだ答えられていない。
あの後スズは『変なことを聞いてしまってごめんなさい。…ありがとうございました』と言って、今度こそ本当にテントへと向かって行った。
(あの『ありがとう』は、本心からじゃないんだよな)
『ありがとうございました』と言っていた顔はどうも割り切れない顔をしていた。
スズは自分がそんな顔をしていたと自覚していたのか…あまり明るくなくてもウミに見られていたということは知っているのか。
(上手くない優しい嘘、、、)
ウミの体に血はついていない、ウミは血がついていない制服を着ている、そして微かに血の臭いがするがウミ自身気づいていない。
多分此処にいる怪我をしていない全員が分かっていないだろう、自分から血の臭いがする事については。
スズも………例外ではない。
臭いは、嘘を使っても包み隠せない。
無臭剤でも香水でも誤魔化せるかも知れないが、いつか終わりは来るはずだ。
血の臭いだとバレてしまうかも、もっと酷くなってしまうかも。
その臭いは一緒ついて回るのだろうか…?
それならば、それは死ぬまで一生消えないのかも知れない。
ウミは自分の手の平をみた。
そこに血は一切ついていなかった。




