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答えのない問い

今は夕方。


18時……綺麗な夕日が見れる時間だが、ウミがいる所は別に高い場所でもないので見えない。

代わりに、周りには殆どが敵国の兵士が倒れている。

味方はぱっと見、いない。


ラッパが鳴って、ユウミン王国が戻って行ってウィンケレ帝国もまた、自分達のテントがある場所へと戻る方向へと進む。


歩いたり走ったり足を引きずったり、這いながら進んでいたり、怪我している味方を支えながら一緒に歩いたりしている。


ウミは何処も怪我をしていなく、1人で歩いてテントに向かった。



歩いていると途中、肩を掴まれて反射的に振り返る。

其処にはニカッと笑いながら血だらけになっているソートミーがいた。

反射的に短剣を取ろうとしていたのを、バレないように収める。


「初めての戦争、どうだった?」

「……疲れましたね。

こんな長時間に渡ってやりあった事は今までなかったので」


ウミの制服が、ソートミーの手と髪から垂れる滴で更に汚れる事には触れないで微笑みながら言った。

ウミの服もソートミーに触られずとも汚れているが、正直これ以上は穢れたくなかった。


「其処まで疲れたようには見えないんだが………」

「…きっと塔の階段で鍛えられたんでしょう」

「あ〜、あの塔か……。彼処は鍛えられるよな〜。

じゃあ俺は先に行かなきゃだからゆっくり来いよ〜」


物凄いスピードで走って、ソートミーは豆粒ぐらいの大きさになっていき、最終的には見えなくなった。



『戦闘終了を確認しました。

負傷者は速やかに治療テントへ移動してください。

自力での移動が難しい者は、近くの者が手を貸してください。

負傷のない者は各自のテントへ戻り、休息を取ってください。

食事と身体を清めることを済ませ、明日に備えてください。

繰り返します。

戦闘終了を確認しました―――』


テントの近くまで行くと、そんな音が聞こえてくる。

屋外用スピーカーがあったから、そこからだろう。

その近くは五月蝿そうなので行かないようにしよう。


(少し、お腹になにか入れた方がいいよな………)


そう思い、食事を配っている所に行く。


配っていたのはゼリー飲料だった。

それも見た事があるやつだ。

日本から此方へ持ってきたのだろう。


柔らかくて、りんごの味がした。

何故か、柔らかいのが気持ち悪く感じた。

いつも、こういうのものは食べて慣れているはずなのに………。


本当に、何故なのだろう。



トイレは簡易トイレがあるらしい。

男2つで女1つのトイレが。


幸い誰も女子トイレには居なく開いていた。

臭いが酷かった。

開けた瞬間、その臭いが襲ってきて息を止めたり鼻を詰まりながらした。


このトイレは下に大きな穴を掘って出来た物なので、下は見ないように心掛けながらした。


トイレから出ると、快適だと思った。


それが、痛みに藻掻いている声が聞こえても情緒不安定な人がぶつぶつとなにか言っていても、自殺をしようとしていてそれを止めた人が言い争いになっているのも、まだ止められていないスピーカーから声が聞こえるのも、臭いが酷いトイレの中よりマシだと思えた。


慣れているし、耳を塞げばマシになるし遠くに行けばいいのだから………。


ウミは自分の身体を見た。

血で汚れていて、汚い。


(身体、洗わないとな。)


そして、ウミは湖に向かった。



――――――――――――――――――――――



(怖い………)


震えている身体で、ゆっくりと森の中を歩く。

震えているのは、湖が冷たかったからか暗くて不気味な森が怖いからか、進んでいる道が合っているか良く分かっていないからか………。


ガサッと音が聞こえた。

スズは怯えながら音のした方を見る。

姿は見えないし、影すらない。

ただの小動物だろうとスズは思った。


またガサッと聴こえた、さっきよりも断然大きな音だ。


勢い良く振り向いた。


ボキッと木の枝が折れるような音がして、正確な場所を捉えて良く見ると人がいた。


念のために持っていたマッチを付けた。


「たっ、たすけてくれっっっ!!」


男の人だった。

きっとスズよりも歳は上だ、もしかしたら倍以上だろう。


騎士の服を来ている。

だがその騎士の服はユウミン王国のモノだった。


「おっお願いだ!助けてくれっ

大切なっ、大切な家族がいるんだっっ」


男の人は涙ぐみながら必死にスズに土下座をして頼み込んでいる。


(大切な、家族……………)


スズには絶対に敵わないモノをこの人は持っている。

この人の大切なモノをスズは奪いたくない。


スズは何も見なかったふりをしてテントの方角に歩いた。



「やっと寝れる……」


少し声がして来たと思うと、さっきの緊張が少し解けた。


その時にガサッと音がした。

流石にさっきみたいな事はないだろうが、反射的で後ろを見た。

さっきの男の人がスズに剣を振りかざしていた。


顔を歪めて、嗤っている…………。


その時スズは思った、騎士とは何なのかを。

騎士というのは市民を守り誇りを大切にする者だと思っていた。


この顔は…そんな顔ではない気がした。

誇りや名誉は捨てて、怒りが見えた。

怒りとか逆の、悲しみも見えた。


この人はきっと“復讐”に囚われているのだと、スズはその顔を見てすぐに分かった……。


ドンッ……ガサッ。


何かを斬る音も、痛みも感じず、その音だけが聴こえた。


目を開ける。

昨日見た少女の1人がいた。

手には、何か光るモノを持っている。


ドスッ


「え?」


生暖かい何かが、流れて来た。

スズの方にも流れて来て、手が染まっていく。

それが“血”だと分かったのは少ししてから、頭が追いつかなかったのだろう。


少女は血で汚れている短剣を右手で持っていた。

その手にも血が付いている。


「大丈夫、ですか……?」


女の子がスズに手を差し伸べながら訪ねてくる。


血が来ている草むらを見ると、男の人は血の大きい水溜りの中にいた。



――――――――――――――――――――――



「大丈夫、ですか……?」


スズが固まっていたので、手を差し伸べてみた。

スズに返り血を飛ばしてはいない。


それなのに………、何故こんな顔をしているのか…………。

恐怖と嫌悪…悍ましいなにかを見るような顔で。


「なっ……なんで…………、」


この人が言っている『なんで』はどういう意味なのだろう。

なんで殺したのか?

なんであの人が自分を殺そうとしたのか?


「えっと………、怪我とか、ないですか、、」


特に言葉など見つからずに、それだけ言った。

けど、一応本心だ。本心で心配している。

体も心の事も………。

手は……もう直してもいいのだろうか?


「なんでっ、こんな事できるんですかっっ。

ウミ…さんも日本人なんでしょう?」


(日本人………?)


そんな事が関係あるのか?と思った。

けど、ウミが思っているような事での疑問ではなかったようだ。


スズが言っていたなんで、は、なんで人を殺せるのか、そんな疑問だった。

それを、考え出せなくなっている自分が心底嫌になった………。

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