第103話
一方、ヤーバリーズ基地の議長室。
「本当なんだろうな、ギレネス?」
「ええ、確かに聞きました。そうですよね、ホリーさん」
「はい……」
前日から周辺都市の視察を行っていたベゼルグが、戻ってきて早々に飛び込んできた重大情報に知らず知らず大声を上げていた。
「あなたが探していたニデア・クォートは現在陸軍大佐で、リヴェルナ共和国軍中央幕僚本部の監察官を務めている、と」
「ホリー、奴に実際に会っているのか?」
「はい、通信機越しに一度、それと陸軍病院で一度……」
「陸軍病院だと……?」
「ナオキ・メトバ曹長がリヴェルナの騒乱の後、入院していたので……」
「ふん、奴め……俺の代わりに今度はナオキ・メトバを生け贄にでもするつもりか?」
ホリーの言葉にベゼルグは鼻を鳴らした。ホリーはそんなベゼルグのことを不安そうな眼で眺めている。
「ん、どうした? ……そんな不安そうな目で俺のことを見て?」
「い、いえ、その……父さんはニデア大佐に会ってどうするのかと」
「どうするもこうするも、奴には何が何でも借りを返さなきゃならねえ! 二十年間もお前と引き離されただけじゃない! あの時に殺された昔の部下たちの恨みも込みだ!」
積年の恨みを爆発させんばかりのベゼルグの勢いに、ホリーはますます不安の色を濃くさせていた。見かねたギレネスがベゼルグに声をかける。
「ほらほら、ここでそんなにムキにならないでくださいよベゼルグ。彼女がすっかり怯えてしまっているじゃないですか」
「ん……? おっと、済まねえなホリー。情けねえ父さんの姿を見せちまって」
ギレネスにたしなめられたベゼルグはそこで一呼吸おいて平静を取り戻して、ホリーに謝った。
「う、ううん、父さんが落ち着いてくれたのならいいのだけれど……」
「あなたは本当に頭に血が上りやすいですよね。娘さんが来て少しは変わるかと思いましたけど」
「うるせえ、ギレネス。今俺はホリーと会話しているんだからよ」
「今あなたがいるのは業務時間内の私の部屋なのでね。私が邪魔なら業務時間外に別な場所でお願いしたいところです」
「ちっ、つれねえなぁ……」
ベゼルグはぶつぶつと文句を言っているが、それは本気ではなさそうなのをホリーは感じ取っていた。
「議長と父さんは、お互いを信頼されているのですね」
「信頼? ……まあ、そうなるのか。こんな奴だが間違いなく頭は切れるし仕事もできる。あとはもう少しケチ臭くなくなればいいんだがな」
「ずいぶんな言い草ですね。でも、私もあなたのことは高く評価していますよ。性格に少々難はありますけれど、WP操縦者としてはもちろん設計や開発、あるいは部隊の統率力といったところも抜きんでた才能を持っていますからね」
ギレネスに褒め返されたベゼルグは途端に胡散臭そうな表情に変わった。
「お前に褒められても、褒められた感じが全然しねえな。毎度のことだが」
「そうですか? 私はこう見えても人を褒めるのは上手だと自負しているのですけれど」
「そうかい。だったらその自己認識は早めに変えた方が良いだろうさ」
「あなたこそ、その微妙に意地の悪い性格を直した方が良いですよ」
言葉で応酬しあう二人の姿にホリーは思わずクスクスと笑ってしまう。男二人の大人げないやり取りに笑みを隠し切れなかった。
それを見たベゼルグは、今度は渋い表情を浮かべる。
「おいおい、笑わないでくれよホリー」
「だって……父さんも議長も何だかかわいく見えてしまって……」
「かわいい? おいおい、勘弁してくれよ……」
「いいじゃないですかベゼルグ。ここに来てから初めて彼女が笑っているところを見れたのですから」
ギレネスは至って気楽そうな表情でベゼルグをなだめるが、ベゼルグは渋い表情のままだ。
「お前に気楽そうにされると妙にむかつくな」
「そうですか? まあ、これ以上私としても親子水入らずを邪魔したくもありませんから、さっさと今日の業務を終わらすことにしましょうか。ベゼルグ、済みませんが視察の報告をお願いできますか」
「ちっ、仕方ねえな。さっさと終わらせるか」
ベゼルグとギレネスの二人はやれやれといった感じで崩していた姿勢を正して、真剣な表情に変わる。
「あ、あの……わたしは……」
「……ああ、ホリーさんは先に上がっていただいて構いませんよ。今日もお疲れさまでした」
「ホリー、済まないがここの外で待っていてくれないか? お前と話したいことがある」
「わ、わかりました……父さん……」
ホリーは慌てて帰り支度を整えると、丁寧に一礼して部屋から退出した。
それからさほど時間を掛けずにベゼルグも部屋から出てくる。
「待たせたな、ホリー」
「う、うん……大丈夫だよ、父さん……」
「立ち話もなんだ。とりあえず食堂にでも行くか」
「うん……」
ベゼルグの言葉にホリーはただただうなずくばかりだった。




