午後18時32分
また明日。
きみに食べられるのなら、本望です。
「肉まんふたつにあんまんひとつ」
コンビニに入っても離れない手に挙動不審になり、慌てて見上げた彼の顔は「離す意味が分からない」と言った表情をしていたから更に頭の中がぐるぐるしてしまった。坂田くんの匂いがするマフラーに顔半分をうずめてひとりで恥ずかしがる。きっといつまでたっても、慣れることはないのかもしれない。
「夜になる時間早くなってきたよね…もう真っ暗だ」
「夏のときはまだこの時間帯明るかったもんなー」
「……お腹、空いたね」
「ぶはっ、」
「笑われた…」
「うんうん、春ちゃんは素直でカワイイネ〜」
「こども扱いされた…」
わたしは肉まん、坂田くんは肉まんとあんまんを買った。さっそく肉まんにかじりつくわたしを見て坂田くんが何故か爆笑する。肉まんに夢中になりながら歩く色気のないわたしの手をそれでも坂田くんは離さなかった。
「春ちゃん、あんまん半分あげよっか?」
「ほんとに?」
「嬉しそう」
「うん、嬉しい!一口ちょうだい!」
「一口でいいの?」
「うん!」
「はい、あーん」
「えっ」
「あーん?」
坂田くんが持ったままのあんまんにそのままかぶりついた。モグモグと食べながら、坂田くんを見上げてありがとうと笑うと、何故か顔を逸らされた。もしかしてあまりの大口っぷりに引かれた!?
「なにそれ…かわいい…」
「ん?」
「…俺も春ちゃんに食べられてぇ」
「?、坂田くんは食べ物じゃないから食べたりしないよ?」
「そうなの?…でも、俺は食べるよ。春ちゃんのこと」
唇に、やわらかい牙が噛み付いた。味わうように彼の舌が、唇についていたリップクリームをじっくりと舐めとる。食べ足りないと、意味ありげな瞳が強請るから何も言えなくなる。
「次は、どこを食べてほしい?」
酸いも甘いも丸呑みにして、わたしの心臓に歯形をつけてニヤニヤ笑う彼に容赦なく飛び込んだ。そしたら、食べかけの肉まんがわたしと彼の間の足元に落下した。「よそ見しちゃ、だめ」と坂田くんが拗ねる。
「大丈夫、坂田くんしか見えてないよ」
先に恥ずかしがって顔をうずめたのは坂田くんのほうだった。
きみといると、毎日くすぐったい。しあわせを半分こにして、時々ケンカなんかもしちゃったりしながらでもいいからいっしょに歩いていきたいよ。
これからもきみの手を握りかえす役目はわたしでありますように。
“見てるこっちが恥ずかしい”バカップルを目指した結果が、このお話です。
どこを読んでも砂糖まみれになってしまうこんなこっ恥ずかしいお話たちを最後まで読んで下さったあなた様に、感謝です。
ありがとうございました。