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双子と竜~現代ダンジョンに双子が適応を始めたようです~  作者: 廃くじら


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第18話

「…………?」


 ドロップ品の買取手続きを終えて円(まどか)が待ち合わせ場所にやってきた時、和(のどか)と楓(かえで)の姿はそこになかった。まだ用事が終わっていないのだろうか。メッセージを送ろうと円がスマホを取り出したタイミングで購買横のカフェスペースから茶髪の若い女性がそそくさとした足取りで出てくるのが見えた。円は女性の表情が引きつっていたことが気になりカフェスペースを覗き込む。するとそこにはテーブルに横並びに座る和と楓の後姿があった。


「こっちにいたのか……二人とも、何かあった?」


 円が二人に近づき後ろから声をかけると楓がガバッと振り返り、慌てた様子で弁解する。


「っ!? ち、ちちち違うんですっ!!」

「…………何が?」


 楓を見る和の目は生温かった。




「なるほど。早速ちょっかいかけられたか」


 結局何が違うのかは教えてもらえなかった。和と楓が小鳥遊という女から動画に出ないかと誘われたことを聞き、円は購買で買ったブラックコーヒーを飲みながら溜め息を吐く。


 その反応に和が首を傾げた。


「お兄ちゃん何か知ってるの?」

「ん? ああ、たった今、榊さんからそういう連中が登録してきたから気を付けろって忠告されたとこだよ。何でも若い女性新人シーカーの成長コンテンツにするって話だから、ひょっとしたら和と楓さんにも声がかかるかもって」

「え?」


 円の言葉に何故か楓が不思議そうな声を出す。


「楓さん、どうかしました?」

「あ、いえ……」


 円の質問に楓は言葉を濁し、俯き加減に何か考え込んでしまった。その反応が気にはなったが、円が追求するより先に和から質問が飛ぶ。


「何で榊さんがそんな動画の話とか知ってるの?」

「その動画に自衛隊のお偉いさんも一枚噛んでるんだと。迷宮絡みの配信となると後からトラブルになる可能性もあるだろうし、色々根回しとかあるんじゃないか。──と、これは人には言っちゃ駄目な話だからな?」

「分かってるって」


 どうせ話す相手もいないし、と和は肩を竦める。そして続けた。


「ま、動画の件は楓さんがしっかり断ってくれたから大丈夫でしょ」

「どうだかな。和たちの話だとネタに困ったらまた絡んでくる可能性もあるんじゃないか?」

「うえ~、めんどくさ~」

「…………」


 楓は双子の話に参加せず苦い表情で黙っていた。


「……楓さん? 何かありました?」


 改めて円が尋ねると楓は顔を上げておずおずと口を開いた。


「実はちょっと気になったことがあって──」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 5月24日、日曜日。この日は完全休養日。和や楓は週末しか迷宮に潜れないのだから土日は二日とも探索に充てようと主張したが、それは円が断固として反対した。


 十分な休養を挟まないまま迷宮に挑めば疲労が抜けずミスをする可能性がある。経験が浅い内は自分の体力や限界を正確に測りにくいものだ。特に和は適応により日常生活にほとんど支障がないレベルまで体力が補強されているとはいえ、病気そのものが治ったわけではない。楓のギフトで確認した「竜の祝福」なる項目の侵食率が僅かながら増加していたこともあり、和は念入りに検査してもらうよう円から厳命されていた。



 翌25日、月曜日。円が中学校に通っている時間帯に楓が差し入れを持って和の見舞いに訪れていた。


「はい、和ちゃん。この間お話した漫画を持ってきましたよ」

「わ~い、ありがと──って、うわ。こんなにたくさん」


 和は楓からエコバックに詰められた漫画の単行本を受け取り、そのズシリとした重みに目を丸くする。中を覗き込むと黒を基調とした表紙の漫画が約30冊。それとファンブックだろうか? 赤いメタリックな表紙の分厚い本が一冊だけ交じっていた。


「重かったでしょう? こんな一気に持ってこなくても、5冊ずつぐらいで良かったのに」

「い~え! そういう訳にはいきません!」


 苦笑する和に、楓はにじり寄りキッパリと首を横に振った。


「この作品は遅効性なので本格的に面白くなってくるのは10巻以降なんです。いえ勿論それまでの話も十分面白いんですけど、深みというか登場人物が深掘りされて繋がってくるのがそれ以降と言いますか。当初噛ませ犬扱いされてたキャラが『え? お前こんなに強かったの?』とかなったり、立場的に無能な年上キャラに見えてた人が『は? 肩書き詐欺じゃん化け物かよ』みたいなバックボーンが明かされたりするのがその辺りからで、是非そこまでは読んでいただきたいんです。キャラもそうですけど戦術・戦略の面白さが分かってくるのもこの辺りからで、読めば読むほど皆凄くて無能がいないって言うか──いえ、駄目キャラはいるんですけど、むしろその駄目さが自分に刺さって応援したくなると言いましょうか。それからファンブックの方は最初に読むとネタバレになるので、16巻を読み終わったタイミングで目を通していただくのがベストです。多分、読んだらキャラの解像度が爆上がりしてまた一から読み返したくなるので──」

「分かった! 分かったよ! しっかり読ませてもらうからそれぐらいで……!」


 楓の熱量に仰け反りながら和は言った。楓はそこではたと我に返り恥ずかしそうに頬を染める。


「あ、すいません……あまり言い過ぎるとネタバレになっちゃいますよね」

「……うん、そうだね」


 そこではないが和は疲れたので訂正しなかった。


 ともかく「最新刊まで読んだら教えてください。是非感想会とかしてみたいので」と満面の笑みを浮かべる楓は可愛かったのでよしとする。


「それで、お身体の方は大丈夫ですか?」

「全く問題なし。調子が良すぎて今朝なんて新人看護師さんから『何で入院してるの?』って聞かれちゃったよ」


 ベッドの横の椅子に腰かけて訊ねてきた楓に和は苦笑して答える。実際、詳しい事情を知らない先生からは病床を空けるために自宅療養に切り替えたらどうかという声も出ているらしい。勿論、円も主治医の藤沢も、いつ何が切っ掛けで病状が悪化するか分からないと反対し、それは実現していなかった。


 円も平日は毎日見舞いに来るわけにもいかない。和の寂しさを思いやって楓は言った。


「……平日昼間一人になることが問題なら私がお手伝いできると思いますし、私の方からも自宅に帰れるようにお願いしてみましょうか?」

「気を遣ってくれるのは嬉しいけどそれは大丈夫。ほら、今私が家に帰るとお兄ちゃんに余計な負担がかかっちゃうでしょ? 多分、お兄ちゃん平日は私の為に調べ物とか訓練とか色々やることがあると思うからさ」

「…………」


 直接聞いた訳じゃないけど、と笑う和の推測は当たっていた。円は和と会っていない間も、学校以外のほとんどの時間を迷宮探索の準備や訓練、病気やその治療法の情報収集に充てている。


 そんな円のスタンスを尊くも危うく感じていた楓は微かに眉を顰めて訊ねた。


「ちょっと背負いこみ過ぎてて心配ですよね。円くんって、昔からずっとあんな感じなんですか?」

「そうだね。五年前にウチの両親が亡くなってから──ううん、気が付いた時にはずっとああだったかな。お兄ちゃん、ホントに私のこと大好きだから」


 そう呟く和の横顔は、嬉しさと申し訳なさがないまぜになっていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ──GRRRRRRRRRRR!!!


「…………」


 赤い竜が空から舞い降りる。光の粒が大地に降り注ぎ、触れた地面から見たこともない巨大な植物が隆起した。


 視線の先で亜竜の群れが飛び回り戦闘機を玩具のように噛み砕いた。竜の羽ばたきの余波で建物がなぎ倒され、あちこちで火の手が上がっている。


 飛び交う怒号と悲鳴。


 それはまるで世界の終わりのような光景だった。


「おにい……ちゃん」

「大丈夫」


 荒い息を吐きながら兄に必死に縋りついた。兄が自分を抱きしめる力が少し強くなる。両親と離れ離れになってしまい、きっと兄の身体は震えていたのだ。


「大丈夫だから……」


 ──GRRRRRRRRRRR!!!


 咆哮する全ての元凶。真なる竜。


「……だいじょう、ぶ」


 世界が怨嗟と恐怖と絶望に染まっていく。


 けれど私はちっとも怖くなんてなかった。


 兄がいればそれだけで。


 兄(・)だ(・)け(・)が(・)私の世界の全てだった。




 ──arf


「────?」

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