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双子と竜~現代ダンジョンに双子が適応を始めたようです~  作者: 廃くじら


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第17話

「はい。それでは手続き完了しました。こちらがドロップ品の受領証になりますので、査定通知が届くまで大切に保管してください」

「ありがとうございました」


 奥多摩迷宮管理事務所の買取カウンターで円(まどか)が手続きを終え、自衛官からプリントアウトされた受領証を受け取る。時刻は夕方。彼の後ろには買取待ちのシーカーたちが列をなしていた。円はA4の受領証を二つ折りにしてバッグに入れると自衛官に頭を下げて席を立つ。


「──あ、杜崎さん。ちょっと宜しいですか?」

「?」


 声をかけてきたのは買取を担当した自衛官ではなく、円や和(のどか)の登録手続きを担当してくれた榊(さかき)だった。受付の仕切り越しに榊に手招きされ、円は簡易応接としても使われるローカウンターへと移動する。


「どうぞ座って下さい」

「はい」


 改まって何事だろうか? 緊張が表情に出ている円を見て榊は言った。


「畏まった話ではないので、緊張しなくても大丈夫ですよ」

「はぁ……」


 そう言われてもわざわざ自衛官が話しかけてきて世間話ということもあるまい。円は曖昧な表情で頷いた。そんな円を見て榊は苦笑を深める。


「実は先ほど記録を見せていただいたのですが、もう第二層へ進出したということだったので気になって声をかけさせていただきました」

「ああ、そういう」


 円はその言葉に納得して頷いた。買取手続きの際にはドロップ品がどの階層で発見されたものか報告することになっており、それはそのままシーカーの進出階層として記録される。たった今報告したばかりの情報を榊が把握していることには驚いたが、シーカーの情報が担当自衛官にリアルタイムで通知される仕組みでもあるのかもしれない。榊は円を上から下まで観察してから言った。


「……時雨さんがパーティーに加わったことで無理をしているのではないかと心配していたのですが、お怪我がなくてなによりです」


 どうやら榊は円たちが時雨楓という借金を抱えたメンバーを仲間に加えたことで、稼ぐために無理をして次の階層に進んだのではないかと心配していたらしい。楓をメンバーとして紹介したのは榊だし、それは気にもなるだろう。


「ご心配いただいてありがとうございます。一応、一層でも時雨さんが食べるに困らない程度の収入は入ってたので焦ったとかではないですよ。ちゃんと安全マージンは取ってるつもりです」


 楓個人の借金は増えているが、それはあくまで仲間内での借金。楓の気持ちはともかくトータルでお金に困っていたわけではない。


「時雨さんの手札を考えると一層で弱い敵と何度も戦うより二層でちょっと強めの敵を相手にする方が効率がいいんですよ」


 呪文は便利だが使用回数という制限がある。弱い敵と何度も戦うより少し強めの敵に呪文リソースを注ぎ込んだ方が効率が良いというのはシーカーとして一般的な考え方だった。


「……なるほど。ですが効率と危険は迷宮においてトレードオフの関係です。皆さんはいくら人数が増えたと言ってもまだ三人。推奨人数の半分です。特に前衛は杜崎さん一人しかいないのですから、決して安定した構成とは言えません」

「……確かにそうですね」


 榊はタマのことを知らず、円たちの前衛がローグの円一人だけだと思っている。


「恐らく今は杜崎さんが上手く立ち回って先手を取って戦っておられるのでしょう。ですが先手を取ることだけに頼っていると、上手く行っている時はいいですが後手に回った時に全滅のリスクが高くなります。順調に感じる時ほど慎重に行動するよう心がけてください」

「……肝に銘じます」


 上手く行っている時ほど油断してミスを起こしやすい。忠告に関してはその通りだと円は改めて気を引き締めた。そんな円の反応に榊は表情を緩めて続ける。


「差し出がましいことを言いました。実は杜崎さんにお声かけしたのは、進出階層の件もそうですが他にもう一つお伝えしておきたいことがあったんです」

「? 何でしょう?」


 榊はチラと周囲を窺い、声を潜めて言った。


「……これはあまり他言しないでいただきたいのですが、実はシーカーを動画配信コンテンツとして使おうという動きがあるようなんです」

「────」


 円はその説明に意表を突かれ即座に否定した。


「無理でしょう。シーカーなんてグロコンテンツ使おうものならすぐBANされちゃいますよ。そもそも迷宮内は電子機器が使えないから動画の撮影や配信自体が不可能なんじゃないですか?」


 円の言葉は正しい。シーカーや迷宮という超常の力を配信コンテンツとして活用できないかと考える者は過去にもいたが、その悉くが円の言ったような壁にぶつかって実現しないままとなっていた。シーカーの活動を配信することは兵士が戦場で戦う様子をエンタメにするのと同じだと言えば、それがどれだけ非現実的なことか分かるだろう。


「仰る通りです。私も現実的ではないと思うんですが、どうやら今回は直接迷宮探索の様子を配信するのではなく、シーカーの力を迷宮の外で撮影してエンタメ仕立てにしたものを配信しようということで、やり方としては不可能とも言えないようなんです」

「ははぁ……まぁ、それなら出来なくはないかもですね。それに協力するシーカーがいるかは別にして」

「ええ」


 二人は含みのある表情で見つめ合った。


 確かに今言ったようなやり方なら技術的には可能だろう。だが未熟なシーカーでは動画にしても大したインパクトは出せないだろうし、熟達したシーカーは自分の手の内を晒すことを嫌う傾向があり生半可な金では動かない。そんな海のものとも山のものとも分からない企画に協力する者がいるとは考えにくかった。


「一応、新しくシーカーになった人間の成長コンテンツとしてやっていく方針だとは聞いています。若い女性をキャストに使ってね」


 よくある手法ではあるが、それならわざわざシーカーなんてものを題材にしなくてもいい気がする。ただでさえ迷宮関係は規制が厳しいのだ。


「そもそもなんでわざわざシーカーなんです? 自衛隊的にそういうのって問題になったりしないんですか?」


 円の疑問に榊は更に声を潜めて答えた。


「……実はこの話、ウチの上層部もいくらか関与しているようなんです。シーカーの裾野を広げる目的とかで、正式な話というわけではないものの便宜を図ってやってくれと内々に指示が下りてきています」

「それはまた……」


 自衛隊の立場として、ある程度シーカーの数を確保しなければならないという理屈は円にも理解できる。だが動画配信などというやり方が本当に上手く行くと思っているのだろうか?


 円の懐疑的な反応に榊は気持ちは分かると頷いた。


「恐らくは上も本気で上手くいくと思っているわけではないと思います。正式な話ではありませんし、せいぜい何かの糸口になればといったところでしょう。良くも悪くもあまり大事にはならないでしょうから、お試し感覚で目こぼししてやれ、ということではないかと」

「なるほど」


 そういうことなら分からなくもない。これは推測になるが、誰かそうした活動を強烈に勧める人間がいて、周りがそれを黙認したとかそんなところだろうか?


「話は分かりました。だけどその話を何で僕に?」


 その動画と円たちと何の関係があるというのだろうか?


 円の疑問に榊は苦い表情で言った。


「……先ほども言った通り、その動画は若い女性を使った成長コンテンツにする予定だそうです。ただ一人だけではどうしても訴求力が弱いですし、かと言ってシーカーになってもいいという若い女性などそうそう見つかるものではありません」

「! それって──」

「ええ。妹さんや時雨さんにいらぬちょっかいをかけてくる可能性があるかもしれません」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「アタシと一緒に動画出演しない?」

『…………』


 その提案に和と楓は目を瞬かせた。


 女は小鳥遊(たかなし)一紗(かずさ)と名乗った。背中まで伸びた明るい茶色の髪と大きな目が印象的な美女。歳は見たところ20歳前後だろうか。一紗は和たちを強引にカフェスペース──購買の横にテーブルと椅子が並んでいるだけ──に連れ込み、前置きもそこそこにそんなことを言った。


 数瞬の沈黙を挟んで和がそれに反応した。


「ごめんなさい。私は未成年なのでエッチなのはちょっと……」

「へ? いやいやそんなんじゃないって──」


 その切り返しに一紗は目を瞬かせた。和はそれに構わず楓をぐいっと前に押し出して続けた。


「こっちの楓お姉さんは成人してるのでバッチリですよ。ほら見てください、このたわわなメロン」

「ふぇっ!? の、和ちゃん、何言いだすの!?」

「いや、確かにこっちのお姉さんは脱いだら人気でそうだけど──じゃなくて!」


 一紗は場の空気を仕切りなおすように一呼吸置いて続けた。


「アタシが言ってるのは全年齢向けのフツ~の動画! 実はアタシ、これからシーカーの裾野を広げるってテイで色々配信活動していく予定なんだ。だけどやっぱアタシ一人だとネタが持ちそうにないでしょ? かと言ってシーカーなんて大抵むさ苦しいオッサンばっかりで、流したらすぐ『暴力的な~』とかでBANされちゃいそうじゃん。出来ればアタシ以外にも何人か一緒に動画に出てくれる見栄えの良い人が欲しいな~、って思ってたんだ」


 唐突な説明ではあったが言いたいことは理解できた。和が確認する。


「ん~と、それで私と楓ちゃんが一紗さんのお眼鏡にかなったってことですか?」

「そう! お人形さんみたいなロリっ子と色々デカい押しに弱そうなお姉さん! アタシとはタイプが違ってイケると思うのよ!」

『…………』


 力説する一紗に和と楓は顔を見合わせる。そして和が言った。


「……やっぱりいかがわしい動画では?」

「女の子をメインコンテンツにする以上そこは否定できないね!」


 一紗は潔く認めた。その上でアピールを続ける。


「でもでも、協力してくれたらお金だって出るし、ウチのスタッフが迷宮探索をサポートしてくれるよ? 顔に傷でもついたら大問題だから上げ膳据え膳安心安全の姫プレイ!」


 しかし和は一気に興味を失った様子で、素っ気なく言った。


「私、お兄ちゃんと一緒にパーティー組んでるのでそういうのは結構です」

「お兄さんもいるの? お嬢ちゃんのお兄さんならきっとイケメンだし、兄妹ユニット売りも全然ありだよ?」

「…………」


 しつこく強引な一紗に和はどうしたものかと辟易した表情になる。一紗はそんな和の反応を気にすることなく続けた。


「ねねね、お兄さんどこ? 何歳? アタシと歳が近いなら色々やり方もあるし、いっそカップル売りも──」

「いい加減にしてください!!」


 ──ドンッ!!


『!?』


 それまで大人しくしていた楓が机を叩いて一紗をギロリ睨みつける。その突然の豹変に一紗だけでなく横にいた和も目を丸くした。


「和ちゃんにはお兄さんだけいればいいんです!! 間に挟まろうとか何を汚らわしいことを言ってるんですか!? 私の推しカプの邪魔をしないで下さい!!!」

「…………は、はい。すいませんでした」


 一紗はその迫力に気圧されて一も二も無く謝罪した。

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