第二十二話 実践強化週間
記録:は
翌日。
俺たち特級クラスの生徒は、学園の外れにある巨大な訓練施設へ集められていた。
「本日より一週間、『実戦強化週間』を開始する!」
教官の声が演習場いっぱいに響く。
どうやら今日は、学園が所有する魔物討伐区域で実戦訓練を行うらしい。
(なるほど。実戦か)
俺は少しだけ気合いが入っていた。
昨日の朝に身体強化の出力を大幅に上げてみたけど、まだ実際の戦闘で使っていない。
今の自分に何ができるのか。
逆に、何が足りないのか。
それを確かめるにはちょうどいい。
「ルイス様!」
隣でニアが尻尾を揺らしている。
「今日はいっぱい魔物を倒せるかにゃ?」
「ほどほどにね」
「えー」
(ほどほどって言ってるのに、その顔は絶対いっぱい倒す気だろ)
そんなことを考えていると、教官が説明を続けた。
「なお、今回の訓練では魔物の討伐数だけではなく、索敵能力、連携、判断力も評価対象とする!」
(連携か)
これはニアと組む俺たちにとってはかなり有利だ。
彼女の五感は俺以上。
俺は鑑定で敵の弱点を見抜ける。
役割分担さえできれば、かなり効率よく動けるはずだ。
「では、森へ入れ!」
合図と同時に、生徒たちが一斉に森へ駆け出した。
俺とニアも走り出す。
しばらく進んだところで――
「止まって!」
ニアが突然叫んだ。
「前方、何かいるにゃ!」
俺もすぐに足を止める。
【万能鑑定】
【グレートウルフ】
・危険度:E
・速度:B
・弱点:右後脚
・状態:警戒
・備考:通常個体より魔力濃度が高い
(……魔力濃度が高い?)
普通のEランク魔物なのに、妙に嫌な感じがする。
しかも――
「ニア、右から回り込める?」
「任せるにゃ!」
俺が指示を出す。
ニアが一瞬で木々の間へ消えた。
直後。
ガサッ!
「グルァァァッ!」
グレートウルフが飛び出してきた。
速い。
普通の個体より明らかに速い。
でも――
(昨日の訓練より、ずっと遅く感じる)
身体強化。
出力70%。
視界が一気に広がる。
爪が迫ってくる。
その軌道まで、はっきり見えた。
俺は半歩だけ身体をずらし、そのまま木剣を振り抜く。
――ドンッ!
グレートウルフが地面を転がった。
「……一撃?」
自分でも少し驚いた。
【身体強化魔術】
・現在出力:72%
・身体負荷:小
(まだ余裕がある)
以前なら、こんな出力を使えば身体にかなり負担がかかったはずだ。
でも今は違う。
毎日の訓練で、身体そのものが強くなっている。
(成長してる……俺、本当に)
前世では、何かを始めてもすぐに諦めていた。
そんな自分が、毎日鍛錬を続けている。
それだけでも、少しだけ嬉しかった。
「ルイス様!」
ニアが戻ってきた。
「すごかったにゃ!」
「ありがとう。ニアも助かったよ」
頭を撫でると、ニアの耳が嬉しそうにぴくぴく動く。
だが――
俺は倒したグレートウルフを見る。
その身体から漂う魔力が、どうしても気になる。
(ただの魔物じゃない)
もう一度鑑定。
すると――
【異常魔力反応】
【原因:外部からの魔力付与】
(やっぱり)
誰かが意図的に魔物へ魔力を与えている?
その時。
遠くの森の奥から――
「……キィン」
金属が擦れるような音が聞こえた。
俺は顔を上げる。
「今の音、聞こえた?」
「聞こえたにゃ」
ニアの耳もそちらを向いている。
俺たちは顔を見合わせた。
(この訓練区域に、誰かが細工している?)
ただの実戦訓練だと思っていたのに――
また面倒なものに巻き込まれたらしい。
そして森の奥。
木々の隙間から、一瞬だけ――
黒い羽根のようなものが見えた。
「……!」
俺はすぐに走り出した。
だが、その影はすぐに消えてしまった。
残っていたのは、木の根元に置かれた小さな金属片。
鑑定する。
【未知の魔導部品】
・用途:魔力誘導
・製造国:不明
・残留魔力:闇・氷
・備考:数時間前に設置
(闇と氷……?)
まただ。
南の黒砂。
北の氷帝国。
そして、王都。
もしかすると――
この三つを繋いでいる何かがある。
俺は金属片をポケットへしまった。
「ニア。ここから先、気をつけよう」
「うんにゃ」
シャロンの事件を追う中で、俺は少しずつ強くなっている。
でも――
敵もまた、確実に動き始めている。
そしてこの実戦強化週間が、
俺たちを新たな出会いへ導くことになるとは――
この時の俺は、まだ知らなかった。
記録:き
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