第二十話 魔道具−氷
記録:く
放課後の旧校舎。
俺とニア、そしてアリシアの三人は、人気のない廊下に立っていた。
「……これで五分くらいですわね」
エレノアまでついてきていた。
(なんでいるんだろう)
まあ、王女様を置いていくわけにもいかないので仕方ない。
問題は――
目の前のアリシアだ。
彼女の手には、昨日見たものと同じ黒い羽根が握られている。
「それ、どこで手に入れたの?」
俺が尋ねると、アリシアは少し迷ってから口を開いた。
「……グラキエスから持ってきたものです」
「グラキエスから?」
「はい」
彼女は羽根を見つめる。
「これは、私の国では『黒翼石』と呼ばれる特殊な魔導素材に使われるものです」
(黒翼石……?)
初めて聞く名前だ。
俺は羽根を鑑定してみる。
【黒翼石の欠片】
・属性:闇・空間
・用途:魔力通信、空間転移補助
・産地:北方・黒霜鉱山
・危険度:C
(……北方産)
なるほど。
昨日の通信魔導具に残っていた魔力と一致する。
でも――
「これがどうして黒砂地帯と繋がるの?」
アリシアの表情がわずかに曇った。
「そこが、私にも分からないのです」
「え?」
「グラキエスでは普通に使われている素材でした。でも数年前から、一部の黒翼石が南方へ流れているという噂があって……」
南方。
その言葉に、俺は黙り込んだ。
(やっぱりだ)
北で採れる素材が南へ流れている。
それだけなら商売として普通だ。
だが、シャロンをさらった組織が使う魔術。
黒い羽根。
黒砂地帯。
そして北方。
全部が少しずつ繋がっている。
「その流通先って分かる?」
「……一つだけ」
アリシアが答える。
「王都です」
「王都……」
俺は思わず街の方角を見る。
敵は遠くにいると思っていた。
でも――
最初から俺たちのすぐ近くにいるのかもしれない。
「ルイス様」
ニアが俺の袖を掴んだ。
「どうするにゃ?」
「まずは、黒翼石を扱っている店を調べよう」
地道だけど、それしかない。
と思った、その時。
アリシアの懐から――
ピピッ。
小さな電子音のような音が鳴った。
彼女が慌てて魔導具を取り出す。
画面には、短い文字が浮かんでいた。
『予定変更。門はまだ開くな』
「……!」
アリシアの顔色が変わる。
俺も画面を覗き込む。
(門……?)
あの封印門のことか?
だったら――
この通信を送った人物は、アークライト家の秘密まで知っている。
「アリシア」
俺は静かに聞いた。
「この連絡、誰から?」
「…………」
彼女は答えなかった。
ただ、青い瞳を伏せる。
その反応だけで十分だった。
(やっぱり、まだ何か隠してる)
でも、不思議と敵だとは思わなかった。
アリシアの表情には、嘘というより――
怯えがあったからだ。
「……私が話せることには限界があります」
「分かった」
俺はそれ以上追及しなかった。
今は、彼女を問い詰めるよりも情報を集める方が大事だ。
「でも、一つだけ教えて」
「何でしょう?」
「その『門』は、どこにある?」
アリシアはしばらく黙っていた。
そして――
「……黒の砂漠です」
やっぱり。
俺は小さく息を吐いた。
シャロンの行方に繋がる道は、少しずつ一本になりつつある。
北から南へ流れる黒翼石。
王都に潜む何者か。
黒の砂漠にある封印門。
そして、行方不明のシャロン。
(絶対に全部繋がってる)
その時。
廊下の奥から、誰かの足音が聞こえた。
――コツ。
――コツ。
ゆっくりと近づいてくる。
「……誰?」
ニアの猫耳がピンと立つ。
俺は木剣へ手を伸ばした。
だが――
足音は途中で止まった。
代わりに、床へ何かが落ちる音。
カラン。
そこにあったのは――
小さな銀色の徽章だった。
俺はそれを拾い上げる。
【王立魔法学園・旧式徽章】
・使用時期:約20年前
・所属:不明
・備考:現在は使用禁止
(20年前……?)
シャロンに関係する時期と近い。
俺は徽章を握りしめた。
どうやら次に調べるべきなのは――
学園そのものらしい。
記録:ろ
北から南へ流れる「黒翼石」。
そして、20年前に使われていた謎の学園徽章。
少しずつ謎が繋がってきました。
でも、まだまだ序盤です。34214234423




