第十九話 秘密?
記録:ね
グラキエス氷帝国からやって来た留学生――アリシア・フォン・グラキエス。
彼女が特級クラスへ入ってきてからというもの、教室は朝からいつも以上に騒がしかった。
「氷帝国の魔導科学って、どんな感じなんだ?」
「重装騎士を一人で動かす魔導装置があるって本当?」
「ねえ、アリシアさん! 北の国って雪しかないの?」
次々に飛んでくる質問。
その中心で、アリシアは少し困ったように笑っていた。
「ええと……その、雪だけではありません。ちゃんと町もありますし……」
(なんだ。意外と普通の子だな)
昨日、鑑定を邪魔されたことで勝手に警戒していたけど、
話している姿だけを見ると、とてもそんな危険人物には見えない。
むしろ、質問されるたびに少し慌てている。
「ルイス様」
隣からニアが小声で話しかけてくる。
「どうするにゃ?」
「何が?」
「鑑定するにゃ?」
(……やっぱりニアも気になってるよな)
俺はさりげなくアリシアへ視線を向けた。
そして――
【万能鑑定】
を発動する。
【アリシア・フォン・グラキエス(15歳)】
・種族:人族
・魔力属性:氷・機械
・魔力:A
・職業:グラキエス氷帝国・王族
・状態:緊張
・隠蔽術式:高位
・秘密:???
(やっぱり、そこだけ見えない)
昨日よりも少し詳しく見えるようにはなった。
だけど、『秘密』だけは完全に伏せられている。
しかも――
俺が鑑定を続けようとすると、また視界にノイズが走った。
(この感覚……昨日と同じだ)
誰かが俺の鑑定を妨害している。
ということは、アリシア本人が何かの術式を持っている?
それとも――
(別の誰かが、彼女を隠してる?)
考えれば考えるほど怪しい。
「……ルイス・フォン・アークライト」
突然、アリシアが俺の名前を呼んだ。
「え?」
「少し、お話ししてもいいですか?」
「もちろん」
俺たちは教室の端へ移動した。
アリシアは周囲を確認してから、声を落とす。
「あなた……昨日、私を鑑定しましたよね?」
(――っ!)
バレてた!?
俺の顔が一瞬固まる。
「……やっぱり分かる?」
「はい。氷帝国には、魔力干渉を感知する訓練がありますから」
なるほど。
つまり俺の【万能鑑定】そのものを知っているわけじゃないが、
鑑定されたことは感じ取れるらしい。
「ごめん。怪しいと思ったから」
俺が素直に謝ると、アリシアは意外そうな顔をした。
「怒らないの?」
「怒る理由がないよ。僕のほうが勝手に見ただけだし」
「…………」
アリシアはしばらく黙っていた。
そして、少しだけ笑った。
「……変な人ですね」
(よく言われる)
「ただ、これだけは伝えておきます」
アリシアの青い瞳が、真剣になる。
「私は、あなたの敵ではありません」
「……!」
「少なくとも、今は」
「今は?」
俺が聞き返した瞬間――
キーン、コーン、カーン。
一限目の開始を告げる鐘が鳴った。
アリシアはそれ以上何も言わず、自分の席へ戻っていく。
(今は敵じゃない、か……)
ものすごく気になる言い方だ。
でも、無理に問い詰めるのはやめておこう。
敵なら、いずれボロが出る。
そして何より――
俺には【万能鑑定】がある。
完全に見えなくても、時間をかければ何か分かるかもしれない。
◇
放課後。
俺たちが寮へ戻ろうとしていると――
「ルイス様!」
ニアが突然、俺の腕を引っ張った。
「こっちにゃ!」
「どうした?」
「アリシアさんがいないにゃ」
「え?」
教室を見る。
たしかに、もうアリシアの姿がない。
俺はすぐに鑑定で残留魔力を探した。
――氷属性。
それに混じって、微かな闇属性。
(……まただ)
その魔力は、学園の旧校舎方面へ続いていた。
「行ってみよう」
俺たちは廊下を走る。
そして、旧校舎の角を曲がったところで――
アリシアの姿を見つけた。
彼女は一人で立っていた。
手には、見覚えのあるもの。
――黒い羽根。
「…………」
俺は思わず足を止めた。
アリシアも、こちらに気づく。
ほんの一瞬。
彼女の青い瞳が大きく揺れた。
「……これは、違うんです」
「何が?」
俺は黒い羽根を見つめた。
その魔力は――
あの日、禁書庫で見つけたものと同じだった。
そしてアリシアは、静かにこう呟いた。
「その羽根を……あなたが持っているものと、同じだと思っていますか?」
俺は答えなかった。
ただ、確信に近い感覚だけが胸の中に広がっていった。
――この少女は、シャロンの事件について何かを知っている。
そんな気がした。
記録:は
アリシアが持っていた「黒い羽根」。
ルイスたちが追っている事件と、果たして関係があるのでしょうか?
そして、今回の記録文字も忘れずに……アハハハハハハハハハHAHAHA母母haha




