第十七話 便り
記録:く
王立魔法学園に戻ってから、数日。
俺はいつものように朝の訓練を終え、教室へ向かっていた。
「ルイス様、おはようございますにゃ!」
「おはよう、ニア」
黒い猫耳をピコピコ動かしながら、ニアが隣を歩いている。
昨日は王都を歩き回ったせいで少し疲れたが、久しぶりにゆっくりできたのはよかった。
……まあ。
「それで、今日のお昼はどこで食べるにゃ?」
「もう昼の話してるの?」
「大事なことにゃ!」
(本当に食べることが好きだな……)
そんな会話をしながら教室へ入ると――
「全員、席につけ」
珍しく担任の教授が、いつもより早く教室へ入ってきた。
しかも、その手には見慣れない書類。
「本日は、王国各地の情勢について簡単に説明する」
(……情勢?)
教授が黒板に地図を描く。
アルカディア王国。
その北側には――グラキエス氷帝国。
「現在、北方から一通の正式な書簡が届いている」
教室がざわつく。
「氷帝国から?」
「何の用だ?」
教授は書簡を掲げた。
「内容は、王立魔法学園への留学生派遣についてだ」
「留学生?」
俺は思わず身を乗り出した。
グラキエス氷帝国。
父上がかつて何度も戦場で対峙したという北方の大国。
魔術よりも魔導科学や重装騎士に秀でている国だ。
(氷帝国の技術……ちょっと興味あるな)
前世の科学知識を持つ俺からすると、魔導科学という言葉だけでも気になる。
魔力と機械を組み合わせているなら、学べることは多いはずだ。
教授が続ける。
「留学生の到着は数日後を予定している。各自、失礼のないように」
教室のあちこちで期待の声が上がる。
だが――
俺の【万能鑑定】が、書簡に残った魔力へ反応した。
(……この魔力)
昨日、街で見つけた黒い魔導具。
あれと少しだけ似ている。
闇属性。
空間系。
そして――
北方由来の魔力。
「……まさか」
俺は小さく呟いた。
シャロンの誘拐。
黒い羽根。
黒砂地帯。
北方への通信。
そして今回の留学生。
まだ何も決まったわけじゃない。
でも、こうして点が増えていくと、どうしても気になる。
(敵の組織が、北にも関係している……?)
その時。
「ルイス様?」
ニアが不思議そうに俺を見る。
「また難しい顔してるにゃ」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事」
「シャロンさんのことにゃ?」
「うん」
すると、向かいの席からエレノアも口を挟んできた。
「……私も少し気になりますわ」
「エレノア様も?」
「北方の話を聞いて、昨日の街で見つけた魔導具を思い出しましたの」
(やっぱり、この人も気づいてたか)
王女とはいえ、最近はかなり鋭くなっている。
俺は少しだけ笑った。
「じゃあ、留学生が来たら話を聞いてみよう」
「ええ」
「もちろんにゃ!」
こうして、俺たちの新たな調査対象が決まった。
――グラキエス氷帝国。
そして、その日の夕方。
寮に戻った俺の机の上に、一通の封筒が置かれていた。
差出人は――
父上。
「……父上から?」
封を切る。
中に入っていたのは、短い文章だった。
『ルイスへ。最近、お前が北方について調べていると聞いた』
(……え?)
『この件については、学園では決して深く追うな』
俺の手が止まった。
続きには――
『北には、お前がまだ知るべきではないアークライト家の過去がある』
と書かれていた。
「…………」
俺はしばらく、その紙を見つめた。
父上が、俺に調べるなと言う。
こんなことは今まで一度もなかった。
(……逆に気になるじゃん)
俺は思わず苦笑した。
どうやら――
シャロン誘拐事件の謎は、俺が思っていたよりずっと昔から続いているらしい。
記録:ろ
今回から、物語のところどころに小さな「記録文字」を残していきます。
今は意味のない一文字に見えるかもしれませんが……。
長い旅の先で、振り返った時に何かが見えてくるかもしれません。
次回は、ついにグラキエス氷帝国からの留学生が登場!
ルイスの学園生活は、さらに賑やかになって!0#)%(#




