第十六話 魔道具
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王立魔法学園に入学してから、毎日が本当に忙しい。
授業に、剣術訓練に、魔術の研究。
その合間にはシャロンの行方を探すための調査までしている。
――正直、10歳児の一日の予定としては詰め込みすぎだ。
(まあ、前世の俺なら「忙しい」なんて言葉とは無縁だったけどな……)
そんなことを考えていた朝。
学園中に、いつもの始業ベルとは違う鐘の音が鳴り響いた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
続いて、魔導式の校内放送が流れる。
『本日午後、王都中央広場にて魔導具展示会を開催します。生徒の皆さんも自由に参加してください』
「魔導具展示会?」
俺は思わず顔を上げた。
前世の科学知識を持つ俺にとって、魔導具はかなり興味深い存在だ。
魔石をエネルギー源にして、魔術式によって様々な道具を動かす。
つまり――この世界に存在する『魔法版の科学技術』みたいなものだ。
(これは行くしかないだろ!)
「ニア、今日の午後、行ってみようよ」
「行くにゃ!」
即答だった。隣にいたエレノアも、
「私もご一緒しますわ」
と胸を張る。
(この二人、最近すっかり俺についてくるようになったな……)
まあ、賑やかなほうが楽しいけど。
◇
午後。王都中央広場は、普段以上の人で賑わっていた。
魔導車。
小型通信機。
自動調理器。
冷却装置。
簡易結界。
見たことのない魔導具が、そこら中に並んでいる。
「すごいにゃ!」
ニアが目を輝かせながら展示品を覗き込んでいる。
「これ、何に使うのかにゃ?」
「魔石を使った暖房装置らしいよ」
「じゃあ冬でも暖かいにゃ!」
「そういうこと」
ニアは完全に観光気分だ。
そんなニアを横目に、俺は展示されている魔導具を次々に鑑定していく。
(……なるほど)
魔石から取り出した魔力を、そのまま術式に流し込んでいる。
でも――
【魔導暖房器】
・魔力変換効率:41%
・熱損失:大
・術式安定性:B
(かなり無駄が多いな)
前世の科学知識があると、どうしても気になってしまう。
魔力を一度別の形に変換してから、熱へ変えたほうが効率が良い。
つまり、今の術式は――
「……ここを変えたらいいんじゃないか?」
俺が何気なく呟くと、近くにいた技術者が振り向いた。
「え? 坊や、今何か言ったかい?」
「えっと、この魔力経路です」
俺は術式板を指差す。
「ここで一度流量を絞ってから、別の経路へ流せば、魔力の無駄が減ると思います」
技術者が固まった。
「…………」
数秒後。
「こ、これは……!」
彼は慌てて術式を確認する。
「理論上、変換効率が一気に上がるぞ……!?」
「え?」
周囲の人たちまで集まってくる。
(……しまった)
また目立ってしまった。
「見ろ! あの子、展示品の術式を一瞬で理解したぞ!」
「まさか、あれが噂のアークライト家の神童!?」
(だから噂を広げないでくれ!)
ニアは楽しそうに笑っている。
「ルイス様、また有名になったにゃ!」
「全然嬉しくないよ……」
エレノアも呆れた顔だ。
「あなたは本当に、静かにしているという選択肢がありませんのね」
「俺だって好きでこうなってるわけじゃないよ!」
◇
なんとか人混みから逃げ出した俺たちは、展示会の奥にある休憩スペースへ向かった。
そこで、俺はふと足を止めた。
隅の小さな机に、古びた魔導具が一つ置かれている。
見た目は通信機のようだ。
でも、なぜか気になった。
【万能鑑定】
【簡易通信魔導具】
・製造元:不明
・最終通信履歴:削除済み
・残留魔力:闇・空間
・推定通信先:南方黒砂地帯
・最終通信方向:北方
「…………」
胸の奥がざわついた。
南方黒砂地帯。
また、この名前だ。
そして――北方。
昨日、街で見つけた紙に書かれていた言葉。
『北を見よ』
(これ、偶然じゃないよな?)
俺は魔導具をじっと見つめた。
シャロンの誘拐。
黒い羽根。
古代遺跡。
黒砂地帯。
そして北方へ向けられた通信。
全部がまだバラバラだ。
でも――
(いずれ、どこかで全部繋がる)
そんな気がしてならなかった。
「ルイス様?」
ニアが心配そうに覗き込む。
「難しい顔してるにゃ」
「ちょっと考え事」
俺は小さく笑った。
今は焦らない。
手掛かりは少しずつ集めればいい。
そして、その日の帰り道。
王都の北側にそびえる城壁の向こうから――
冷たい風が吹いてきた。
俺はふと、その風の中に混じる魔力を感じ取った。
(……この感じ)
ほんの一瞬。
雪と氷のような、冷たい魔力。
俺は思わず北の空を見上げた。
――まるで誰かが、こちらを呼んでいるようだった。
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