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第十五話 休日

今回は2話連続投稿ということで、少しだけゆったりとした雰囲気です。

是非お楽しみください!


 王立魔法学園に入学してから、毎日が本当に忙しい。

 授業。訓練。図書室での調査。

 そして、禁書庫の地下で見つけた謎の古代遺物。


 ……正直、10歳児が背負うにはちょっと重すぎる気がする。


 「ルイス様ぁ……」


 朝の食堂で、向かいに座るニアが大きくあくびをした。

 黒い猫耳がへにゃっと寝ている。


 「昨日はずっと本を読んでましたからね」


 隣のエレノアも、いつもより少し眠そうだった。


 「まったくですわ。こんな朝から難しい話ばかりしていては、頭が疲れてしまいますもの」


 (いや、言ってることはその通りなんだけど……)


 俺はパンをかじりながら、昨日の地下室のことを思い出す。


 『彼女を見つけた時、門は開く』


 あの一文。シャロンの名前まで記されていた古代遺物。

 絶対に偶然じゃない。

 ……だけど。


 「今日は休もう」

 「……え?」


 ニアが目を丸くした。


 「休む?」

 「そう。せっかくの休日なんだから、今日は街に出よう」


 シャロンのことを考えるな、というわけじゃない。

 むしろ逆だ。

 ずっと一つのことだけを考えていると、視野が狭くなる。


 前世の俺は、引きこもっていたせいで世界を狭くしすぎていた。

 この世界では、もっといろんなものを見ておきたい。

 街の人。文化。魔導具。商売。

 そして、国そのもの。


 何気ない日常の中にこそ、重要な情報が転がっているかもしれない。


 「賛成ですわ!」


 エレノアが勢いよく手を上げる。


 「王都を案内して差し上げます!」

 「王女なのに普通に街を歩くの?」

 「今日は身分を隠しますの!」


 (……本当に大丈夫なのか、この王女)


 俺は苦笑しながら、休日の王都へ繰り出すことにした。


 ◇


 王都アーケディアは、学園の外へ出てみるとさらに巨大だった。

 石畳の大通り。頭上を走る魔導灯。

 馬車と魔導車が行き交い、露店からは焼きたてのパンや肉の香りが漂っている。

 商人たちは大声で商品を売り、冒険者らしき人たちは装備を整えて酒場へ入っていく。


 「すごいにゃ……!」


 ニアが目を輝かせる。

 俺も思わず周囲を見回す。


 (王都ってこんなに人が多いのか)


 学園の中にいると、貴族や教師ばかりだから忘れがちになる。

 ここには、平民も商人も職人も冒険者もいる。


 つまり――

 この国で実際に暮らしている人たちの姿が見える。


 「こっちですわ!」


 エレノアが俺たちを引っ張っていく。


 「まずは王都名物の魔導具街です!」


 そこには、小さな魔道具店がずらりと並んでいた。

 扇風機のように風を出す魔導具。

 自動で火力を調節するコンロ。

 水を浄化する小型装置。


 さらには――


 「これ、時計?」

 「そうですわ。魔力を動力にしているのです」


 (面白いな……)


 前世の科学知識とは違う。

 でも、この世界の魔導文明には、この世界独自の進化がある。

 俺は商品を見ながら考える。


 (魔力をエネルギーとして使えるなら、熱力学的な制約をどう扱ってるんだ?)


 気になって、店主に質問してみる。


 「この魔導具って、魔石の魔力がなくなったら使えないんですか?」

 「おや、坊ちゃんは詳しいねぇ。普通はそうだよ」

 「じゃあ、魔力を循環させたら?」

 「……循環?」


 店主が目を丸くする。


 (あ、、、)


 またやってしまった。

 前世の知識をそのまま出してしまう癖。


 「い、いや。なんとなく思っただけです」

 「いやぁ、面白いことを言う坊ちゃんだ!」


 店主は笑った。俺も笑い返す。

 けれど――

 店の奥に置かれた、小さな黒い魔石に目が止まった。


 【鑑定】

 【特殊魔石】


 ・属性:闇

 ・産地:南方黒砂地帯

 ・加工者:不明

 ・備考:流通禁止指定品


 (……南方?)


 一瞬で意識が引き締まる。


 「店主さん」

 「ん?」

 「これ、どこから仕入れたんですか?」

 「それかい? 知り合いの卸商からだよ。珍しい石だから、飾ってるだけさ」

 「……そうですか」


 俺はそれ以上聞かなかった。

 でも、頭の中にはしっかり残った。


 (南方黒砂地帯の魔石が、王都で普通に出回ってる?)


 シャロンの事件。黒い羽根。封印門。

 そして、この魔石。


 まだ点と点だ。


 でも――

 いつか全部、線になる気がする。


 ◇


 「ルイス様、これ見て!」


 考え込んでいる俺の手を、ニアが引っ張った。

 そこは広場の一角。

 猫獣人向けのアクセサリーを売っている店だった。


 「かわいいにゃ……!」


 ニアの目が完全に輝いている。


 「ルイス様、これ……!」

 「気に入ったの?」

 「……ちょっとだけ」


 どう見ても、かなり気に入っている。

 俺は笑って、その小さな髪飾りを手に取った。


 「じゃあ、これにしようか」

 「えっ?」

 「今日の記念」


 ニアの猫耳が、ピンッと立った。


 「……いいの?」

 「うん」

 「えへへ……大事にするにゃ!」


 嬉しそうなニアを見て、俺まで嬉しくなる。

 その横で――


 「…………」


 エレノアがじっとこちらを見ていた。


 「エレノア様?」

 「べ、別に!」


 いや、分かりやすすぎる。


 【万能鑑定(オールアプレイザル)】


 【エレノア・フォン・アルカディア】


 ・状態:羨ましい、少し不満

 ・脳内:『べ、別に私だって何か欲しいわけじゃないわ!……でも、ああいうのを貰うのって、少し羨ましいかも!』


 (……はいはい)


 俺は店を見回した。

 すると、金色の小さな栞が目に入った。


 「エレノア様」

 「な、なんですの?」

 「これ、どうですか?」


 栞を差し出す。

 エレノアが目を丸くする。


 「……私に?」

 「いつも本を読んでいるから、使うかなって」

 「…………」


 しばらく黙ったあと――


 「……いただきますわ」


 ほんの少しだけ笑った。


 (まあ、これくらいなら)


 今日は休みなんだから。

 事件のことばかり考えているより、こういう時間も悪くない。

 ……そう思った直後だった。

 人混みの向こうから、一人の老人がこちらをじっと見ていることに気づいた。

 黒い外套。長い杖。


 そして、その杖の先に――

 小さな黒い羽根の飾り。


 (……え?)


 俺は反射的に【鑑定】を使った。


 【対象:不明】


 ・魔力属性:闇

 ・出自:不明

 ・鑑定妨害術式あり


 (まただ……)


 俺の鑑定を妨害している。

 老人は俺と目が合うと、一瞬だけ笑った。


 そして――

 人混みの中へ消えていった。


 「ルイス様?」


 ニアが不思議そうに見上げる。


 「どうしたんにゃ?」

 「……いや」


 俺は老人が消えた方向を見る。


 「何でもないよ」


 今日は休日。

 ただ街を歩いて、少しだけ楽しい時間を過ごす。


 ――そのはずだった。

 でも。俺はまだ知らなかった。


 この街で見た小さな『黒い羽根』が、

 やがてシャロンの行方だけでなく――


 王都の裏側に潜む、ある人物へと繋がっていくことを。

ありがとうございます。次回もお楽しみください!


感想を書く▶サイコー!うっひょー!チートすぎだろww


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