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第十三話 禁断庫

投稿が遅れてすみませんでした。今回はこれまでとは雰囲気がまるで違います。この作品、エ◯だけだろと思っているそこのあなた。違いますぞ?


 王立魔法学園に入学してから、まだほんの数日。

 それなのに、俺の名前はすでに学園中へ広まってしまっていた。

 廊下を歩けば、すれ違う生徒たちがこちらを見てヒソヒソと何かを話している。


 「……あれが噂のルイス・フォン・アークライトだろ?」

 「入学試験で魔力測定器を壊したっていう……」

 「いや、それだけじゃない。魔術試験ではゴーレムどころか、演習場の防壁まで吹き飛ばしたらしいぞ」

 「昨日の模擬戦も見たけど、あれは本当に10歳なのか……?」

 「隣の獣人の女の子も相当な実力者らしいぞ」


 聞こえてくる会話に、俺は心の中で小さくため息をついた。


 (……完全に目立っちゃったなぁ)


 まあ、原因は全部俺自身にある。


 入学試験では魔力を一割流しただけで測定器を粉砕。

 魔術試験では初級魔法の『炎弾(ファイアーボール)』でゴーレムと防壁をまとめて消し飛ばした。

 さらに昨日の模擬戦では、特級クラスの生徒たちをニアと二人で完封。


 これだけ派手にやれば、そりゃあ噂にもなる。


 前世では、目立つどころか誰からも気にされないような人生だった。

 それを考えれば、今の状況は天と地ほど違う。


 ……とはいえ。


 (俺は別に、有名になりたいわけじゃないんだけどな)


 俺がここに来た一番の目的は、学園で無双することでも、貴族たちに実力を見せつけることでもない。

 ――シャロンを助けること。


 それだけだ。


 王都へ来て、学園へ入学して、魔術の知識を得る。

 そして、この国のどこかに潜んでいるシャロン誘拐犯の正体を突き止める。

 そのために、俺はここへ来た。昨日までの授業や模擬戦は、あくまでそのついでに過ぎない。


 ……まあ、結果的にかなり派手なことになってしまったわけだけど。


 「ルイス様?」


 隣から声がした。振り返ると、ニアが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

 黒い猫耳が、ぴこっと小さく動いた。


 「どうしたのかにゃ? さっきから難しい顔をしてるにゃ」

 「ああ、ちょっと考え事をしてただけだよ」

 「もしかして、シャロンさんのこと……?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は少しだけ表情を引き締めた。


 「うん」


 やっぱり、ニアには隠す必要はない。

 彼女もまた、シャロンとは幼い頃から一緒に過ごしてきた仲だ。


 「そろそろ、本格的に調べようと思う」

 「……私も手伝うにゃ」


 即答だった。迷いも、戸惑いもない。

 その金色の瞳には、まっすぐな決意が宿っている。


 (本当に、ニアには助けられてるな)


 俺は小さく笑った。


 「ありがとう。じゃあ、今日は図書室へ行こう」

 「図書室?」

 「ああ。この学園には世界中の魔導書や歴史書が集まってるだろ?」

 「うん、そう聞いたにゃ」

 「だったら、シャロンを連れ去った連中について何か記録が残っている可能性がある」


 特に調べたいのは――


 古代魔術。歴史。王国の地下組織。

 そして、南方の黒の砂漠(ブラックデザート)。


 今のところ、敵について分かっていることはほとんどない。

 高度な隠蔽魔術を使っていた。護衛の騎士たちを一瞬で無力化した。


 そして、何より不可解なのが――


 なぜ、シャロンだったのか。

 単純にアークライト家へ嫌がらせをするだけなら、もっと別の方法がいくらでもある。

 父上や母上を狙う。領地の重要施設を破壊する。魔石鉱山を襲う。

 俺を狙ってもいい。


 なのに、犯人はわざわざシャロンだけを連れ去った。


 (……絶対に何か理由がある)


 それを突き止める。俺は拳を軽く握った。


 「行こう、ニア」

 「はいにゃ!」


 ◇


 俺たちが向かったのは、学園中央部にある巨大な図書館――


 【星詠みの大図書室】だった。


 初めて訪れたときにも思ったが、とにかく広い。

 入口からして普通の建物とは桁違いだ。

 高くそびえ立つ天井。何十メートルもある吹き抜け。壁いっぱいに並んだ本棚。


 そして、その本棚の間を小さな魔導装置が静かに飛び回っている。


 (これだけの本があれば、何か一つくらい手掛かりが見つかってもおかしくない)


 王立魔法学園は、アルカディア王国最高峰の教育機関だ。

 当然、ここに集められている情報量も桁違い。

 王国史だけでも数千冊。魔術理論なら、その何倍もある。


 さらに、一般公開されていない禁書や秘術関連の資料まで存在するという。


 問題は――


 「禁書庫か……」


 俺は図書室の奥にある巨大な扉を見る。重厚な黒い扉。

 表面には何重もの封印魔術が刻まれている。普通の生徒は、当然立ち入り禁止だ。


 (まあ、予想はしてたけどな)


 シャロンの事件を調べるなら、むしろ普通の本だけでは足りない気がする。

 こういう重要な情報ほど、表に出ない場所へ隠されているものだ。


 俺は受付カウンターへ向かった。


 「すみません」

 「はい。どうしましたか?」


 司書らしい女性が顔を上げる。


 「古代魔術と、王国の建国以前の歴史について調べたいのですが」

 「閲覧でしたら、一般書架の範囲であれば自由に利用できますよ」

 「禁書庫の資料は?」


 その瞬間。

 司書の表情がわずかに硬くなった。


 「……禁書庫は、生徒には許可されていません」


 (やっぱりか)


 俺は心の中で小さく唸る。さて、どうするか。

 王女殿下の権限を借りるという手もある。父上に連絡してもらう方法もある。

 でも、できれば俺自身で情報を集めたい。


 なぜなら――


 (誰かに相談すると、その分だけ情報が漏れる可能性がある)


 敵がどこまで王国内部に入り込んでいるのか分からない以上、慎重に行動する必要がある。

 そこで俺は、いつものように【万能鑑定(オールアプレイザル)】を発動した。


 対象――司書。


 視界の中に、無数の情報が浮かび上がる。


 【ミレーユ・セレス】


 ・年齢:28歳

 ・職業:王立魔法学園・第一級魔導司書

 ・魔力:B

 ・所属:星詠みの大図書室

 ・性格:几帳面、仕事熱心

 ・現在の懸念:禁書庫資料の整理

 ・最近の閲覧履歴:古代王国史、古エルフ関連資料、黒の砂漠関連資料


 (……黒の砂漠?)


 俺は思わず目を細めた。そして、さらに鑑定を深くする。

 すると――


 【最近閲覧した資料】


 『王国成立以前の異民族交流記録』

 『古エルフ族と人族の血統史』

 『南方黒砂漠・古代遺跡群調査記録』

 『封印指定遺物・分類目録』


 (なんだ……これ)


 偶然にしては、出来すぎている。

 俺が今まさに調べようとしていた情報と、ほとんど一致している。

 しかも――


 『アークライト』


 という単語まで履歴に残っていた。


 (……まさか)


 心臓が、ドクンと一度だけ大きく鳴った。

 シャロンの誘拐。アークライト家。古エルフ。黒の砂漠。封印遺物。


 まだ全部が一本の線で繋がっているわけじゃない。


 でも――


 確実に、何かが重なっている。


 「……その資料、僕も見ていいですか?」


 俺はできるだけ自然に尋ねた。司書の女性は少し驚いた顔をした。


 「どの資料でしょう?」

 「『王国成立以前の異民族交流記録』です」


 ピクリ。彼女の眉が動いた。


 (……今の反応)


 俺には、それだけで十分だった。何か知っている。


 「その資料は、かなり古いものです。なぜ興味を?」

 「歴史に興味があるんです」


 当然、これは半分嘘だ。歴史そのものに興味がないわけではない。

 でも、今はそれ以上に――


 シャロンの事件と何か繋がっていないか、それが知りたい。

 そのとき。


 「その資料なら、私も探していましたわ」


 背後から声がした。俺とニアが同時に振り返る。

 そこに立っていたのは、

 金髪のツインテール。緋色の瞳。

 高貴な雰囲気をまとった第一王女、エレノアだった。


 「エレノア様……?」


 ニアの猫耳がぴくっと動く。

 王女は少しだけ気まずそうに視線を逸らした。


 「べ、別にあなたたちを追いかけてきたわけではありませんわ!」


 (出た。相変わらずのツンツン王女だ)


 俺は思わず苦笑した。だが、次の瞬間。

 【万能鑑定(オールアプレイザル)】が発動する。


 【エレノア・フォン・アルカディア】


 ・状態:集中、知的好奇心、わずかな緊張

 ・目的:古代魔術と王国史の自主調査

 ・精神状態:『昨日の敗北は悔しいわ……。もっと強くならなければならないと!!』

 『それに、ルイスは何か大きな目的を持っている気がするわ……』


 (なるほど)


 昨日の模擬戦で負けたから、ただ悔しがっているだけじゃない。

 自分なりに勉強を始めたらしい。俺は少しだけ感心した。


 「エレノア様も、この資料を?」

 「ええ。古い魔術体系について調べていたのですが……」


 エレノアは一冊の本を抱えていた。俺はその表紙を見た瞬間、息を止めた。


 『南方黒砂の異端事件・初期記録』


 (……黒砂?)


 俺はエレノアを見る。


 「それ、見せてもらえますか?」

 「え? え、ええ……構いませんけど」


 本を受け取る。表紙はかなり古い。

 角は擦り切れ、革張りの表紙には不思議な紋章が刻まれている。


 俺はページをめくった。

 最初のほうは、数百年前に起きた魔族との小競り合いについて書かれている。


 だが、中盤に差しかかったところで――


 俺の指が止まった。


 『黒の砂より出現した集団は、姿を隠す特殊魔術を使用』

 『目的は不明』

 『特定の血統を持つ者を優先して確保している可能性あり』

 『古代遺物を守護する一族と深い因縁を持つものと推測』


 (……特定の血統)


 背筋が冷たくなる。まだ確定じゃない。

 でも、シャロンの件とあまりにも似ている。俺はさらにページをめくった。


 そして――


 見つけてしまった。古い挿絵。

 その中央に描かれていたのは、一つの紋章だった。

 剣。その背後に広がる翼。周囲を囲む、三つの小さな星。


 俺はそれを見た瞬間、言葉を失う。


 (……アークライト家の紋章と似ている)


 完全に同じではない。けれど、明らかに共通する意匠がある。


 「どうしましたの?」


 エレノアが不思議そうに尋ねる。


 「……いや」


 俺は何でもないように本を閉じた。

 だが、頭の中では凄まじい速度で情報を整理していた。


 (もし、この記録とシャロン誘拐が繋がっているなら……)


 敵は昔から存在していたことになる。

 しかも――

 アークライト家そのものを狙っている可能性が高い。

 ということは、シャロンが偶然巻き込まれたわけじゃない。

 最初から、狙われていた?


 (でも、なぜシャロンなんだ?)


 ここが分からない。

 血統。遺物。古代エルフ。そして黒の砂漠。

 全部が繋がっているようで、肝心な部分がまだ見えない。


 そのときだった。


 ――カタン。


 どこからか、小さな物音がした。俺たちは同時に振り返る。

 図書室の奥。禁書庫へ続く通路。


 そこに一瞬だけ黒い影が見えた。


 「……誰?」


 俺が声をかける。返事はない。

 俺はすぐさま【万能鑑定(オールアプレイザル)】を発動した。


 (何も見えない……?)


 正確には、見えないのではない。

 鑑定結果そのものが、薄い靄のように弾かれている。


 (隠蔽魔術か!)


 シャロンが連れ去られた現場でも使われていたという、あの高度な隠蔽魔術。

 俺は一瞬で理解した。


 「ニア!」

 「分かったにゃ!」


 俺が駆け出すと、ニアもすぐ後ろから追ってくる。

 猫獣人の身体能力を全開にしたニアが、先回りする。

 しかし――


 「いないにゃ……!」


 通路には誰もいない。

 ただ、床に一枚の黒い羽根が落ちていた。

 俺はゆっくりとそれを拾い上げる。


 (……これは?)


 鑑定。


 【不明物品】


 ・材質:特殊魔力結晶を含む未知の羽根

 ・魔力属性:闇・空間

 ・付与術式:高度隠蔽

 ・残留思念:あり


 (残留思念?)


 俺は意識を集中させる。

 すると頭の中に、一瞬だけ映像が流れ込んできた。

 黒い砂。巨大な石造りの門。紫色の空。

 そして誰かの声。


 『……鍵は、まだ眠っている』


 そこで映像が途切れた。


 「……っ」


 俺は思わず息を呑んだ。ニアが心配そうに顔を覗き込む。


 「ルイス様? 今、何が見えたにゃ?」


 エレノアも後ろから駆け寄ってくる。


 「アークライト卿、これは一体……?」


 俺は黒い羽根を握りしめた。頭の中で、今まで集めてきた情報を整理する。

 シャロンの誘拐。高度な隠蔽魔術。謎の組織。古エルフ。アークライト家。黒の砂漠。古代遺物。


 そして「鍵は、まだ眠っている」という謎の言葉。


 (……『鍵』って何だ?)


 シャロンのことなのか。アークライト家そのものなのか。

 あるいは、別の何かなのか。まだ分からない。


 けれど、一つだけ確かなことがある。

 俺は今まで、敵について何も分かっていないと思っていた。

 でも違う。

 敵のほうから、少しずつ姿を見せ始めたんだ。


 「……ようやく、尻尾を掴んだ」


 俺は小さく呟く。シャロン。待っていてくれ。俺は必ず君を連れ戻す。

 それが、この学園へ来た俺の最優先の目的だ。そして俺は知らなかった。


 この日、図書室で拾ったたった一枚の黒い羽根が、

 やがてシャロンの隠された血筋。アークライト家が代々守ってきた秘密。

 そして王国そのものを揺るがす巨大な陰謀へと繋がっていくことを。

どうでしょう。これまでとはうってかわって真面目な話を書いてみました。次回もお楽しみに。。。

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