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翌朝、僕は指定された水属性の教室へと向かった。
一度折れかけた心だったが、愚かにも僕の胸の奥にはまだ淡い期待が残っていた。
(もし……もし筆記試験で圧倒的な成績を収められたなら。「平民でありながらここまで優秀だ」と評価されて、三年での早期卒業が認められるかもしれない)
諦めきれない執着を胸に教室のドアを開けると、そこにはひときわ目を引く人物が三人いた。
一人目は、淡い水色がかった髪と整った顔立ちを持つ男子生徒。 二人目は、黄土色の軽いウェーブヘアを優雅に指先で弄んでいる女子生徒。 そして三人目は――入学式で学年首席として壇上に上がり、「才氷様」と崇められていたあの白髪の少女だった。
周囲の生徒たちも洗練された容姿をしていたが、彼女の美しさは次元が違っていた。ただ容姿が秀でているだけでなく、他者を寄せ付けない冷徹な雰囲気を纏っており、教室の中でもどこか孤高の存在として浮いていた。
もっとも、貴族ばかりのこの空間で「浮いている」という意味では、平民である僕も同じだ。
僕には知り合いの一人もいない。周囲を見渡せば、すでに生徒たちは思い思いのグループを作って談笑していた。あの才氷様の周りにも、俗に言う取り巻きのような生徒たちが集まっている。
どこにも混ざれない僕は、一人静かに自席で本を広げた。
時が過ぎるのを待つようにページをめくっていると、教室の扉が開き、漆黒の髪を綺麗な三編みに結った女性が入ってきた。その威風堂々とした佇まいは、一目で教員だとわかる。
「エレキトリーネの生徒の諸君、おはよう」
静まり返る教室に、厳格な声が響き渡る。
「まず最初に、この学院への入学おめでとう。そして、ようこそエレキトリーネへ。我々は諸君を心から歓迎しよう。……私の名はサーラン・クロン。この水属性クラスの担任だ。魔法士としてのランクは6。
――何か不満がある者はいるか?」
圧倒的な覇気を放つ教師の登場に、教室の空気がピンと張り詰めた。
ランク6。それはこの世界において、明確な「強者」を意味する数字だった。
最高ランクが8、最低ランクが1。 魔法を使えるだけでランク1。ランク2は中級魔法の使用、ランク3は中級魔法の同時展開、ランク4は初級転移魔法の修得、ランク5は中級転移魔法と上級魔法の行使。そしてランク6に至っては、上級魔法の同時展開に加え、上級転移魔法の修得が条件となる。さらにその上のランク7では古代魔法を扱い、最高峰たるランク8は全ての魔法を無詠唱で同時展開する「神の使徒」――千年に一人現れるか否かの伝説的存在だった。
一般に、1から3が低ランク、4から5が中ランク、そして6から7が高ランクと分類される。 つまりサーラン先生の「ランク6」という数字は、中ランクと高ランクを隔てる巨大な壁を越えた証なのだ。目の前に立つ教師が本物の強者であることに、疑いの余地はなかった。
「不満はないようだな。では、この学校のルールについて説明する。授業は主に筆記と実技で構成され、その割合は筆記が三分、実技が七分だ。その他の細かな規則は存在しない。この学院は徹底した実力主義だ。ライバルたちをなぎ倒し、頂点へ駆け上がる――ただそれだけだ」
教師の冷徹な一言に、教室内の空気が一瞬で跳ね上がった。貴族たちの瞳に、血気と野望の火が灯る。 誰もが己の力を証明し、上へと登り詰める機会を求めてギラついている。
「では、まず最初に総合的な能力測定を行う。内容は筆記試験と実技、そして魔物との実戦だ。……先に実技テストから執り行う。準備ができ次第、校庭へ集合せよ」
そう言い残し、サーラン先生は踵を返して教室を去っていった。 さあ、僕の最初の試練が、いよいよ始まろうとしていた。




