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入学式の翌日。広い講堂には、クラス分けのための魔力測定と魔力特性検査を受ける生徒たちがぎっしりと列を作っていた。
ざわめく周囲からは、期待と誇りに満ちた声が耳を揺らす。
「俺は炎属性か! 担当、アルカス先生だわぁ。あの先生熱血すぎてちょっと嫌なんだけどな」
「ねぇ聞いた? あの才氷様、魔力測定で『894』を出したんですって! 当然A評価よ! 氷魔法が得意らしいから水属性のクラスね。水属性のクラスでは間違いなくトップ……ううん、この学院全体でも首位じゃないかしら!」
才氷様――昨日のあの子のことだろうか。
僕はふと、入学式で壇上に立っていた白髪の少女を思い出していた。 彼女はまさに高嶺の花だった。「可愛い」というよりは「整った美人」という形容がしっくりくる。誰も安易に近づけさせないような、凛とした冷たいオーラを全身から漂わせていた。 腰あたりまで伸びた髪は降り積もる雪のように真っ白で、その深い海のような青い瞳には、思わず引き込まれてしまいそうになる。
そんな彼女の圧倒的な存在感に思いを馳せているうちに、僕の順番がやってきた。
「次の方、どうぞ」
まずは魔力測定。 測定値の最高得点は1000。一般的な貴族の平均が500前後と言われている。
「では、こちらの魔術具に手を添えてください」
試験官の指示に従い、水晶のような形状をした測定用の魔術具にそっと手を重ねた。器を満たす液体の量によって、体内の魔力量を測る仕組みだ。
透明な液体がぐんぐんと持ち上がり――そして、拍子抜けするほどあっさりと止まった。
「記録、413。平民としては非常に高い数値ですよ! 素晴らしいですね」
試験官は笑みを浮かべて褒めてくれた。だが、僕の心は冷たく凍りついた。
な……っ、そこら辺の一般的な貴族よりも下、だと……?
(いや、まだだ。僕には才能があるはずだ。魔力保有量は控えめでも、突出した魔法適性や複数属性で評価され、早期卒業を果たした先人もいたはずだ……!)
「続いて、こちらで魔力特性の検査を行います。この魔法石を強く握ってください」
「は、はい……」
すがるような想いで魔法石を包み込む。
(お願いだ……お願いだから、複数の属性を持っていてくれ……っ!)
余命のタイムリミットを抱えた僕の、必死の祈り。 だが、神様は残酷なまでに僕の願いを聞き入れてはくれなかった。神はそれほど僕のことが好きじゃないみたいだ。
「水属性ですね。後日、水属性クラスでの授業案内が届きます」
「……わかりました」
「大丈夫ですよ、スピネルくん。水属性は応用範囲が広く、様々な魔法が使えますから。勉学に励んでくださいね」
うつむく僕の様子を察したのか、試験官は優しい応援の言葉をかけてくれた。 けれど、今の僕の耳には、その言葉の何ひとつとして届かなかった。
(平均以下の魔力量に、希少でもなんでもない単一の水属性……)
主人公として歴史に名を残すはずだった僕の理想が、音を立てて脆く崩れ去っていくのを、ただ呆然と感じていた。
検査が終わって自宅に戻ってから、僕は何も考えられずにいた。
何よりも、両親に何と言えばいいのかがわからなかった。
「ヒーロー」だと僕を誇り、高価な制服や教材を無理して揃えてくれた二人。その期待を裏切る真実を、どうしても口にできなかった。
残された命の時間の大半を寮で過ごす決断をした僕に、両親は悲しみを押し殺して温かく許可を出してくれた。そんな二人の優しさに、申し訳なさで胸が押し潰されそうになる。
机に向かい、震える手で認めた両親宛の手紙は、上辺だけの優しい嘘で固められていた。それが自分自身の心を深く抉っていく。
『拝啓 お父さん、お母さんへ
僕は無事入学式を終え、学校に入学できました。 初日に行った魔力測定と魔力特性の検査では、検査員の人にすごく褒められたよ。 僕の適性は水属性で、とても汎用性の高い属性みたいです。 これから学校でも精一杯頑張ろうと思います。 スピネルより』
* * *
翌朝、僕は指定された水属性の教室へと向かった。




