第3話
《受付嬢 アンジェリカ・ダ・ベント》
――え?
――何だ今の?
――もしかして、あの嬢ちゃんがガウリンを倒したのか?
冒険者たちが我に返っていく。
やがて、
――うおおおおおおっ
――すげぇぜ嬢ちゃん!
――やるな!
――見ててスカッとしたぜ
冒険者たちが幼女を称賛しはじめる。
ガウリンは実力はあるものの、横暴な性格のせいで疎まれていたのだ。
だが、身の丈3メートルのCランク冒険者に敵うものなど、このギルド支部にはいなかった。
そう、今日までは。
(何この子、何この子何この子何この子!?)
幼女がニカッと男前に微笑んでみせた。
アンジェリカの目には、幼女の姿が輝いて見える。
(カッコいい~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ! あんなに小さくてあんなに可愛くてあんなに綺麗なのに、ガウリンさんを一撃で倒せるほど強いなんて! まるで絵物語のヒロインみたい! 最っっっ高! 最高最高最高!)
ひとしきり感動してから、アンジェリカはようやく我に返った。
あの幼女はガウリンに殴りかかられたのだ。
怪我をしていないか、確かめる必要がある。
「あ、アナタ、大丈夫!?」
アンジェリカは幼女のもとに駆け寄る。
「私は、ね。でも」
幼女が、芝居がかった仕草で肩をすくめてみせる。
「この子猫ちゃんは介抱が必要なようね」
「……ぷっ。ふふふっ、ギルド支部ナンバーワンのガウリンさんを子猫ちゃん呼ばわりだなんて」
アンジェリカは笑いが止まらない。
冒険者たち同様、アンジェリカ自身も内心スカッとしていたのだ。
「それにしても、こんな大きな剣をどうやって振るったの? その細腕に、それほどのSTR値(腕力)が秘められているようには見えないのだけれど」
「ご覧のとおり、STRは最低値よ」
幼女が腕まくりをしてみせる。
白く細い腕で力こぶを作ってみせようとするが、プニプニの二の腕がさらにプニプニになるだけだった。
「じゃあ、どうやってこんな大きな剣を?」
「企業秘密」
不敵に笑う幼女。
アンジェリカはもう、たまらない。
この幼女は、『潤い』だ。
無味乾燥で辟易していた人生に湧いて出てきた、最高級の『潤い』。
アンジェリカは幼女に夢中になっていた。
(この子のことが知りたい。この子の秘密を暴きたい!)
アンジェリカはアリソンに問いかける。
「私は受付嬢のアンジェリカ。アナタのお名前は?」
「アリス・アリソン」
「家名持ち? 名のあるお家の生まれなのかしら?」
「別に。ただ、そういう設定にしただけよ。ロールプレイングね」
「設定? ろーるぷれい……? それってどういう……」
アンジェリカが幼女アリスとの会話に夢中になっていると、奥から筋骨隆々の大男――ギルドマスターが出てきた。
「おいおい、何の騒ぎだ、こりゃあ?」
「あっ、すみません、ギルドマスター。Cランク冒険者のガウリンさんが少々暴れられて、それをこのお嬢さんが止めてくれたんです」
「はぁ? こんなちっこい嬢ちゃんが、このくそでかワータイガーを?」
当の幼女アリスは相変わらずの物怖じしない立ち居振る舞いで、ギルドマスターに微笑みかけている。
「で、嬢ちゃん。お前さんは何しにここへ?」
(あっ、そうだった)
アンジェリカはハッとなった。
そういえばこの幼女、『ギルド認定冒険者』と言っていなかったか。
「アリスちゃん、冒険者になりたいの?」
「ええ、そうよ」
アリスが胸を張った。
幼女のくせに、仁王立ちがものすごく様になっている。
「なら、試験を受けてもらわなければならないのだけれど……」
アンジェリカは、困る。
試験官はCランク以上の冒険者が務めることになっているからだ。
当のCランク冒険者は今、ひっくり返って目を回している。
「アンジェリカ」
とギルドマスター。
「お前、この嬢ちゃんがガウリンを『止めた』って言ったよな。そりゃどういう意味だ? まさか、このくそでかい得物でか?」
「はい。このお嬢さん――アリスさんが【アイテムボックス】からこの大剣を取り出して、ガウリンさん目掛けて抱え込むようにして振り下ろしたのです。しかも、手加減するために峰打ちで」
「ふうむ」
ギルドマスターが大剣を見て、アリスを見て、
「嬢ちゃん、この剣に触ってもいいか?」
と聞いた。
「いいわよ」
「それじゃ失礼して――ふんぬっ」
ギルドマスターが大剣の柄を両手でつかみ、剣を構えようとする。
「ふぬぬぬぬぬぬっ」
顔を真っ赤にさせるほど踏ん張って、ようやく剣を構えることができた。
――ズゥウウン……
「はぁっ、はぁっ。馬鹿みてぇに重たい剣だな」
(ギルドマスターは、現役時代はBランク冒険者だったのよ? しかも、STR自慢のファイターだった。引退したとはいえ、そんなギルドマスターですら満足に振れないほど重いだなんて!)
「嬢ちゃん、この剣、構えてみせちゃくれねぇか」
「できないわ」
アリスが胸を張りながら、堂々と言い放つ。
「どういうことでぃ?」
「だって、STR値が足りていないもの。私の細腕じゃ、こんなに重たい刀、持ち上げられるはずがないじゃない」
「だったら、お前さんはどうやってこの剣を振るったんだい?」
アリスが大剣に向けて手をかざすと、大剣が消えた。
彼女の収納魔法【アイテムボックス】の中に収納されたのだろう。
なるほど、彼女はこうやって得物を持ち運んでいるらしい。
「腕力がなくても、重力と遠心力があれば剣は振れるでしょう?」
「ほほぅ!」
ギルドマスターがうれしそうにうなずいた。
「お前さん、幼いくせに剣についてよく分かってやがるな。そのとおりだ。達人になればなるほど、剣を振るのに腕力が要らなくなる。ってことはお前さん、『あの値』に全振りしている口だな?」
「企業秘密よ」
「ふふっ、あーっはっはっ! 将来有望なガキだぜ。いいだろう、試験は合格だ」
「えっ?」
アンジェリカが驚き、
「ふぅん」
アリスがニヤリと微笑んだ。
「そりゃそうだろう。唯一の試験官であるガウリンを、嬢ちゃんはこうしてノしちまったんだ。ガウリンに油断があったにせよ、ガウリンを倒せるほどの実力者ってことには違いない」
「それは、確かにそうですね。それではさっそく、冒険者証を発行しますね。Fランクですか? いえ、実力を鑑みれば、飛び級でEランクが適正かも――」
「いや、Cランクだ」
「C!? そんな異例――あっ」
アンジェリカは気づいた。
(この人、アリスちゃんをダシにする気だ!)
「ガウリンは最近、『おごり』が過ぎていたからな。この支部にも同ランクの冒険者が生まれたとなれば、自分を鍛えなおそうとか性根を正そうという考えが浮かぶかもしれないだろ?」
(こんないたいけな幼女を利用するなんて、ギルドマスターも人が悪い……でも、この子ならガウリンさんに絡まれてもはねのけられるのは確かね)
実際ギルドとしても、ガウリンの増長は悩みのタネだったのだ。
アリスには悪いが、ギルドマスターの采配は妙手と言える。
(その分、私がアリスちゃんの面倒をしっかり見てあげよう!)
アンジェリカはアリスの前でしゃがみ込み、彼女に視線を合わせた。
「ようこそ、アリス・アリソンさん。今日からアナタは、Cランク冒険者です。アナタのことは私がしっかりサポートしますから、一緒に頑張りましょうね!」
「ええ、よろしく頼むわ」
アリスが手を差し伸べてきた。
アンジェリカは、その手を握り返す。
その手の小ささに、そして不敵に微笑む幼女の包容力の大きさに、アンジェリカは頭がクラクラするほどの快感を覚えた。
(ああっ、アリスちゃん最っっっ高にカッコ可愛い~~~~~~~~~~~~~~~~っ!)
この日、アンジェリカに『推し冒険者』ができた。
「んふふ……アリスちゃん、冒険者証を作るために、まずはステータスを測定しましょうねぇ」
アンジェリカはアリスの手をぎゅっと握りしめたまま、幼女をギルドホールの奥へと案内する。
冒険者証を作るためにはまず、対象者のステータスを調べる必要がある。
そして冒険者ギルドには、対象者が手をかざしただけでステータスを丸裸にできるマジックアイテムが置いてあるのだ。
(ふっ、ふふふふふっ! これでアリスちゃんの秘密を暴ける。この小さなおててであの大剣を振り下ろすことができたという謎を、解明することができる!)
アンジェリカはアリスの小さなおててを石板――ステータス看破のマジックアイテムの上に乗せた。
石板に、アリスのステータスが浮かび上がってきた。
(STR(腕力)は、本人の申告どおり最低値。けど、このステータスは……え? えええっ!?)
アンジェリカはびっくり仰天した。
大剣を振り回す新人幼女冒険者アリス・アリソンが、あまりにも異常なステータスをしていたからだ。




