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第17話

《セス辺境伯の娘 セシル・セス》



 翌朝、セシルはアリス、マオと一緒に西の森を歩いていた。

 大山脈から下りてきたモンスターが多数潜んでいるという、森だ。

 森を奥へ奥へ進んでいくことしばし。


「……アリス様」


 斥候役として先頭に立っていたマオが、鼻をヒクヒクさせて立ち止まった。


「敵?」

「ゴブリンが3体。あの茂みの向こうです」

「気づかれてる?」

「恐らくは」

「ありがとう。いい子ね」

「! え、えへへ……」

「作戦は、こう。最初に私が飛び出して、1体を倒す。と同時に、残り2体の注意も引く。相手がひるんでいる隙に、マオは死角から1体を倒しなさい。相手にするのは1体だけでいいから、落ち着いて、確実に倒しなさい」

「分かりました」


 あの茂みの向こうに、モンスターがいる。

 セシルはもう、恐怖で心臓がバクバクしている。


「わ、私はどうすれば!?」

「しーっ、静かに」

「ご、ごめんなさい」

「初めての実戦だもの、怖いのは当然よ。でも大丈夫。アナタのことはちゃんと私が守るから」


 アリスのイケメンな笑顔に、セシルは持っていかれそうになる。


「最後の1体を、私が峰打ちで弱らせるわ。セシルは弱ったそいつに向かって、剣を振り下ろしなさい。素振りと同じよ。昨日の訓練を思い出して」

「う、うん」

「行くわ」


 アリスが茂みの中に飛び込んでいった。


「【回転斬り】!」


 ――ゴブッ!?

 ――ゴブゴブッ!


 続いてマオが茂みに入っていく。

 遅れまいと、セシルは必死に続いた。

 とはいっても【重量魔法】は10秒ともたないので、魔法なしで大剣を運ぶかたちとなる。


「ふぅっ、ふぅっ……」


 ツヴァイハンダーを引きずりながら、やっとの思いで茂みの先に出た。

 開けた場所に、3体のゴブリンが倒れていた。

 そのうちの1体――セシルの目の前にいるその1体が、フラフラと立ち上がる。

 意識が朦朧としているのか、こちらのことがよく見えていないようだ。


(こいつが、峰打ちされた1体ってこと……?)


「セシル、そいつを斬りなさい!」

「う、うわあああああっ」


 アリスの指示に、セシルは無我夢中で剣を振り上げた。


(【重量魔法】! 【重量魔法・解除】!)


 ――ザシュッ!


 昨日、何百回も振るったとおり、セシルはツヴァイハンダーを振り下ろした。

 結果は、


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……す、すごい!」


 Eランクモンスターのゴブリンが、まるでチーズでも切るみたいに脳天から真っ二つになっていた。


 ――ドチャドチャッ


 分かたれた死体が、左右に倒れる。


「うっ……」


 セシルは吐き気を必死に飲み込んだ。

 セス辺境伯の存在意義とは、帝国の盾として『大山脈』のモンスターから帝国を守ること。

 その家の嫡子として生まれた自分が、モンスターの死骸を見たくらいでみっともないところを見せるわけにはいかないのだ。


 次の瞬間、セシルの体が薄っすらと輝きはじめた。

 レベルアップの兆候だ。


「セシル! 昨日教えたとおりに祈りなさい!」


(腕力が欲しい、STR値が欲しい、力持ちになりたい、ツヴァイハンダーを持ち歩けるようになりたい!)


 アリスに言われたとおり、セシルは祈った。

 数秒後、体の輝きが収まった。


「レベルアップしたようね。どう?」

「ええと……」


 セシルは肩を動かしてみたり、その場でジャンプしてみる。

 驚くほど体が軽い。

 全体的に、身体能力が向上している。


「もしかして」


【重量魔法】が切れてその場に取り落としてしまったツヴァイハンダーを、恐る恐る持ち上げてみた。


「おおっ、おおおおっ!? 【重量魔法】無しでもなんとか持ち上げられる!」

「ふふふっ。狙いどおりね」

「『レベルアップの恵み』が、全部STR値に入ったってこと?」

「冒険者ギルドで計ってみないと確かなことは言えないけど、概ねそのようね」


 もし仮に『恵み』すべてがSTR値に入った場合、セシルは一度に20ものSTR値を得たことになる。

 ツヴァイハンダーが軽くなったのも道理だった。


「どう、苦労なく持ち歩けそう?」

「ええ。身長の都合上、引きずっちゃうのはどうしようもないけれど、これならツヴァイハンダーをらくらく持ち運べるわ」

「よかったわね。じゃあ、次からはMP全振りでいきましょう」


 こうして、最強冒険者アリス・アリソンの庇護のもと、レベリングが開始された。

 空が赤くなるころには、セシルのレベルはベテランEランク冒険者相当の15に達しており、最大MPは2,000になっていた。





   ◆   ◇   ◆   ◇





 さらに数日、セシルはアリス、マオとともに森にこもった。

 レベルはCランク冒険者相当の50――つまり先日までセス領最強冒険者だったガウリンと同等水準にまで達し、MPは6,000を超えていた。

『【重量魔法】剣術』で100秒間戦えるだけのMPである。

 他のステータスも理想的な上昇を見せている。

【重量魔法】なしでも剣を運搬できるだけのSTR値、そして戦闘中に立ち回るためのAGI値や剣を自在に操るためのDEX値を手にした。


 どこに出しても恥ずかしくない、剣士になっていた。

 数日前まではうじうじ悩んでメイドたちの目を盗んで家出もどきを繰り返していた不良貴族娘が、ものの数日で超一流の剣士になってしまったのだ。

 今やセシルは、単独でゴブリンの群れや、オークの集団、果てはオーガすら狩れるようになっていた。

 アリスほどとは言えないまでも、ガウリンよりも強くなったのは確実だ。


 そうして、今。

 セシルは、オークの集団を蹴散らしていた。


(まるで翼が生えたみたい!)

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