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第16話

《セス辺境伯の娘 セシル・セス》



 半日後――。


「1・2・3・4……す、すごいっ! 私、ツヴァイハンダーを振ることができてる!」


 そこには、ツヴァイハンダーで素振りしているセシルの姿があった。

 セシルは自分でも驚いている。


「セシル、アナタ、筋がいいわね」


 アリスがニッコリと微笑む。

 マオをたらし込んだのと同じ笑顔だ。

 要注意だ、とセシルは警戒する。

 この幼女には、天然人たらしなところがある。


 いや、今は剣のことだ。

 セシルは姿勢を正し、


(【重量魔法】!)


 脳内でさっと詠唱する。

 すると、ツヴァイハンダーが羽根のように軽くなった。

 セシルはツヴァイハンダーを上段に振り上げ、


「5!」


 振り下ろした。

 と同時に、


(【重量魔法・解除】!)


 剣から奪った重量を、剣に戻した。

 2倍の重さになったツヴァイハンダーが、ものすごい勢いで振り下ろされる。

 その剣先が地面にめり込む寸前で、


(【重量魔法】!)


 再び剣を軽くした。

 以下、繰り返しである。


「うふ、うふふふふ……大剣を振るう幼女の姿って、やっぱり最高ね!」


 アリスが頬を染めながらクネクネしている。

 セシルはそんなアリスのことが、少し怖い。


「振り下ろしの威力は、【重量魔法】の『溜め』時間に比例するわ。最大溜め時間は9秒だから、戦闘中に正確に9秒をカウントできるようになる訓練も必要ね」


 10秒経過すると、セシルは魔力枯渇でぶっ倒れてしまうからだ。


「6・7・8・9……うっ」


 10回目の【重量魔法】を使おうとしたとき、強烈なめまいと吐き気を感じた。

 魔力枯渇だ。

 セシルはツヴァイハンダーを取り落としてしまう。


「魔力が枯渇した場合は、何分で全回復するのかしら?」

「うっぷ……以前、家の時計で計ったときは、10分くらいだったわよ」

「つまりアナタのMPは600くらいってことね。ツヴァイハンダーを1秒保持する、または1回振るうたびに、約60のMPを消費する計算になる」

「ずいぶんと大食らいな剣術ね」

「そうでもないわよ。私なんて、剣を1回振るうのにMPを200も使うもの」

「ええっ、そうなの!? そんなのでもBランクモンスターに勝てるのなら、私にも強くなる余地はありそうね」

「そういうこと。これからレベルを上げていけば、最大MPも伸びていくでしょうしね。アナタ、レベルは?」

「あのねぇ。他人の――それも貴族のレベルなんて、軽々に聞くものではないわよ」

「教えてくれないの?」

「……6だけど」

「あら、その歳にしては高いほうじゃないの。どうやって上げたの? 魔法の特訓をしまくったとか?」

「モンスターを退治したのよ」

「アナタが!?」

「お父様と領軍のモンスター討伐に同行させてもらって、弱らせたモンスターのトドメを譲ってもらったの。貴族界隈じゃ珍しくもないやり方よ」

「なるほど」

「そういうアナタはいくつなの?」

「99よ」

「きゅっ……!?」


 セシルはおったまげたが、同時に諸々納得した。

 いろいろと規格外な幼女だと思っていたが、文字どおり規格外だったわけだ。


「……な、なるほど。アナタならセス領どころか、世界すら支配できそうね」

「興味ないわよ、そんなの」

「……でしょうね。うらやましい話だわ」


 セシルは苦笑する。

 アリスが首を傾げた。


「それにしても。【重量魔法】で大剣を軽くするなんて……こんな簡単な方法、なんで思いつかなかったんだろう?」


 セシルは今まで、父と同じように重量を敵に直接ぶつけることにばかり囚われていた。

 重量で直接攻撃することばかり考えていて、重量操作を他の何かに活用しようという発想が出てこなかったのである。

 それは父も同じで、だからこそセシルは父から落ちこぼれの烙印を押され、失望されてしまっていたのだ。


「まったく、うじうじ悩んでいたこの1年は何だったのよ」

「よかったじゃない」

「何もよくないわよ!」

「よかったのよ。若干6歳にして挫折を経験することができて、7歳でその挫折を克服することができたんだもの。羽ばたくための時間は、まだまだたっぷりあるわ」

「ふっ。確かにそうかもね。ねぇアリス、頼みがあるのだけれど」

「子分になれ、という頼み以外なら」

「私を、魔物の森に連れて行ってもらえない? レベル上げがしたいの。アナタが教えてくれたこの戦い方を、早くモノにしたい」


 アリスがニヤリと微笑んだ。


「いいわね。そういう前向きな女の子、大好きよ。アナタが剣士として成長したら、『ビッグ・ローリー』に招待したいくらい」

「びっぐろーりー? って何よ」

「私が近々立ち上げるつもりの、冒険者パーティー名」

「そんなっ、ズルいです!」


 マオが会話に割り込んできた。


「私も、アリス様のパーティーに入りたいです!」

「何言ってるの。マオはもう『ビッグ・ローリー』の一員よ」


 飛び上がって喜ぶマオ。


「といっても、現段階では『ポーターとして』だけどね。でもアナタは筋がいいから、遠からず戦闘も任せることになりそうね」

「光栄です!」

「さて、セシル」


 アリスがこちら――セシルのほうに向きなおり、


「今日のところはお帰りなさいな。辺境伯令嬢をこんな時間まで連れ回してちゃ、私が捕まっちゃうわ」


 と言った。

 剣に夢中で気づかなかったが、空が赤くなりはじめていた。


「でも、私には今すぐ力が必要なの。あの怪しい男を追い出すための力が――」

「明日、またいらっしゃい。そのときは、そんなヒラヒラのドレスじゃなくて、森歩きができる格好でね」

「!」


 セシルはぱぁっと微笑む。


「分かったわ! また明日!」

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