第15話
《セス辺境伯の娘 セシル・セス》
「「「「「11・12・13・14……」」」」」
アリス宅の中庭で、子供たちが素振りをしている。
振っているのは木剣――ではなく、反りがある東方風の『木刀』というやつだ。
「え、何? この子たちもポーターやるの?」
「ポーターはマオだけよ」
セシルの疑問に、アリスが答える。
彼女は子供たちの姿勢などを正してやりながら、
「でも、治安が悪いこの街じゃ、自衛の心得は必要でしょう? ……あっ」
「治安が悪くて、悪かったわね」
「事情が事情だから、仕方がないわよ」
「アナタが私の専属冒険者になってくれたら、こんな治安の悪さなんていっぺんに解決できるのにね」
「過大評価が過ぎる……。やっぱり、次期領主様が強さを見せて、領軍をしっかり指揮するのが正道だと思うわよ」
「それができないから、アナタに頼ってるんじゃない」
「それができるように、剣を教えてあげるって言ってるんじゃない」
「うぅ……だいたい」
セシルは地面に横たわるツヴァイハンダー――全長2メートル弱の大剣を指さして、
「こんなの、振れるわけないじゃない」
「振れますよ」
マオがツヴァイハンダーを軽々と持ち上げた。
「なっ!?」
セシルはおったまげる。
マオも、自分と同じくらいの小柄で細腕の幼女に過ぎないからだ。
だが、
「アナタ、その尻尾は?」
よく見ると、マオが尻尾でツヴァイハンダーを支えている。
2本の尻尾には、ただならぬ量の魔力が込められているように見える。
「1・2・3……」
マオが両腕と両尻尾でツヴァイハンダーの柄を保持して、素振りを始める。
「やっぱり筋がいいわね、マオ」
アリスがマオの姿勢の細かな部分を正す。
マオがうれしそうに、口元をモニョモニョさせる。
「腕と尻尾で何割ずつくらい?」
「9割が尻尾です」
「なら、いっそのこと尻尾だけで振ってみない?」
「そんなの、考えてもみませんでした。さすがはアリス様」
「おべっかはいいってば」
「お世辞などではございません。私は心からアナタ様のことを――」
「いいから」
猫耳幼女マオは、アリスに心酔しているようだ。
(まぁ、命を救われたんじゃ無理もないか)
「剣をっ、振ることはっ、できますがっ、体がっ、倒れてっ、しまいっ、そうですっ」
尻尾だけで素振りをしながら、マオがフラフラしている。
無理もない。
あのツヴァイハンダーは、10キログラムはするだろう。
「ちょっと下品かもしれませんが、こういう姿勢になってみれば……」
マオが猫のように四つん這いになった。
両手両足をぐっと踏ん張った姿勢で、尻尾でツヴァイハンダーを振ってみせる。
すると、驚くほど安定して剣を振るうことができるようになった。
「すごいすごい! いっそのこと、二刀流にしてみない?」
アリスが【アイテムボックス】から長大な刀を取り出した。
マオが片方の尻尾でツヴァイハンダーを、もう片方の尻尾でアリスの刀をつかみ、交互に素振りしはじめる。
「おお、おおおっ! できます、アリス様! 大剣でも二刀流ができます!」
「いいわねっ、いいわねっ」
珍しく、大興奮な様子のアリス。
「世界広しと言えども、こんな大剣で二刀流ができる剣士なんてそうそういないはずよ! 実戦経験とレベリングはこれから積まなくちゃならないけれど、アナタは将来きっと、とんでもない名剣士になれるわ!」
「え、えへへ。そうですか? ポーター兼従者として、アリス様の名に恥じぬよう精進します!」
「『双剣使い』……いえ、『双大剣使い』のマオの誕生ね!」
「~~~~っ!」
2人して感極まった様子のアリスとマオ。
こうして遠目に見ている分には、アリスも年相応の幼女のように見えなくもない。
マオの頭を撫でていたアリスが、くるりとこちら――セシルのほうを向いた。
「さ、次はアナタね。大剣を振るうことができるようになれば、DランクやCランクのモンスター相手に楽勝よ」
「あんな尻尾怪力のバケモノと一緒にしないでよ!? 扱えるわけないでしょ!?」
「まぁまぁそう言わず。騙されたと思って振ってみなさいな。マオ、悪いけどその剣をセシルに渡してあげて」
「はい、アリス様」
再びツヴァイハンダーを渡され、セシルはまたも剣の下敷きになった。
「持てるわけないって言ってるでしょぉおおおっ!?」
「でもアナタ、【重量魔法】が使えるんでしょう? ――あ、マオ、セシルが重量魔法を使えるのは、3人だけの秘密ね。子供たちにも言わないように」
「かしこまりました」
「セシル、【重量魔法】で剣の重さを軽くしてみなさいな」
「簡単に言ってくれるけど……【重量魔法】!」
セシルはセス家に代々伝わる血統魔法の【重量魔法】を発動させた。
ツヴァイハンダーが羽根のように軽くなる。
セシルは大剣を持ち上げることができるようになったが、同時にものすごい勢いで魔力が減っていくのを感じる。
めまいがして、目の前が真っ白になっていく。
魔力枯渇――MPがゼロになった際に引き起こる症状だ。
と同時、
――ズゥゥウウンッ!
重さが増したツヴァイハンダーがセシルの手から落ち、地面に深々とめり込んだ。
「……シル……セシル!」
「――はっ!?」
アリスに肩を叩かれて、セシルは自分が束の間、気を失っていたことに気づいた。
「……このザマよ」
血を吐くような心地で言う。
「由緒ある血統魔法と言ったって、使い手が使いこなせていないんじゃ、話にならないわよね」
「えーと」
アリスが口を開いた。
セシルは、続く言葉を覚悟した。
冷たい失望の言葉か、
もしくは寒々しいお世辞の言葉か。
「何秒もつの?」
だが、アリスの言葉は、そのいずれでもなかった。
「……へ?」
「だから、その【重量魔法】は、発動から強制終了まで何秒もつの?」
「え、えーと……」
予想の斜め上の反応に毒気を抜かれつつも、セシルはアリスの質問に答える。
「対象物の重量によるから、なんとも言えないわ」
「このツヴァイハンダーの場合は9.5秒?」
「どういうこと?」
「10秒弱でアナタは気絶した」
「そう、確かに魔力枯渇で【重量魔法】は強制解除されるわ」
「それだけあれば十分よ」
「どういう意味?」
「それよりも。この剣、本来の重量ではありえないくらい、地面にめり込んでるわ。どういうことか分かる?」
「あぁ、それは……」
セシルは説明する。
【重量魔法】は、ターゲットから重量を奪い取り、自身の魔力に吸着させる魔法だ。
自身の魔力が時間経過で枯渇した場合、その重量はターゲットに戻る。
つまり、ツヴァイハンダーにはツヴァイハンダーの重量×10秒分の重量が襲いかかったわけだ。
「なるほど。【重量魔法】を任意のタイミングで解除することはできる?」
「できるわよ」
「その場合も、戻って来る重量の法則性は同じ?」
「同じね」
「素晴らしい」
アリスがニヤリと笑った。
「ど、どういうこと?」
「セシル、アナタは超一流の大剣使いになれるわ。この私――斬馬刀使いのアリス・アリソンが保証する」




