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麻倉御鈴の剣道日記(あさくらみすずのけんどうにっき)  作者: フェリオ
IH剣道神奈川県予選大会
21/23

四強

卒論終わったあああああああ!

 今朝の真っ青な空とは打って変わり、薄っぺらい雲が何層も連なった、どこか寂しげな暗がりの中、混沌(こんとん)のベスト8戦が始まろうとしていた。初日には計16会場もあった窮屈すぎる世界は、いつのまにかただただだだっ広く、充満する殺気により()てついた世界へと姿を変えていた。


 「いよいよベスト8戦、ついにアイツ……。桃色パーマ野郎との戦いだな。」


 「はい…。」


 御鈴の震える手をすかさず両手で包んだ。


 「大丈夫。思いっきりやってしまえ。………でも、アイツは確かに怖いよな。私もすっごくそう思う。」


 ずっと下を向いていた御鈴がやっと、私に目を合わせてくれた。

 

 「でもなー御鈴!その気持ちはアイツもめちゃくちゃ感じてると思うんだ!」


 「……私が怖いっていう事ですか…!?」


 「おいおいおい。今更驚く事かー?なんなら御鈴の方が私は怖いんだからな?いやぁほんと、御鈴が仲間で良かったわぁ!」


 「そ、そんな!」


 「ほらほら、タスキ付けるから前向いて!」


 「はい!って話逸らさないでくださいよー!」


 「ははは!行ってこい!」


 「…行ってきます!!」


 御鈴の、あの天使のような笑顔を守ること。それが今の私に出来る唯一にして最大限の手助けであると信じて…。

御鈴の背中が段々と小さくなっていくのを、試合場からは少し離れた場所で見届けた。


 ベスト8戦は計4試合場を使って行われる。つまり、ベスト8戦には前半戦と後半戦があるという事だ。ちなみに、麻倉御鈴と妃帝露美亜の戦いは第4会場の後半戦にて行われる。


 「試合開始!」


 審判長の合図により一斉に試合が開始した。第1会場、第3会場では4シードの2人が大歓声の中暴れ回っていた。


 「(へぇえ。流石ここまで来ただけあるわぁ。上手く私に鍔迫り合いを持ち込ませないように制してるのねぇ。)」


 金森の得意な戦法に持ち込ませないこと。これが4強、金森(かなもり)出雲(いずも)への最も有効な対策であった。


 「(でもねぇ。対策される側の戦い方は知らんでしょぉ?)」


 金森とのベスト8戦に臨む秋山(あきやま)千穂(ちほ)は、ベスト8戦で金森と当たる可能性がある事がわかったその日から、彼女はずっと、金森との戦いを想定した上で、絶対に負けない為に、彼女に対しての完璧な戦法を研究し続けた。そして、この日までに編み出すことに成功した。その結果、たとえ4強である金森の力を持ってしても、鍔迫り合いに持ち込める可能性は0(ゼロ)になった。


 しかし……


 「(!!!???)」


 「(カラクリはわかるよぉ。腕をガッチガチに固めて固定してるんだよねぇ?しかも丁度鍔迫り合いに持ち込めない上の方でさぁ。でもそれじゃぁ私にゃ勝てないよぉ!)」


 金森は鍔迫り合いを武器にした選手だ。それは勿論のことである。が、そうであってそうではない。金森はただ単に「引き技」に長けた選手であって、鍔迫り合いは技を放つための、単なる手段の1つなのである。


 つまり…


 「小手あり!!2本目!!」


 金森は鍔迫り合いをせずとも、引き技を扱う事が可能であった。秋山の技を的確に受け切った金森は、直ぐさま腕をくるりと返し、肩の高さで固定された、普通に戦っているのでは絶対に捕まえることのできない「小手」に、強く刃を突き付けた。打つ角度、重さ、タイミング、そして声が上品に重なり、完璧に近い「引き小手(ごて)」として技を成立させた。その技によって生じた「音」は本当に気持ちのいいものだった。


 「(まだ…!まだ…!アレに気をつければまだ戦える!!)」


 「(あららぁ。だからさぁ、気をつけるだけじゃ勝てないんだってぇ。)」


 そして秋山はとてつもない圧を感じてしまった。…気付けば「灰色の悪魔」の手中にいた。恐怖に体を締め付けられた秋山にはもう、戦える力は残っていなかった。


 「面あり!勝負アリ!」


 あれだけ完璧な戦法を編み出して尚、結局は鍔迫り合いへ持ち込まれ、爽快な「引き面」で戦いは幕を閉じたのだった。


 試合を終え、面を外した金森は只今負かした相手である秋山がいる場所まで駆け寄った。


 「千穂ぉ。ごめんねぇ、あんまし試合後にかけていいような言葉じゃないけどさぁ。」


 秋山と金森は元々同じ中学校出身であり、かつての仲間であった。中学時代、秋山は女子でありながら部長を務め、更には主将として、みんなを堂々と引っ張っていく人間であった。そんなキラキラな秋山に対し、金森は大して光るものも持たない何処にでもいるような女子中学生で、試合中は鍔迫り合いでずっとくっついてサボっているというような、どちらかというと不真面目な人間だった。そのおかげか、高校生になって金森は、常人より何倍も鍔迫り合いに長けた選手へと成長を遂げてしまったのだった。


 「私の事すっごいみてたんだねぇ。中学の時もいっつも注意されてたよねぇ私。」


 「そうね。で、何が言いたいのよ?」


 「千穂さぁ、勝つ気あったぁ?」


 「は?あんまり調子に乗るなよ!?いくらあんたが強くたってn…」


 「そかぁ。ごめんねぇ。忘れて私のことなんかぁ。うん。お疲れ様ぁ…」


 怒りを妨げるように別れを告げた金森は、何処か寂しそうに次の戦いの舞台へ溶けて行った。


 「何なのよ…ふざけないでよ。絶対勝ちたかったに決まってるじゃない…!?」


 かつての仲間に、自分を見下したような声をかけられた悔しさと、本当はもっとやれる事があったのではないかと、自分以外にさえ悟られた醜さに、秋山は全てを投げ出したくなるような虚無感に襲われた。そして、もう二度と今日という戦いの日はやってこないと考えてしまった途端に、自分でも信じられないほどの涙が流れ出た。その時は最早、声を抑える事にしか専念出来なかった。そのため、付き添いの励ましの言葉も耳を通っていかず、ただ1人で絶望を重ねた。


 それと時を同じくして、4強桜(さくら)向日葵(ひまわり)八戸(やえ)美津子(みつこ)の戦いにも終止符が“撃たれ”ようとしていた。


 「(もうこの暴れ獅子、どうにかならないの!?)」


 「(はーはっはっはあああっ!!!)」


 桜は高らかに笑う。はっきりとした意識の中でただただ狂ったように笑い続ける。


 「(邪魔だああっ!!このドブネズミがあっっ!!)」


 膨れ上がる獅子の腕が、すっかり小さくなった鼠を跡形もなく蹴散らした。


 「面あり!勝負アリ!」


 桜の気迫に(おのの)いた八戸は、反射的に一歩退いてしまい、半ば暴走状態だった桜の刃は一瞬にして八戸の脳天を叩き割っていた。獅子に隙を見せたものは、なんであろうと喰われる運命(さだめ)なのだから。


 前半戦はこれにて終幕。これからは後半戦が休憩する間も無く開始される。


 そして遂に、ギャラリーが求めるビックカード同士の戦い、女帝、妃帝(ひみかど)露美亜(ろみあ)とダークホース、麻倉(あさくら)御鈴(みすず)の戦いが始まった!!!




次回が一番楽しい

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