天命
ベスト16戦終局
「御鈴。」
色んな思いが拮抗し、少しの間、沈黙が流れた。
「絶対勝てよ。」
「はい!行ってきます、あかりさん。」
御鈴がこの戦いに勝てば、ついにIH本戦に王手がかかる。相手は東陸学園、3年の山崎美穂だ。尖ったものは持って無いが、それ故の丸さが持ち味である、「正統派剣士」と言ったところだ。
「始め!」
「(御鈴の相手、思い切ったな…。)」
山崎は勝負するには程遠い場所まで離れた。御鈴の技が届かない間合いまで。
「(でもあれじゃ、相手も技を撃てないんじゃ…?)」
山崎はもの凄い速さで自分の間合いまで距離を詰め、渾身の面打ちを無防備の御鈴の頭部目掛けて放った。
「(嘘!?スカった!?距離が足りなかったのか!?やばい反撃が来る!)」
山崎は反射的に面を守る動作を行った。その動作と御鈴の動作にはタイムラグがあった。
「(よし!とりあえず一本だ!)」
「面あり!2本目!」
山崎は完璧に守ったように思えたが、御鈴の持つ脇構えの前では無防備も同然である。通常であれば技を打ち始めてしまえば、それの軌道を極度に変えたり、キャンセルすることは容易では無い。しかし、脇構えの場合は技を打ち始めてから技が成立するまでの動きが4倍程長くなる。そのため、技の軌道修正も途中中断も容易に行えるだけの余裕があるのだ。先程御鈴は、山崎が面を守るようにして持ち上げた竹刀を、その隙間を縫うように竹刀を返し、完璧な面打ちを決めてみせた。その返し度合いは手首だけにとどまらず、竹刀を持つ肩ごと、軟体動物のように竹刀を返した。そのため、元々予定していたその技は、打ち始めから全くもって違う技へと生まれ変わったのだ。
「(今のでも攻めきれないんじゃもう…)」
御鈴を打ち倒すためだけに考えていたプランが全くもって通用しなかった挙句、嘲笑うかのように反撃を受けてしまった山崎の精神は、一瞬にして粉々になった。その後山崎は中途半端な間合いに足を踏み入れた瞬間、御鈴の一太刀に遊ばれながら、ベスト32に散った。
「お疲れ御鈴。相手、間合いすごく遠かったね。」
「ですよね!?視界に長い間何も入ってこなくてちょっと焦りました!」
「でも、その後すぐ対応してたじゃん?流石だわ。」
「そうですね…。急でしたけど、身構えてたので!」
「あれ、でもよくあそこ竹刀返せたな。右側守るってわかってたのか?」
「ん?というと…?」
御鈴は少しの時間考えて、質問の意味を理解したように話し始めた。
「左足に動きが無かったので、左側を守る可能性は極めて低いと判断しました。と言っても、殆どの場合が右側を守る動作を見せるので、なんとなく予測できると思います!」
御鈴はやっぱり普通じゃないと改めて感じた。そもそも竹刀を返す動き自体が手間のかかる動作であり、突発的にできるような技では無いのだ。
「やっぱり、御鈴は違うわ。……次はアイツだな。やっぱり、強いと思うよ。あの桃色パーマ野郎。」
妃帝露美亜のベスト16戦の相手は、そこまで強くも無い一般剣士であった。それもその筈。彼女、相原ソレイユはとてつもない運だけで勝ち上がってきた選手であった。一回戦目は弱小校にてたった1人で部員として存在しているだけの人が相手で、たった二振りで勝負を決めた。2回戦目は時間ギリギリまで両者共々勝負を決め切れる技が無く、無駄な時間をかけてしまっていた。それを嫌に感じたのか、相手が普通よりオーバーな残心を決まっていない技にもかかわらず取ってしまい、場外。その前にも一度反則していた相手は2本目の反則を受け、反則勝ちという結果となった。1日目の最終戦である3回戦目は16シードとの戦いであった。筈だったが、当の本人はその前の試合で敗北し、その勝者との戦いであった。しかし、その相手は前の戦いで力を使い果たしたようでクタクタであり、適当に竹刀を振っていただけで勝ってしまった。続いて2日目となり、ベスト32戦。相手は強かった…はずだった。緊張のあまりテンパった彼女を一般的な面打ちで沈め、また勝ってしまった。そんなこんなで、中途半端な力の持ち主であったがベスト16戦まで登り詰めたわけだ。しかしこの運もここまでだった。
「面あり!勝負アリ!」
妃帝露美亜の圧勝でベスト16戦全てが終わりを迎えた。
「露美亜お疲れーー!このまま突っ走ろうね!!」
「ええ。にしても今の子、よくここまで来れたわね。なんだか呆気ないわ。」
「まあいいじゃん!一緒にインターハイ行こうね!頑張ろ!」
「ええ。」
「(その前に、貴女を喰ってからよ。麻倉御鈴!!!)」
次回 ベスト8戦




