反省
御鈴の3回戦
足の裏の生温かい感触、視界が派手に見えるくらいの大照明。遠くから聴こえる大歓声と近くから聞こえるギャラリーの声が混ざり合い、絶妙に嫌な感じを演出しています。自分の発する声は何処か遠くへ消えていくような、浮かんでいるような感覚、これが、これこそが「大会」というものなのでしょうか。一歩間違えばこの壮大な魔物に呑み込まれてしまいそうなくらい偉大で恐ろしいものなのだと、この時初めて分かった気がします。
「御鈴!いつも通りにな!」
「御鈴ちゃん、これ勝てば2日目だよ!なんかあれだけど本当に頑張って!」
「いつも通り!いつも通り!」
「はい!頑張ってきます!」
あかりさんは私が知らない間に負けてしまいました。ですので、私以外はもう皆んな負けてしまったという事になります。だから私は皆さんのためにも絶対に勝たなきゃいけないと、そう思いました。
「きた!麻倉さんの試合だ!」
「いやぁ、頑張ってほしいね!」
「御鈴頑張れー!」
「ん?呼び捨て?なにー?芽亜って麻倉さんと知り合いなの?」
「え!?いや、まぁ、はい。」
「嘘ぉ?いつからのよ?」
「ええっと…あ!始まりました!」
会場の雰囲気は完全に「麻倉御鈴頑張れムード」だった。それらの期待を全て背負い、麻倉御鈴という女は勇ましくその剣を振るう。
「面あり!2本目!」
麻倉御鈴はプレッシャーなんてものを全く持って感じてなどいなかった。彼女の目に映るものは最早、静止しているに等しい相手選手であって、それをただ単純に、無慈悲に、技を打ち込むだけの怪物と化していた。
「(なんなのこの子!!いつ打たれたのかも本当に解らないじゃない!今までの試合はヤラセじゃなかったってこと!?クッソ…っていうか、この子、試合中目も合わせてくれないの!?…なによ。私は相手として不足しているって…?)」
誰も相手にしたことも無く、そして洗練された「脇構え」の剣道は想像を絶する強さがあった。普通の人じゃ絶対に太刀打ちできるはずも無い。さらに言えば、麻倉御鈴という女はそれだけでは終わらない。
「(…!!!)」
「(また…!でも!!!)」
ただ一本。たった一本抑えただけで会場からは歓声が上がった。本大会で初めて「麻倉御鈴の面打ち」を受けることに成功したのだ。しかし、それも束の間。
「(はぁあ!?そんなんアリ!?)」
「面あり!勝負あり!」
抑えたはずの面打ちがまるで、軌道を変えたのかと錯覚するくらいの面打ちが即座に飛んでんきたのだ。竹刀で受けられた直後、180度手首を返し、この状況・状態からでは絶対に防ぐことはできない面打ちが休む間も無く放たれたのだった。「脇構え」という特殊な剣道形態の性質上、手首を返す動作が常人離れして卓越されている麻倉御鈴にしかできない荒技だ。
「日和お疲れー。こりゃ仕方ないね。団体頑張ろう。」
「うん。本当にね。涙も出ないわ。いやぁそれにしてもすっごい嫌な感じするよ?あの子と戦うと。何だろうね…全てを見透かされている感じがするっていうか。「!?」ってなる瞬間しか無いのよね。」
「なにそれ。よくわからないけどすっごい強いってことでしょ?」
「まぁそう。大体あってる。たださ…」
「なにー?あの子に勝つために色々考えてるの?まっさかねー。」
「それぐらいしか反省できることがないのよ。仕方ないでしょ?」
「はぁあ真面目ですなー。これで終わりだよ?私たちの個人戦。団体じゃ絶対当たらないし。当たりたくもないけど。」
「別にね。私じゃなくていいのよ勝つ人間は。わかるでしょ?呑気なあんたにも。」
「…そうね。そうだ。やらなきゃ。私たちでやらなきゃ。日和との試合は録画したから後で共有するね。」
「…明日、私は行くけど来る?」
「ええ、勿論。」
笛田高校3年、日向日和の戦いは決して無駄だったとは一概には言えない。この敗北に意味を持たせるのはその人次第なのだから。彼女は未来のスターにバトンを繋ぎ、夢の舞台への道標にこの試合が姿を変えるために抗う。終わりは始まりにすぎない。負けて終わりはごめんだと、日向日和は思うのだった。
これにて麻倉御鈴の2日目進出が決定した。残す試合も後わずか。この数少ない時間の中で生き残る選手は一体誰になるのだろうか。明日を掴むための戦いがついに終焉を迎える。
1日目終了か?




