最善
坂本あかり第2回戦
「(く!全然決めらんない!)」
氷川冷。桃園学園に通う3年生だ。私の相手は県立高校の1年生だ。の、はずなのに、技が上手く当たらない。さっさと一本決めて勝っておかないといけないのに。もっと早く、もっと多く仕掛けないと!
氷川は自分よりも格下である相手に時間にして2分以上も技を決めれていない事実に焦りを感じていた。その焦りによって技は雑に乱れ、さらに決まらなくなる悪循環に陥ってしまう。
「(雑に打ってくるようになったな。これは手を出すチャンスか?)」
これをチャンスであると思ってしまった坂本あかりは雑に乱れている氷川の面打ちに合わせるように面を打った。
「(うわ。やっちゃったな。)」
たまたまそのとき放たれた氷川の面打ちは不完全で伸びがなく、適正距離での攻撃としては絶対に成立しないようなものだった。しかし、そこにあかりが面を打ちに前に出て行った事により、通常では決まるはずのない面打ちが丁度適正距離に入ってしまい、綺麗な一本へと姿を変えてしまったのだ。
「(やっと一本取れた。とりあえず安心だ…。)」
単純な力量で見れば氷川の方が圧倒的に大きいのは誰が見てもあからさまだった。それ即ち、普通に打ち合った場合あかりが押し勝てるはずもなく、更には一本を取ったことにより氷川は冷静さを取り戻してしまい、あかりにはもう勝機は残っていなかった。
「(もう、返し胴に全てを賭けよう。)」
あかりは自分から打つ事を諦め、氷川の面打ちを誘うように竹刀の剣先が触れ合うところから自分の面をちらつかせた。その姿を見た氷川はあかりが格下であるからなのか、瞬時に適正距離へと潜り込み面を打ち込むに至った。
「(え、はんや。)」
思っていたよりも早い面打ちに技を受け切ることは出来ず、綺麗に面打ちを決められてしまった。坂本あかりのIH予選は2回戦目で幕を閉じたのだった。
「あかりちゃんお疲れ様。結構戦えてたね!すごいよ!」
「いや、途中までですよ。そういえば、御鈴はどうなりました?」
「まだだよ!あの試合終わったら御鈴ちゃんの試合だよ!」
その瞬間、急な歓声が上がった。目線の先には妃帝露美亜、優勝候補の1人の姿があった。
「あいっかわらずキレッキレの面打つねー!妃帝さんは!」
「相手、手も足も出ていなかったんじゃない?」
「そんだけ早いって事よ。で、もう1人気になる子が…」
「来た!麻倉さんの試合だよ!」
「…先輩達は先行っててください。面取ったら向かいますので。」
「おっけー!とりあえずお疲れ様!未来ちゃん行くよ!」
「あ…!はい!」
御鈴の試合会場に向かい走っていく2人の背中を見ながら余韻に浸る。
「(途中までは良かった…ってなんだ。途中から駄目になったのは何故?)」
あかりは泣かない。泣く暇があるならば、他の試合を見て吸収できるものを吸収しに行った方がいいに決まっているからだ。
「(そうか…私が弱いからだ。次はもっと強くなってもう一度…ってもう無理か。引退するもんな。にしても…)」
スースーする目を大照明に向けながら歓声が上がっている試合会場へと向かった。そこにはあかりが欲しかった物。「力」を体現した少女が、経験も体格も学年も、問答無用でバッサバッサと打ち倒す姿があった。
「(すっごいわ。やっぱすっごい。私が目指すものはあんなにも…!!)」
麻倉御鈴という女の剣道が、そう簡単に攻略できるはずもない。それぞれが背負った3年間の青春をまたしても彼女は、無慈悲にピリオドを打ちこんだ。まるで悪魔のようなルーキーの存在にギャラリーは釘付けとなり、その瞬間から主役であるはずの3年生は噛ませ犬へと成り下がる。誰しもが「当たらなくて良かった」と思いながら第3回戦の準備を進める。
「御鈴。お疲れ。次もタスキ白のまんまだからつけっぱなしにしておくねー。」
「あかりさんも白のまんまですね!おんなじですね!」
「おいおいー泣かすなよ。そういうのには…弱いんだよ…」
「え!ご、ごめんなさい!どうしたんですか!?」
「と、とりあえず!御鈴ちゃん次の試合も頑張ってね!次勝ったら明日残れるからね!」
「はい!頑張ります!」
溢れてしまう涙を零さないよう、遥か高い場所にある大照明に顔を向けながら、坂本あかり、梶本美柑の挑戦は幕を閉じた。ここからは明日への生き残りを賭けた激動の第3回戦が始まる。
―第2回戦終局
第3回戦開戦




