恐怖
美柑第2回戦
「美柑先輩頑張ってください!!」
「うん。絶対勝つよ。」
と言ったものの、県立平田高校2年の梶本美柑の2回戦目の相手は、本大会4シードの1人である県立矢嶋高校3年の金森出雲だ。そのため、美柑の力量では勝利することは難しいだろう。しかし、そうだとしても、弱気になる理由は美柑の中には微塵も無いのである。
「(金森さんのプレイスタイルは少し覚えてる。確か、鍔迫り合い(つばぜりあい)からの引き技が得意な人だったはず…!できるだけ鍔迫り合いに持ってかれないようにしないとだ…!)」
美柑の相手である金森出雲はお互いの竹刀を鍔を通じて押し合う「鍔迫り合い」を主として試合を組み立てる選手だ。鍔迫り合いに勝利し、相手の体を崩した瞬間に引き技を叩き込む戦法が得意である。この戦法はよく使われるものではあるが、金森出雲は突出して上手く、安定して技を決められる技量があるのだ。
「(早い!もう鍔迫り合いに持ち込まれた…!…腕が、上がらない…!)」
試合が始まってすぐに美柑が打った技を軽くいなし、金森は流れるように鍔迫り合いに持ち込んだ。
「(力を入れても腕が上がらない…!どうしよ、離れないと…!)」
そう思ったが最後、急に腕が軽くなったと思えば金森の鮮やかな引き面が炸裂する。時間にして30秒も経たないうちに美柑は1本を取られてしまった。
「綺麗な引き面だな。強いな、美柑先輩の相手。」
「う、うん。あとなんかちょっと怖いね…。」
「美柑先輩…!!」
「(はぁこの子、力つっよいなぁ。もう少しで押し上げられるところだったなぁ。でも、今のでエンジンかかってきたなぁ。)」
「始め!」
審判の合図で2本目が始まる。美柑はある程度間合いを取り、隙を伺っていた。が、すぐに異変を感じたのである。
「(!?アレって…ヤモリ…!?幻覚か何か!?)」
獣気、洗練された女剣士の覇気が動物の形となり可視化される現象。これは幻覚に近しいものがあり、恐怖心などの感情によってより大きく、よりはっきりと見えるようになる。
「(うっそ…気づいたら鍔迫り合いに持ち込まれてる…!!)」
「美柑先輩の相手、あそこから予備動作無しで鍔迫り合いまで持っていけるのか…すっごいな。」
「…(なんか大きい爬虫類?っぽいのが見えるのは気のせい…?)」
「美柑先輩…!!」
構えによる竹刀の攻防を放棄して一気に距離を詰め、一太刀も交わさないまま鍔迫り合いに持ち込んだ金森。そこから抜け出そうとするが、獣気に圧倒された美柑は戦意を喪失してしまい、体を崩され1本目と同じく「引き面」を打たれ敗北を喫した。
「美柑先輩お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」
「…お疲れー、いやーカッコ悪いところ見せちゃってごめんね!」
「いやいや。あれは相手が強かったとしか言いようが無いですよ。流石4シードって感じでした。」
「そうだね。すっごく強かった。正直手も足も出なかったよ。でもさ…」
それでも悔しかった。勝てないと分かっていても。
「うち、もっと強くなるから!」
「わ、私も!強くなります!」
「うん!未来ちゃん頑張ろっ!」
「じゃ、御鈴、先行くね。タスキありがと。」
「は、はい!頑張ってくださいあかりさん!」
私はポジティブ思考からは程遠い人間だ。それでも、美柑先輩があの時言った言葉は確かな重みがあった。私は言葉で語れるほどの思いも圧倒的な差をひっくり返すような力も無い。だからこそ、私が今持てる力をしっかり制御し、今できる事をただ実行する。次の戦いでそれができたならば、勝ち負けは関係なしに満足できる。次の相手は桃園の3年生。勝つことはまず不可能。ならば、やる事はただ一つ。
「(この試合、何が何でも4分耐え切る!)」
あかり第2回戦




