格上
大躍進の平田高校!
梶本美柑の初戦の相手は佐久間高校2年の山岸佳奈だ。同年代ではあるが美柑の方が実力的に格上なのは間違いない。
「面あり!」
試合開始直後、少々無理した間合いからではあったが美柑は勢いよく面打ちを放った。この技を山岸は受け切ることは出来ず、鮮やかな面が決まった。会場席とギャラリーからは歓声とともに拍手が上がる。
「凄いなぁ。あそこから届いちゃうんだもんな。」
「流石ですね!」
「…かっこいいなぁ!」
「未来が惚れている!美柑先輩に惚れちゃっている!」
「だって凄いんだもん!」
「この、拍手と一緒に歓声?のようなものが上がっているんですけど、これは…?」
「あー、この拍手と歓声はね、ある種のアピールみたいなものだな。歓声とか拍手の音量が大きければ大きいほど審判の中での優劣がつくわけだな。だから、自分の学校の選手とか、注目している選手には出来るだけ激しい応援をする訳だ。」
「優劣がついて、何か変わるんですか?」
「そりゃあな。審判の目線で考えたら、技が決まってるか微妙なラインでもそれを打った選手の方に応援が寄っていたのなら旗を上げちゃうもんなのよ。それのまた逆も然り。当たっている技でも旗を上げづらくなる。まぁ先入観ってやつだな。確か御鈴と美柑先輩が初めて戦った時もそうだったと思うぞ。」
「そんな…応援少ない人達が可哀想です。不公平じゃないでしょうか?」
「いーーや。そんな事は無いぞ御鈴。強いやつはちゃんと強い。な?未来。」
「うん!」
「どうして2人してそんな笑ってるんですか!?」
「はは。そうこうしてるうちに勝ったね。美柑先輩。」
美柑の2本目は得意の出小手。構えによる攻防の中、手を出すか出さないかの駆け引きに見事勝利し、相手が技を打とうと腕を持ち上げた瞬間、小手打ちを放つ技だ。この技は状況が優勢であればあるほど強い。この技の強い点はもう一つあり、もしこの技が決まらなくても「相手には出小手がある」という事実だけで、面打ちへの牽制となり、その後の試合展開を有利に進める事が出来る点だ。この技が得意であった美柑は去年の新人戦で、多くの強豪校の選手を打ち破り良い成績を収め、今では他校からも注目が集まる選手になった。
「お疲れ様でした!かっこよかったです!」
「ありがとう!みんなの応援のおかげだよ!次は未来ちゃんだね!」
「はい…!頑張ります!」
「未来さん頑張ってください!」
「未来、しっかり!」
「うん。頑張ってくる!」
「未来さんタスキつけますね!」
「うん!お願い!」
未来の相手は海原学園3年の臼井美咲だ。海原学園は県内でも5本の指に入るほど強い学校だ。つまり、強豪校の3年生であるため未来にとってはとてつもない強敵であった。
「梶本さんのあの感じだと、私の対戦相手は1年生か。」
「てことはうちの相手も1年生って事か!美咲がどれだけ追い込まれるか見ておかないとだなぁー。」
「はぁ、勝手に私を実験台にしないでくれる?」
「まあ、余裕でしょ!」
「はぁ。それはどうかな?」
第6会場、第4試合。平田高校1年藤巻未来と海原学園3年の臼井美咲の試合が開始された。未来は特有の甲高い声を上げながら、一心不乱に竹刀を振った。作戦を考えるだけの余裕も、実行に移す力もこの時の未来にはあるはずも無かった。それでも、一筋の光を求めて自分の本能のままに竹刀を振った。
「面あり!」
先手を取ったのは未来ではなく臼井だ。未来が果敢に攻める中、未来が放った全ての技をしっかり見切って受け切った臼井は、未来の攻撃が止んだ瞬間を見逃す事はなく、その時が来るや否や、鮮やかな面打ちを決めてみせた。
「未来ちゃん…!」
「未来!!相手しっかり見て!!」
「未来さん頑張って…!!」
3人の応援も虚しく、相手に一度向いた流れを止める事はできず、2本目に入って直ぐに未来は同じく面を決められてしまった。未来が負けた原因は経験ではない。剣道として劣っていた。ただそれだけのことである。
「未来さん…お疲れ様でした…!」
「相手強かったね。」
「私、もうすぐなので準備してきますね。」
「あかりさん、タスキ付けますね!」
「ありがとう。御鈴も上手くなったな。」
「いえいえ、あかりさんのおかげです!」
「ごめんなさい…ちょっと面外してきます。」
「うん。外し終わったら合流しようね。」
「はい…!」
あかりの相手は菊川高校2年の箸舞花。菊川高校は県立高校であるが、平田高校よりは格上である。そのため、あかりにとっても未来と同じように強敵である。
「私もそろそろ試合なので会場向かいます!あかりさんの応援、私の分もお願いします!」
「うん!御鈴ちゃんも頑張ってね!タスキ付けるね!」
「あ、私が付けます!」
「お!未来ちゃん!お疲れ様!お願い!」
「はい!頑張ってね御鈴ちゃん!!」
「…はい!頑張ります!!」
「(御鈴も試合そろそろか。私もしっかりやらないとだな。相手の技一つ一つをしっかり対処すればいつかボロが出るはず。そこを狙おう。…こりゃ長期戦になるかな?)」
「始め!」
第4会場、第7試合。平田高校1年の坂本 あかりと菊川高校2年の箸舞花の試合が開始した。
「(!?間合い遠いな。無理してくるか?それなら…)」
本日初の試合で緊張のあまり無理してしまうのは味方だけではない。相手もまたそうなのだ。これはほんの少しだけ、あかりの方が冷静であったために起こった必然的事象なのである。
「胴あり!」
あかりの面返し胴が決まった。返し胴は相手の面を頭上で受け、そこから技の名前の通り、手首を返し胴打ちに転じる技である。あかりは殆どこの技を練習したことが無く不完全なものではあったが、その技を放ったタイミングと間合いが完璧だったため、一本とならざるを得なかった。
「(こうなったら後はこの一本を守り切るか…いや、もう一本取りに行って速攻で終わらすべきか?)」
「2本目!」
2本目の合図の直後、箸は初太刀で勝負を仕掛けてきた。あかりは初太刀から飛んできた箸の面打ちに対応することはできず…
「(あっぶな。ぎりぎり一本にはならなかった。やっぱ守り抜くのが安全策だな。これが初太刀で本当に助かった…。)」
試合終了まで果敢に攻め続けた箸だったが、その全ての技をしっかり対処するのに加え、間合いの確保や追込みなどあらゆる手を尽くして時間を稼いだあかりは見事1本を守り抜き、勝ち星を上げた。
一方、あかりの試合が終わる少し前、会場の空気が変わった。なにやらざわつき始めたと思えば大歓声が上がり、ギャラリーの殆どが1人の少女の釘付けとなった。
「(麻倉御鈴…!!またまた変な武器持って私を倒しにきたのね。良いじゃない!!面白いわ。)」
「麻倉御鈴となぁ。今までこんな子いたかぁ!?」
「どうやら1年生らしいよ。名も無き1年生が海原の3年生に圧勝しちゃった…っていうね。」
「やっっぱり御鈴ちゃんすごおおお!ねえ!見た!?見た!?」
「うるさいよかもめ。先輩の試合始まるよ?」
「(御鈴…!!やっぱり続けてたんだ…!!)」
無名の1年生が名門海原学園の3年生に圧勝した事は瞬く間に会場全体に知れ渡った。無論、ただそれだけの事ならばそこまで騒がれる必要は無い。そう。誰もが予想だにしなかったその「構え」に会場全体の目は釘付けになり、海原学園の応援団の空気は完全に凍りついたのだ。
「実験台にされたのはあなただったわね。」
「美咲……。そうね。あは。涙も出ないわ。…これで終わりか。うちの剣道…。」
「なーーーに言ってんのさ。まだ団体があるでしょう?勝手に終わらないでくれる。」
「うん。ごめん…ありがとう…。」
堪えようと思っても堪えきれない涙と共に海原学園3年の原浩子の高校最後の個人戦は1回戦で幕を閉じた。これにて1回戦の全試合が終わり、次は2回戦目が始まる。この後の展開は誰も予想がつかない波乱の展開になるのでは無いかと観客席では密かに噂されている。
―1回戦目、終局。
次回 怪物現る。




